第2話 ファット VS キルト
学園に入学して1週間が経った。
授業はこの国の歴史(主にサイデンとの関係について)、剣の技術を教わって実践練習が多い。特に実践では、この国で名の知れた剣士たちが個別で指導をしてくれている。
思っていたよりずっといろんなことを考えて戦わなければ通用しないそうだ。
実際、今日の担当教師のアリアは相手との距離感、癖、目線、体重移動など細かなところを見て戦うらしい。
難しいが、そういうのはエマからも教わっていたからある程度はできている。
「あなたかなりできてるわね。誰に教わったの?」
「エマに教わっていました。」
「あのエマ?元生徒会長の?」
「はい。多分」
やはり以前まで生徒会長はエマだったようだ。
「なるほどね。彼女強かったもんねー。
よく勝負もしてて仲良かったから、亡くなったなんてほんとショックだったわよ。
サイデンが余計憎く思えてくるわ。」
マリア先生も俺と同じ気持ちだ。エマはこの学園で友達も多かったそうだから、他にもショックを受けた人も多いのだろう。
「僕もサイデンに復讐するために入学しました。」
「そうだったのね。
じゃあ、ちょうど3か月後の学年別試験頑張らないとね。」
そう、この学校には年に3度『学年別試験』という、トーナメント形式の対面試合が行われる。
ここで好成績を残せば、有名剣士からスカウトが来るそうだ。
どうやら、サイデンを攻撃する遠征部隊に参加するには、各20~30人程度のチームに所属しなければならないそうだ。
隣国ではあるが、サイデンは想像以上に遠いらしい。
そのため、大抵30チームしか参加できないらしい。
卒業するまでにスカウトがもらえれば、1年生であろうが遠征に参加できる。
この学校を卒業をするときには、全員どこかのチームへ所属できるそうだが、無名のチームだと30チーム以内に入れなくなる可能性が上がってしまう。
確実に遠征に参加するには、有名なチームに入る必要がある。
「各学年スカウトされるのは、いつも上位の2人、
優勝者だけの年もあるわ。」
やる気がますます出てきた。入学試験では4位、可能性は全然ある。
ちなみにエマは、最初の試験であっさりと優勝し、元ランク1位、現在3位のチーム『聖炎(レッド) 』のメンバーにスカウトされた。
エマが死んだことで、戦力がかなり落ちてしまったそうだ。
エマの戦い方が主軸になっているチームだった。
そんなに強かったのか。
どこのチームに入りたいとかはない。スカウトされれば必ず強いチームに入れる。
優勝狙いしかないな。
「絶対優勝します!」
⁻⁻⁻
あれから俺は、自分でも驚くほどに強くなったと感じている。毎日の実践練習では担当の先生が、必ず俺を見て驚く。今日も腕がもげ落ちるほど剣を振った。
日に日に練習がしんどくなる。
「疲れた……」
すると、後ろから元気な声が聞こえた。
「おーい!キルト!」
今日の担当だったファット先生だ。
刀を2本持っている。木製だろうか。
咄嗟に振り返る。
「ちょっと勝負してみないかい?」
いきなりすぎないか。
彼は現在ランク6位のチーム「雷竜(サンダーバード)」に所属している。かなり強い剣士だ。
ちなみにソラリア学園の卒業生。
流石に厳しいだろうな……
そう思ったが、こんなに強い剣士と剣を交えられる機会なんてなかなかない。
勝負を受けることにした。
ルールは簡単。
1本勝負、木刀が相手に少しでも触れれば勝ちだ。
「じゃあ早速始めようか。」
カウントダウンの終わりと同時にファット先生が勢いよく俺のほうへ走る。
地面の砂が高く舞い上がる、先生と距離はあるが、風はすでに俺のもとへたどり着いていた。
速いな。
でも、俺はマリア先生から戦い方を学んでから、特訓を積みに積んできた。しかも、長年エマと戦ってきた経験もある。この速さでも、まだ目で追える。
俺も走り出した。
先生が高く跳び上がる。8メートルくらいか。
チャンスだな。
だいたい、跳び上がっての攻撃は隙がでる。ピンポイントに体重をかけれず、力負けしてしまうからだ。俺もよくやる戦い方だが、その分弱点はよく理解している。
素早く方向転換し、先生の後ろ側へ回り込む。
地面が砂だから滑るな。間に合うか?
ギリギリ間に合いそうだな。
先生はちょっと俺を甘く見すぎたのが敗因だな。
そう思った瞬間、先生が華麗な動きで反転し、目が合った。
驚いて咄嗟に剣を突き出した。
俺の突きに合わせるように、先生も剣を突き出した。
見事に剣先と剣先がぶつかり合う。狙いが正確すぎる。
先生の足が地面につき、一度距離をとる。
あの動きに俺は感動した。あの剣の正確さ、初めて見た。エマでもあんな動きは見たことがない。強いぞ。
そんなことを考えている暇はない。
先生が動き出した。これまた速い。しかも距離がさっきよりも近いから余計に早く感じる。
相手をよく見ろ。
目線は俺の腹。
重心は少し下に向いてある。
右の脇がしまった。
右から上に切り上げるのだろう。
俺は両手で握っていた剣を右手だけに持ち替え、先生に対して体を横に向ける。
的を小さくした。
相手を一瞬惑わせ、相手の意識を俺の腹に集中させる。
切り上げるときには、力を上向き必要がある。一度剣を右下に持ってくれば、左側をカバーする余裕がない。
そろそろか。
剣先を右下におろした。
ビンゴだ。
その瞬間俺は、姿勢を低くし、地面を本気で蹴って、前に飛びだした。
そして、俺の剣先が先生の足に当たった。
「勝ったのか?」
いつの間にか、周りで見ていた生徒や教師たちが歓声をあげる。
「キルト、君強いね。」
「全然、たまたまですよ。」
謙虚だ。
正直自分でも驚いている。実感がない。
格上の剣士から1本とったのだ。
「今日はもう遅い。
ともに話したいところだが、疲れているだろう。
お互い帰ってゆっくり休もう。」
そういわれると、忘れていた疲れが一気に吹き上がってきた。
今日は帰ろう。
家に着いたら、すぐにベットに飛び込んだ。
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