隣国に大切な人を奪われたので、絶対にやり返します。~復讐するために努力たら強くなりすぎた~

プロローグ

左から切り下ろした剣が俺の剣を庭の外へ弾き飛ばして、勝負がついた。


「キルト、今日もあんた弱いわねっ」


いつものセリフ。そろそろ聞き飽きてきた。


「うるせぇ、明日はぜってぇ勝つからな!」

「いつでもかかってきなさいっ、

あんたが勝つまで相手してあげる。」




俺は15歳の剣士、キルト。今日もエマに負けてしまった。

あいつとは家が隣ということもあって、1歳の頃からの仲だ。6歳の頃に剣を握ってから毎日勝負をしている。

だが、今まで一度も勝てたことはない。相手が3歳年上であるとはいえ、男が女に一度も勝てないのは、流石にプライドが許さない。


いつかは勝つ、絶対に――



---


熱い。

隣国サイデンが我が国エルス国を攻撃している。近頃、争いが激化し、周りは火の海。

炎が俺に手を伸ばしてきている。逃げる気持ちすら、なくなっていく。


パチパチと火花が散る音が聞こえる。

妙な静けさに耐えれなくなって、とりあえず家族を探しに行った。まずは、近くの指定避難所、緑のツルが伸び、ちょっと茶色く汚れた避難テントへ行った。幸運にも家族は全員無事だった。嫌な予感がしていたが、全員無事でほっとした。



心に余裕ができたのは、その時までだった…



母が深刻そうな顔で、俺に向かって歩いてきた。少し足が震えているように見える。

「エマちゃんが亡くなったそうよ…」



「えっ?

うそだろ……?」



目の前が真っ白になった。想像もしてなかったためか、涙一つ出てこなかった。

こんなに何も考えられなくなったのは初めてだ。



少し落ち着いてから、母から詳しく話を聞いた。

エマは家族を守もるために、敵に立ち向かって死んだそうだ。


数少ない俺の友達。いや、10年も一緒にいれば、ほぼ家族みたいなものだ。

あいつは、厳しい試験を乗り越えた者が入学できるソラリア学園(剣士の育成をする学校)の中でも一度負けたことない実力者。

そんなあいつが剣で負けた。


「俺がまだ勝負に勝ててねぇじゃん。」

「約束守れよ、俺が勝つ前に死にやがって……」


そう言ったものの、約束を破られた怒りよりも、もう会えない、剣を交えられない喪失感の方が、重くのしかかっていた。

別にエマが悪いわけじゃない、でも怒りを誰にぶつけることもできないから、そう思うことしかできなかった。

母も、みんなも気持ちは同じだから。


サイデンが憎い。あれから1週間たっても、日に日に増してくるこの感情。剣を握ろうとして外へ出ても、焼けて減った緑と、焦げた匂いを感じ、憎しみが込み上がってきてしまう。


目標がなくなってしまった俺、流石に2週間もたてば、

サイデンを倒せば、エマにも勝ったことになる。

そう考える余裕が出てきた。前を向くために、自分にそう言い聞かせていた。


だんだんこの苦しみにも耐えれるようになってきた。

俺もソラリア学園に入学してもっと強くなりたい。

今は自分でも驚くほど前を向いている。


今度こそ剣を握ろうと外へ出てみると、空が青かったことに気がついた。

黒く焦げた草木や匂いを嗅いでも、蒼が見えただけで、浮かんでくる憎しみを爽やかに回避できた。


どれだけ下を向いていたんだ。

きっとエマも、ずっと空っぽになってた俺を嘲笑っていたに違いない。

想像するだけで鬱陶しい。




ソラリア学園に入ろうと思っていることを母に相談した。単純な動機ではあったが理由を話せば受け入れてくれた。

緊張感のただよう真剣な眼差しに、母も俺の覚悟を感じ取ってくれたんだろう。

少なからず母にもエマが死んだ悲しみ、サイデンが憎い気持ちがあると思う。

そうしてすぐに俺は、ソラリア学園の入学試験を申し込んだ。

試験は約6ヶ月後、それまで特訓だ。


ソラリア学園の入学試験はもちろん剣の技術だけではない。持久力、スピード、柔軟性などいろんな能力を含めて合否が決まる。


曖昧な気持ちじゃ、通らない。

俺みたいに本気のやつ、いや、俺より本気のやつが中には居ると思う。

さらにやる気が湧いてきた。



エマ、見とけよ。





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