第4話 自信
あれから俺がファット先生に勝ったという情報は学園全体に広まっていった。
中には冗談だと思っている人もいた。
俺を見かけると、
「あの人がファット先生に勝ったらしいよ」
「全然強そうには見えないけどね。」
決まって俺に聞こえるように言う。
俺の体は、平均的で別に体格に恵まれているわけではないから、そう思われるのも当然か。
「おい、お前俺と戦え!」
後ろから大きな声が聞こえた。
またか。
情報が広まってから、知らない生徒に急にダル絡みされることが多くなってきた。
初めはちょっとビビって丁寧に断っていたが、最近無視する方が効果的だとわかった。
その方が、しつこく付きまとってくることが少なかった。
だから、今日も無視。
……
「おい、無視か?
負けるのが怖いか?」
この手の煽りはもう慣れた。
何も感じない。
「まぁ俺、合格者順位2位だからなっ」
おっ?2位。
俺より上じゃないか。
今まで生徒と戦ったことはなかった。だから、自分が今優勝に近づけているのかどうか、まったくわからないのだ。
俺だけじゃなくて、他の奴らも練習してるからな。強くなっているとはいえ、なんとも言えない。
ちょっと気になる。
普通にやってもいいかもしれない。
力試しにいい機会だ。
「いいよ。」
すると、
「もう場所は用意してある。
ついて来い。」
受け入れるとわかっていたかのようだった。
なぜ準備ができているんだ。今まで受けたことがなかったんだから、俺が断る可能性の方が高いと思うばずだろう。
というか、準備ってなんだ?
木刀が必要なくらいじゃないか。
ついていくと、グラウンドに連れて行かれた。
騒がしいな。
なぜか、人がいっぱいいる。生徒だ。
準備ってこれか。
そんなに自信があるんだろうか。
「さっさとやるぞ。
ルールは1本勝負。
少しでも当たったら負けだ。」
木刀を渡された。
ファット先生の時と環境もルールもほぼ同じだ。
地面は土、風も雲もない快晴、勝負にはもってこいの日だ。
勝負はカウントダウンもなしで、いきなり始まった。
俺の方へ走ってくる。エマやファット先生に比べると、かなり遅い。
生徒たちと比べたら、速い方なのかもしれない。だが、速い動きに慣れた俺の目には、止まって見えるかのようだ。
相手の目線は俺の首。
すでに剣を上に振りかざしている。
隙が多い。
とはいえ、順位2位である。
何か別の技があるはず。
油断しちゃダメだ。
狙いはずっと首、左の脇があき、右の脇が閉まっている。首の左側を狙っている。
体重は中心にある。
中心にあれば、剣を振る寸前に、剣先の軌道を大きく変更することができる。
変更のパターンは多い。
首の右側、剣先を下に下ろして腰や、足、他にも突きに変えることもできる。
そう考えた俺は、一度相手の剣の動きに合わせ、受けることにした。
バコッと木と木がぶつかる音がした、
結構重い。力がある。
相手は俺よりひと回りふた回りとゴツい。
見た目通りのパワーだ。
その分、スピードはないが……
相手は途中で狙いを変えて、右側に剣を振りぬいてきた。
合わせておいてよかった。
相手が次の動きに出る前に、俺は一歩引いた。
剣を合わせ続ければ、力負けする。
力で勝負するつもりはない。
俺はスピードで勝負することにした。
エマやファット先生には及ばないが、俺もかなりスピードはある方だ。
相手からすれば、初めて見るスピードだろう。
スピードならおそらく学年では1番だ。
それくらいには自信がある。
予想通り、わかりやすく焦っている様子だ。
人は焦ると本来見えていたものが、見えなくなる。視野が狭くなってしまうんだ。
焦りプラス速くて見えないのは絶望だ。
もう相手に勝ち目はない。
俺は近づきながら、背後に回った。
相手が狙っていた首の左側に優しく剣を当てた。
最初は自信満々に
「2位だ」
とか言っていたが、本当にそうなんだろうか。
あっけなく終わってしまった。
見ていた生徒たちも、つまらなかったといわんばかりに足早にグラウンドから出て行ってしまった。
「こんな強いなんて聞いてねえぞ。
あの噂、本当じゃねえか。誰だよ嘘ついた奴は……」
悲しそうな顔で独り言を呟いている。
声が若干震えているようにも思った。
怖がらせるつもりは一切なかったが、ちょっとやりすぎたか。
あんな大勢の前で戦ってこのありさまだ。
ちょっと心配ではある、引きずるだろうからな。
「本当に2位だったのか?」
俺は、傷ついた心に塩を塗ってしまうようなことを聞いてしまった。
でも、気になってしまったんだ。
この勝負を受けたのも自分の現状を把握するため。
もし相手が嘘をついていたら、まったく戦った意味がない。
許してくれ。
「ああ、本当に2位だ」
合否が書かれた紙と一緒に見せてきた。本当だ。
準備がいいな。
「これを聞かれるのは想定済みだ。
あの観客を呼んだのは俺だ。
だからお前は何も気にすんな。」
俺がこの勝負を受けると確信していたのもそうだが、こいつは俺の気持ちを奇妙なくらいドンピシャで当ててくるな。
「お前、優勝しそうだな。」
学年別試験のことか、2位相手にこの試合結果。
内心俺もいける気がしている。
「でも、油断はするなよ。
1位のやつは頭が切れるやつだ。何してくるか全然わかんねえ。」
そうなのか。
あの言い方だと、戦ったことがあるんだろう。とてもありがたい情報だ。
今回は勝負をうけてよかった。
「今日はありがとう。」
「お前に感謝されることなんか1個もしてねえだろ。
俺が謝らなきゃなんねえくらいだ。」
意外といいやつだ。今後、上位同士関りが増えるだろうから、仲良くしたいな。
「じゃあな。
さっさと帰って特訓でもしとけっ。」
そう捨て台詞を吐いてどこかに行ってしまった。
俺はお腹がすいたので、食堂へ行った。
特訓はその後だ。
1位はいったい誰なんだろうか。
まあ、誰でもかかってこい!
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