第3話 頑張る理由
今日も実践練習が始まった。担当はマリア先生。2回目だ。
赤髪で、身長は俺より少し高い。細身で、動きが軽い。
俺が1番お気に入りの先生である。
「昨日のファットとの勝負、いい動きだったわね。」
マリア先生も見てみたんだな。
少しは成長したところを見せれただろうか。
「あんた、強くなりすぎね。
もちろん褒め言葉よ。」
そんなに強くなっているのか?
強くはなっているが、驚くほど強くなっている実感はない。
「これなら優勝狙えそうね。」
マリア先生が言うならそうなんだろう。
今までに他の生徒も見てきているだろうから、信用できる。
確実に上達しているようだ。
すると、ファット先生が俺の前に歩いてきた。
なんの用だろうか。
昨日のことを根に持っているだろうか。
怒られるのだろうか。
とても優しい人ではあるが、あんなに多くの人の前で生徒負けたんだ。
しかも、入学したての1年生にだ。
何を言われても仕方がない。
「ちょっと食堂で話でもしないかい?」
声が柔らかい。怒っているわけではないのか。
安心した。入学して、早々先生に嫌われるとか、ごめんだ。
「いいですよ。」
この学園には大きな食堂がある。
壁はほとんどガラス張りで、天井も高い。
2階にも席がある。
メニューも豊富で、生徒からの評価もかなり良い。300席ほどあって、満席で座れなくなることもほとんどない。
先生がコーヒー2つを注文した。
奢ってくれるそうだ。なんと優しい。
1階の壁側のテーブル席に座る。
「さっそく昨日の話をしよう。」
やっぱり話題はこれだろう。
俺も先生からの感想が聞きたい。
「どういう作戦だったのかな?」
「特に作戦を決めてたわけではないです。
先生の動きから、次の攻撃を予測して、自分が思う1番有効な手段を使いました。」
「さすがだね。初めて見た時から、才能があるとは思っていたが、ここまでとは思っていなかった。」
やっぱ俺ってすごいのか。
調子に乗ってしまいそうだ。
「君エマと仲が良かったそうだね。
実は、俺もエマに剣を教わっていたんだ。」
俺のことは、マリア先生から聞いたのかな。
ファット先生は、エマの弟子だったのだろうか。
今思えば、目線や、足の使い方、体重移動がエマに似ていたかもしれない。
エマのほうがスピードは速いが、ファット先生も十分速かった。
「君の話は昔から聞いていたんだ。
ほぼ毎日、出会ったら君との勝負の話をしてきたよ。
エマは、近いうちにきっと私を超えてくるって言ってたな。」
本当にそんな事を言っていたのだろうか。いつも俺を子ども扱いしてボコボコにしてたじゃないか。
「そんなことないと思いますよ。
一回も希望が見えたことはなかったですから。」
「いや、君の前ではずっと強がっていたんだよ。
僕には、キルトがどんどん強くなってる、負けたらきっと馬鹿にされるって、
焦っていたよ。」
確かに俺が勝ったらエマを煽り続けていたとは思う。
が、どんどん強くなっていたというのは嘘だろう。
「エマが最強の剣士になれたのは、
キルト、君の存在が大きかったんだ。
絶対に負けないように、ずっと朝から晩まで特訓し続けて、毎日立てなくなるまで自分を追い込んでいた。
エマが弱音を吐くことなんて滅多にないけど、君に対しては弱音を吐くことがあったね。
負けるのは嫌だろうけど、君に強くなってほしいと思っていたのも確かだよ。」
エマがそんな努力をしていたなんて知らなかった。
俺に対して思っていたことも。
いつも余裕そうに俺を痛めつけていたのに。
全然焦ることなんてないじゃないか。
「エマが強いって認める人なんて君くらいだったから、一度会って戦ってみたいと思っていたんだ。
だから、キルトって名前を聞いた瞬間、飛び上がってしまったよ。
まさかってね。
いざ戦ってみて、エマがあんなに強いと言ってた理由がわかった気がするよ。
君には国で一番の剣士になれる才能がある。
これからエマの分まで頑張ってくれよ。」
もとから頑張るつもりではあったが、ここまで言われると、もう諦めることなんて絶対できない。
マリア先生も、ファット先生も、エマも、俺を認めてくれている。
俺はできるんだ。
「今日はありがとう。
また機会があったら戦ってよ。」
「もちろんです。」
食い気味に答えた。
次も勝って、今回が偶然ではなかったことを証明してやる。
エマの期待にも応えるために……
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