第5話 先生争奪戦

学年別試験まで後1ヶ月。

マリア先生に褒められ、ファット先生に勝ち、同学年の合格者順位2位相手に、圧勝した。

優勝は決して遠くない。

残りのひと月の間でどれだけ実力を伸ばせるか。

俺は目標が近づいてくると、その分やる気が高まる。

剣士にはもってこいの人間だ。


入学してから今まで、対人戦ではなく、1人での特訓をしてきた。

マリア先生の『相手をよく観察して、考える』という教えのおかげで、どちらかと言えば、感覚派だった戦い方に、頭脳系の駆け引きを取り入れられるようになった。

それ以来、剣で戦うことに楽しさまで覚えた。


最近、一人だけでの特訓に限界を感じてきている。

剣術の基礎は一通り身に染み込ませられたと思う。

後はこれらを、どう応用するかだ。

基本だけでは、上には通用しない。

応用の練習をするには、対人戦が1番効率がいい。

他の1年生の生徒では、俺のように対人戦を練習に入れている人が増えてきているらしい。

前の2位のやつもそうだ。

でも、あいつはただ基礎の練習をサボって、対人戦ばっかりやっているおバカだ。

割と基礎を飛ばしているおバカさんは多い。

そんなやつは伸び悩む。

 


というわけで、俺も対人戦を組もうと思う。

とは言っても、俺は友達がいない……

人と関わる事を避けすぎた。ちょっとは、友達を作っておけばよかった。

隣の席のフィンとか。

予想通り、彼女は今俺を置いて、絶賛友達作り大成功中だ。

もう俺に居場所はない。


しかし、対人戦の相手は生徒じゃなくてもいいのだ。

俺には仲良しの先生がいる。

マリア先生、ファット先生、……

二人だけ。

まあ、これから頑張ればいいさ。


実戦練習では、担当の先生に許可を取れば、専属で指導をしてもらうこともできる。

専属は一人の先生につき、一人の生徒が原則。

許可が貰えるかは置いておいて、基本早いもの勝ちだ。

まずは、ファット先生にお願いしてみよう。

ファット先生はよく実践練習を担当している。

それだけ、周りからも信頼されているんだ。

もしかしたら、先約がいるかもしれないが、とりあえず聞いてみよう。


先生は最近グラウンドでよく生徒の相手をしている。

多分グラウンドにいるだろう。

ほんの数秒の差で先生を先に取られてしまう可能性を一応考えて、小走りで向かった。


居た。


「ファット先生!」


「おっ、キルトから話しかけてくるなんて珍しいね。

どうした?」


「僕の実践練習の担当を専属でしてもらえないでしょうか。」


……


居心地の悪い謎の空白があった。


「その件なんだけどね、

君はマリアに頼むと思ってたから、さっきお願いしてきた子にオッケーしてしまったんだ。

マリアにはお願いしたのかい?」


「いいえ。

ファット先生が無理だったらお願いしようと思ってました。」


「ごめんよ。

マリアなら多分大丈夫だと思うよ。」


そう言われて、マリア先生のところへ猛ダッシュで向かう。

ファット先生は『さっき』と言っていた。俺が想定していた僅かな可能性が当たっていたのだ。数秒とまではいかないが、あと数分早ければオッケーされたかもしれない。

マリア先生に許可が貰えなければ詰みだ。

その僅かな可能性を想定して、今度は猛ダッシュだ。

居場所はほとんどわかっている。

いつもは食堂に居座っている。

そこにいなければ屋上だ。


そう思って、まず食堂へ。

いつものカウンター席にいない。

食堂のおばちゃんに聞いてみたが、今日は一度も顔を出していないらしい。


なら、屋上だ。

急いで階段を駆け上がる。いつもトレーニングで階段ダッシュはやっているから、これくらいでは疲れない。

だが、今日は焦りがある。

その分ちょっとしんどい。


最上階に着いた。

屋上の扉を開ける。


……


いない。



これはまずい。

誰かに取られてしまう。


でも、どこだ。検討のつく場所はもうない。

がむしゃらにこの広い学園内を探し回っても、見つかるはずない。


ファット先生に聞いてみよう。

また猛ダッシュで先生のもとへ戻る。


「せん……せい……、ふぅ…

マリア先生どこにいるかわかりませんか?」


「ああ、さっき言い忘れちゃったんだけど、今日マリアはチームの会議があって学校には来れないよ。」


え、??

会議?


「なんでそれ先に行ってくれなかったんですか!

学園内走り回って探したのに。」


「言おうとしたけど、キルトが猛ダッシュで走っていくから言いそびれたんだよ。

追いかけたんだけど、速すぎてすぐ見失なっちゃってね。」


ファット先生のほうが速いはずだが、まあそれだけ俺も焦っていたんだろう。

とりあえず、学校に来ないなら安心だ。

誰にもマリア先生を取られない。


「マリア先生に専属になってほしいと、ファット先生から伝えてくれませんか。」


「いいよ。君にしんどい思いさせちゃったしね。」


よし、これでなんとかなりそうだ。


これもまた優勝に近づくための一歩ということにしておこう。

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