第10話「塀に需要があった」
『頑丈な建物、作ります! 塀から花壇まで作れます! もちろん家屋も作れますので興味のある方はお気軽にアポロまでご注文を!』
早速新しい商売を始めたんだな。
「アレは金になりますからね。建築革命が起きるようなスキルですよ」
そこまですごいものだろうか? シャーリーは泣きはらした目が赤いのはともかくとして目の下にしっかり隈を作っている。徹夜でもしたのだろうか?
俺は席について朝食を食べながら訊ねた。
「金額が書かれていなかったがなんでだ?」
シャーリーは諭すように言う。
「小屋サイズのものを建てるのと、立派な建物の値段が一緒だったら文句が出るでしょう?」
朝食についていたソーセージを食べながら考えた。家を建てるというのは金がかかる作業なので建築家達の仕事を奪わないだろうか? そのへんはシャーリーがしっかりと金をそれなりの金額は取るだろうから心配は必要無いのかもしれない。
しかし俺はそもそも客が来るのかどうか大概怪しいものだと思った。まあ今すぐ話題になるようなこともないだろう、数件作ってから有名になるパターンだと思われる。
「お兄ちゃん! ガンガン儲けますよ!」
先に食べ終わったシャーリーがそう宣言した。いきなり好きなだけ儲かるようなものでも無いとは思うが、理想を大きく持つのは悪い事じゃない。
俺もパンを食べ終え食器を片付けてソファに寝転んだ。当面の生活資金はあるし、何も焦る必要は無いだろう。
「だらしないですよ? もう少しシャキッとしたらどうです?」
「だってそんなポンポン客は来ないだろう?」
「希望は大きく持つものですよ」
そう言ってシャーリーはソファから俺の頭をどけて座り膝の上に載せた。柔らかな感触が後頭部に伝わる。目を開ければシャーリーのブロンドの髪に包まれた笑顔が目に入る。
どことなく恥ずかしい気のした俺は目を瞑って寝たふりを決め込んだ。妹の膝というのはなんとも寝心地の良いものだ。そしてウトウトとし始めた頃、ぼんやりした頭に玄関のノックが響いた。
俺の頭をソファに戻し、シャーリーは大急ぎで玄関に向かっていった。客と決まったわけではないのにご苦労なことだ。
「お兄ちゃん! お客さんですよ!」
「マジかよ……」
「よろしいですかな?」
シャーリーの方を見ると初老の白髪頭をした男の人が立っていた。
「セバスさんですか……」
「そうです、実は『塀』を建てられるというのが気になりましてな。嘘ではないんでしょうな?」
「もちろん「もちろんです! お兄ちゃんのスキルに間違いはありません!」」
食い気味に言うシャーリーにセバスさんも驚きながら、頷いていた。
「でしたら私の屋敷を覆う塀を建てて頂きたいのです」
「あれ? セバスさんの家って立派な塀がもうありませんでしたっけ?」
セバスさんは気が重そうに語り出した。
「あまり分厚いのも如何なものかと思い薄い塀にしたのですが、いたずらに傷つけられることが多くて困っておるんですよ……」
金持ち相手へのやっかみもあるのだろう。セバスさんの依頼は家の塀の外側にもう一重頑丈な塀を建ててくれというものだった。構造的にはまんま壁と変わらないのでイメージを正確にする必要も無い。
「分かりました、そのくらいなら簡単ですね」
「料金の方は金貨十枚になります!」
まず金の話をするシャーリーが金額を提示した。セバスさんは財布から金貨を取り出してテーブルに置いた。完全な先払いだ。
「いいですね、先払いは私の好みですよ」
フフフと笑うシャーリーは欲深そうだった。
「では私の家に来ていただきましょう」
そう言って外に出て行くセバスさんを俺たちは追いかけていった。
その先には立派な屋敷が建っていた。塀で囲むにも四回に分けて囲った方がいいだろうな。
「玄関以外全部塀で囲って問題無いですか?」
「ああ、頼むよ」
「鉄筋コンクリート製の壁を制作します」
ズズズズと地面から塀が生えてくる。馬鹿げた光景だがいい加減これにも慣れた。シャーリーも見慣れた光景なので一々気にしていないが、セバスさんの方は口を開けて驚いていた。
「このまま四方を囲ってしまえばいいですか? 玄関部分は開けていますし問題無いですよね?」
玄関部分に塀の切れ目を作っている。頑丈さなら圧倒的だから問題は無いはずだ。
「あああ……アポロくん! コレはコンクリートではないかね!?」
「そうですよ、鉄も入っているようですが」
「なんと……こんな田舎で使うようなものではないだろう!?」
「まあ、スキルですので」
「それで済ませていいのかね……」
コンクリートが贅沢品なのは知っているが、それでも石を砕いた程度のものだ。何よりスキルで作っているのでいくらでも作れる。
「じゃあ残り三辺も囲いますね」
ずももも……
ずももも……
ずももも……
あっという間にこの邸宅は高い塀に囲まれた安全地帯となった。コンクリートなら攻城兵器でも使わないかぎり壊れないだろう。それにコレはおそらくという俺の勘だが、この壁にメンテナンスは必要無いのではないかと思っている。馬鹿げたスキルなのだからそのくらいの効果があってもおかしくない。
「いかがですか?」
「完璧だよアポロくん、君にスキルには感謝しかないな」
「そうでしょう! お兄ちゃんの凄さが分かりましたか?」
「まったくもってすごい人だよ。私がお墨付きを与えたいくらいだ」
俺のことを褒められているのに何故かシャーリーがいい気になっている。自分のことのように喜ぶ様は見ていて微笑ましい物がある。
そしてセバスさんの家から帰宅したのだが、帰り際に見た家は、頑強な塀に囲まれた城か砦のように見えていた。
「お兄ちゃん、帰りますよ」
シャーリーに手を引かれ、自分のスキルで作ったものを皆方帰宅した。
帰宅後、シャーリーは疲れたのでお風呂に入ってきますと、どこで疲れたのか分からないが風呂に入っていった。その時俺に『覗かないでくださいね?」と念を押していたのでちゃんと覗かずスキルで何が作れるかを考えていた。
随分と長い風呂に入ったシャーリーは最終的にしびれを切らしたのか『覗きに来ないとは何事ですか!』と逆ギレしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます