第1話 始まる物語

ソラリア学園の入学試験が無事終了した。



朝、地面に落ちた枯葉を踏みパリパリと音を鳴らしながら、校門をくぐった。

大きな四角い建物が3つ。寮だろうか、この学園は寮で暮らしている生徒も多いらしい。その奥に豪華な装飾のある建物がある。

あそこが会場だろうか。


他の受験生たちがどうしてか強そうにみえて、緊張していた。

が、いざ試験が始まると心の余裕ができて楽しめた。


終わってから思うと、俺より優れたやつはいなかった気がする。

まあ、気のせいか……。



試験から1週間後、俺に手紙が届いた。ついに合格発表だ。

手先が震えてきた。

頑丈に封がされてあることもあって、なかなか開けれない。


開いた……


『合格』


一番上に大きくそう書いてあった。


「よかった……。」


ほっと息をついた。

実は試験が終わった翌日から、どんどん不安が襲ってきていたのである。

ここで落ちていたら、きっと自信を無くしていた。サイデンを復讐する目標が遠ざかってしまうところだった。


合格者順位が書いてある。『4/50』思っていたより高い。余裕が出てきた。

でも、ここで息をついている暇もない。

俺は強くならなきゃいけない。



---


そして、入学式へ行く。

順位が良かったこともあって、ドヤ顔で会場へ向かった。決して見下してるわけではないぞ。

うん。

会場は天井が高く、壁には美しいガラスの飾りがされてある。広くて豪華な教会のような建物だ。

周りには強そうな人が何人か。

先輩か?先生か?

50人の新入生が大きな会場に集まった。みんな堂々と正面を向いている。



入学式は学園長の話から始まった。

長い……。

20分ほどたってやっと話が終わった。

次は誰だ。

若いな、先輩だろうか。身長が高く筋肉マッチョな見るからに強そうな男だ。

あれにはさすがの俺も勝てる気がしない。


「俺は生徒会長、オウガだ。この学園内で一番強い男だ!

まず、新入生のみんな、入学おめでとう!

厳しい試験を乗り越え、400名を超える受験者の中から選ばれた新入生、このエルス国、最高峰の剣士学園に入学したからには、最高峰の教育を受け、将来国を守るヒーローになってもらう!この先———」


声が響き渡る。

この学園で一番強いということは、元生徒会長だったのはエマか。死んだから繰り上がりで会長になったのだろう。

なんか悔しい。繰り上がっただけなのに一番強いって堂々と言いやがって。

そうは言っても、生徒会長の熱く語りかける演説には自然と聞き入ってしまった。


会長の演説が終わると、すぐに入学式は終わった。

意外と早かった。

すると、すぐに各教室へ行くよう指示があった。誰も声を発することなく、ぞろぞろと足音だけが聞こえる中教室に向かう。

みんな緊張している様子だ。

クラスは合計で2クラス、25人ずつだ。

俺はBクラス。席はどこだ。扉に座席表が張ってある。


「一番奥の真ん中だ。」


左には金髪で緑色の目をした、顔立ちの綺麗な少女、年下に見える。

右には背が高いが細身で髪が爆発した、少し不潔な男。

周りを見渡しても悪そうなやつはいない。なんとかやっていけそうだ。


すると、


「よろしく、フィンよ。

あなたは?」


いきなり隣の少女が話しかけてきた。


「よ、よろしく。

俺はキルト。」


ちょっと詰まってしまった。よく話す友達がエマしかいなかった俺は、どうやら初対面の人と話すのが苦手らしい。


「友達ができるか昨日からずっと心配だったの。

だからよかったー。なんとか話しかけられたよ。」


おとなしそうな少女に見えていたが、意外と積極的で明るい女の子だ。

もし、彼女が話しかけてこなかったら友達ができていなかったかもしれない。

心臓がばくばくだ。

危なかった。


鐘がなると同時にホームルームと呼ばれる、毎日朝に行われる時間が始まった。先生から今後の予定が告げられた。

学園内の規則、施設、行事ごとんどを伝えられた。

もう一度鐘がなり、それと同時にホームルームが終わった。

今日は、この後何もないから帰宅していいとのことだった。


午前中だけの短い時間だったが、かなり疲れた。

すぐ帰ろう。


「ちょっと待って!」


フィンだ。どうしたんだろうか、忘れ物でもしたか。

そんなことはない、俺は荷物なんて一つも持ってきてない。


「一緒に学園回らない?どんな施設があるか見ておきたいし。」


一度は落ち着きを取り戻していた心臓がまた暴れ始めた。


「ごめん。今日は疲れたから帰るよ。」


とっさに断ってしまった。緊張したのもあるが、俺はこの学校に入学したら剣の特訓に専念すると決めていた。あまり人と深く関わりすぎないようにするつもりだ。

今回は自分をそう納得させた。


「わかった。確かに今日は疲れたね。

じゃあまた明日。」


帰って休養をとってから剣の特訓だ。

そう思いながら、仮の家であるテントに戻った。






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