第9話「頑丈な建物」

 朝食中、俺は唐突にシャーリーに昨日のことを言った。


「そういえばさあ、昨日『鉄筋コンクリート』で出来た建物が建てられるようになったんだよ」


 何気ない話題のつもりでそう言ったのだがシャーリーはその話題に食いついた。


「その話詳しく!」


 そんなことを言われてもなあ……なんかスキルが進化したとしか分かっていないんだが……


「とにかく何か新しい建物を建てられるようになったって事だよ」


「それがどんなものかは知りませんが試してみる価値はありますね」


 そんなとりあえずやってみようみたいなノリでいいのか? いや、スキルの使用にコストがかからないのだから試してみるのは自由か。


「じゃあ庭に建ててみるか?」


「そうですね、でも……」


「でも?」


「まずは朝ご飯を食べましょう」


「それもそうだな」


 鉄筋コンクリート……鉄が使われているであろう事とコンクリートが使われていることは分かる。コンクリートなんて、王都のような大都市でしか使われていないがそんなものを建てることが出来るのだろうか? なんだかスキルがどんどん進化していっておおごとになりつつあるような気がする。鉄筋というのがどういう意味なのか測りかねるが、木造よりは頑丈だろう。


 朝食はパンと林檎だった。シャクシャクと切られた林檎をかじりながらスキルがどこまで進化するのだろうなどと考えた。どこまででも進化するというのならその先に何が待っているのかを考えると少し恐ろしくなる。


「ごちそうさま」


「ではお兄ちゃん! 早速鉄筋コンクリートの建物とやらを建てましょう!」


「分かったよ」


 庭に出て、出来るだけ広めの場所を探す、木造の小屋はスキルを使って破棄した。おそらく大きめの建物になるであろう事を予想してのことだ。


『鉄筋造りの建物を建築します』


 スキルを使用するとずももと地面からコンクリート製の建物が生えてきた。このスキルはいつ見ても非常識な光景だ。そして最終的には今住んでいる家より少し小さい建物が建った。


「すごいですお兄ちゃん! これは結構立派な建物ですよ! しかもガラス窓つき!」


 採光窓が付いているのだが、スキル側の配慮が行き届きすぎているような気がする。建物はちょっとやそっとではびくともしないようなごついものになっている。


「中に入ってみましょうよ!」


「あ! おい! ちょっとは注意を……」


「お兄ちゃんの作った者に危険は無いですよ!」


 俺への信頼が重い……どうしてそこまで俺を信用出来るんだ? 俺はただの変わったスキルをもらった変人だぞ?


 俺は妹の柔らかい手に引かれて建物のドアを開け中に入った。


「すごいです! 日がこれだけ差し込んでいるのに全然暑くないです! 井戸と給湯器も作ればここで暮らすことだって出来ますよ!」


 実際この建物の中は一般的な家屋と同じ作りをしていた。鍋をかけるところや、排水溝まで開いている。至れり尽くせりの快適な家になっていた。


「お兄ちゃん! 是非これを商売にしましょう! 結構な金額を取れますよ、なんたって家ですからね!」


「確かに家なら結構な金額が取れそうだな。でも普通の家との差別化とか出来るのか?」


「とりあえず空調は完璧ですね、暑くも寒くもありません。そしてこの剛性! 地震が起きてもびくともしないでしょうね。お兄ちゃん、家の間取りは変更出来ないんですか?」


『構造変更には再建築が必要です』


「どうかしましたか?」


「どうやら作り変えるには建て直しが必要らしい」


「逆に言えば簡単に建て直しができると?」


「やってみるか」


 俺たちは建物を出てスキルを使った。


『建築物を破棄します」


 ガシャンと建物が崩れて土に還った。一瞬のできごとであり、町作りどころではないインチキスキルなのではないかと思える。


「じゃあどんな建物を建てる?」


「お兄ちゃんと私の部屋とキッチンが必須ですね。お風呂は今の家に入りに行けばいいでしょう」


『建築物をイメージしてください……建築を開始します』


 再び地面からコンクリート製の建物が生えてくる。


「すごいですね! 何度見ても信じがたいスキルです」


 建築が終わったので二人で中に入ることになった。


 中は過ごしやすい温度で部屋が二つ増えていた。


「これが私とお兄ちゃんの部屋ですね? ところでなんで二つあるんですか?」


「なんでとは? 俺の部屋とシャーリーの部屋だろ?」


「私が言ったのは『私とお兄ちゃんの』部屋ですよ? 広めの部屋にベッドを二つ並べて寝たいって思ったんじゃないですか!」


「普通は別室だと思うだろうが……とにかく鉄筋コンクリートで建てられるものは分かったな?」


「そうですね、やはり私とお兄ちゃんの愛の巣は一つで十分だということが分かりました」


 何を理解しているんだ……もうちょい役に立つことを学習しろよ。


 そしてシャーリーは考え込んでいるのか独り言を言いながら家の設備を確認していた。


「別棟としてなら優秀ですね、お兄ちゃん! この建物も売れますよ!」


 頼もしいかぎりの返事をしてくれるシャーリーに頼れるものを感じながらも、スキルを使って建てるのは俺なんだよなぁと思った。


「お兄ちゃん、この技術は金のなる木ですよ! 例えば家を囲う防壁とかも作れるじゃないですか」


「その発想はなかった」


「早速売り出し用の貼り紙を作ります」


 そう言って部屋に帰っていった。俺はこの建物を残しておくと目立ってしょうがないので、スキルで破棄しておいた。


 その晩、妹の部屋から『お兄ちゃんとの愛の巣が!』と叫んでいるのが聞こえた。その晩俺の部屋の前でしくしくというすすり泣く声が聞こえてなかなか眠れなかった。普通に怖いのでやめて欲しいとシャーリーには言ってやりたかった。

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