第10話

「すみません、お待たせしました」

「おっ! アーヤ、久しぶりだな!」


 まるで太陽のような明るい笑顔で、元気よく挨拶を返してくれたのは勿論、クリスさんだ。


「3年ぶりぐらい、ですかね?」


 クリスさんの前の席に座りながら、記憶を思い出す。


「あー……。ちょくちょくは行ってたんだが、タイミングが合わなかったのか、アーヤには会えてなかったな」

「そうなんですか? おじいちゃんもおばあちゃんも特に何も言ってなかったから知りませんでした。すみません」

「いや、謝ることじゃないから、気にしないでくれ」

「分かりました。

 それで今日はどうされたんですか?

 こちらの方で何か依頼があったとかですか?」


 クリスさんは高位の冒険者なので、一カ所に留まらず色んな所に行っている。

しかも指名依頼とかも結構入る程の人気があるので、依頼とかでない限り一カ所に長期に留まることも殆どないらしい。

 そんな多忙なクリスさんだけど、おじいちゃんとおばあちゃんの所には時々顔を出している。

 なんで多忙なクリスさんが、わざわざおじいちゃんとおばあちゃんに会いに来るかというと、クリスさんが見習い時代から一人前になるまで、おじいちゃんとおばあちゃんにかなりお世話になったからなんだって。

 だから、時間が空いたら様子伺いの為に会いに来てるんだよって、前におじいちゃんが言っていた。

まあ勿論、それ以外にも理由があるのは知っているけどね。

 そういった関係で、普通なら知り合うはずもない高位冒険者のクリスさんと私も顔見知りの関係になったわけなのです。


 私の言葉にクリスさんは突然居住まいを正して、真剣な顔をする。

 いきなり変わったクリスさんの雰囲気に、なにが起きたのかと思わず瞬きを数回。

 そんな変な事言った記憶もないんだけど……。

原因が全く思いつかない私を放置したままクリスさんは言葉を紡いだ。


「錬金術師であるアーヤに依頼を頼みたい」

「いらい……?」


 クリスさんの言葉がすぐには理解出来なかった。

いらい……? 

依頼?

依頼っ!?


「えっ!? クリスさん、今、依頼って言いました!?」


 まさかそんな……。と、思いながら確認の為問いかける。


「あ、ああ……」


 クリスさんは私の剣幕に驚いたようで、若干引き気味に見えるけど気にしない。

 依頼、依頼かぁっ……!

独り立ちして初めての直接依頼!

 町の人達からの信頼等を得るのにもう少し時間がかかるだろうから、直接依頼は気長に待とうと思ってたけど、まさかクリスさんが私に依頼してくれるなんて!


ビックリというか、嬉しいというか!

いや、勿論嬉しい気持ちが大半何だけどね!

 あー、何の依頼かな!

まだ作れるモノが限られるから、私のレベルで作れるモノなら……。

私の、レベル……?


「あの、クリスさん……。

 クリスさんならわざわざ新人の錬金術師に頼まなくても、師匠程とは言いませんが高位の人達に依頼出来ますよね?」


 そうなのだ。

よく考えるまでもなく、高位冒険者であるクリスさんならわざわざ私に依頼なんかしなくったって、王都にいる錬金術師に頼めばいい。

 それをわざわざ私に依頼してくるなんて……。


「誤解がないように言うが、俺が求めるモノを作れるのがアーヤだけだから、依頼をするんだ。

 けして、誰かに頼まれたとかではない」


 本当に?

独り立ち出来たと言っても漸く、だ。

高位冒険者が依頼をしたくなるモノを作れるのが私だけな筈がない。

 私の様子にクリスさんは嘆息を一つ吐いた。

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