第3話
冒険者ギルドより更に奥に向かって五分程歩いた所に、私の工房兼住居がある。
赤色の屋根に小さな風見鶏があって、見てるだけでもうきうきとしちゃう、とっても可愛いらしい二階建てのお家です。
その横にお家と同じ大きさの庭があって、そこでちょっとしたハーブや野菜なんか育てていたり、庭の真ん中辺りにある大きな木にもたれて、疲れた時にまったりとティータイムなんかを過ごしたりしている。
今までずっと木々に囲まれて生活していたから、近くに木があるだけで心にゆとりが生まれるというか、何かホッとするんだよね。
おじいちゃんも多分、私のその気持ちを分かってくれていたんだと思う。
だってこのお家、おじいちゃんが用意してくれたものだから。
お金がかなりかかるものだから、他の物でいいと言ったんだけれど、私の独り立ちのお祝いだからと一歩も譲らず、私が根負けして有り難く頂く事にした。
『これからは、直ぐに助ける事が出来ないんだよ』と、悲しそうに言われたら、私には何も言えなかった。
色々と悩んでくれて此処、ハーテヴァーユの町に建ててくれたみたい。
近くにラウニサル大森林があるのも、選ぶのに大きな決め手だったとも言ってたなぁ。
ラウニサル大森林はかなり大きな森でハーテヴァーユの町どころか、馬車で三日かかるダンジョン都市ですらすっぽり入ると言われていて、実際にどれぐらいの大きさかは誰も把握出来てないんだって。
手前側、町に近い方は魔獣も弱いけど、奥に行けば行く程、強くて凶暴な魔獣が沢山いるから、冒険者ギルドのランクが低い人は入るのをかなり制限されている。
制限されていても森だから、入り口なんかどこでもだし、見張っているわけにもいかないから、ハーテヴァーユのギルドに初めて来た人や新人さんに口頭での注意はしてるんだけど、自分の力を過信してるのか、中には真剣に取り合ってくれない人もいて、大抵そういう人が、その後の消息を掴めない事が多いらしいの。
冒険者自体を辞めたのか、大森林に入って行方知れずになったのか……。
真偽の程は分からないけれど確実なのは、そういう態度だった人の、その後を見た人が誰もいないという事……。
ある意味ホラーっぽい気もするんだけど……。
兎に角、そういう事が頻繁にあるから、ハーテヴァーユの冒険者ギルド職員の人は口頭で強く注意をしているんだけど、ゼロにはならないとぼやいていた。
勿論私は身の程を知ってるので、そんな危ないまねはしません!
それに、私には錬金術師として立派になるという目標があるしね。
「ただいまー!」
住居の方の玄関から元気よく帰宅の声をかける。
実はこのお家、玄関が二つあって、工房には工房の玄関があるの。
用事がある人が来る時、知らない人が住居用の玄関から入って来るのは不用心だからとおじいちゃんが玄関を二つ作ってくれた。
お家を紹介してくれた時に、本当は三階建てにしたかったのにとぼやいていたけど、聞こえないふりをした。
だって、流石に新人の錬金術師がそんな立派な家をもつのはおかしいもの。
この家でも十分立派だけれど、まだこの大きさなら許容範囲だと思う。
許容範囲、だよね……?
『おかえり、アーヤ』
カシャカシャカシャという歩く音と共に出てきたのは、銀狼のカイル。
輝くような銀色の毛並みの持ち主で、狼で私の家族。
なんとか狼族という種族で、魔物じゃない。
よく、赤狼や森狼の仲間じゃないのかと言われるけど、全然違う。
魔物と間違えるなんて本当、カイルに失礼だよ。
なんの種族かは教えてもらったんだけど、私が小さい頃に教えてくれたからはっきりと覚えてないんだよね。
それ以降、もう一度聞き直しても教えてくれないし。
多分、拗ねたんだと思う。
私が小さい頃から──どうやら物心つく前から一緒にいるらしく、兄妹みたいなものかな。
なんで私が妹かというと、カイルが自分が兄だと譲らないから。
正直、私はどちらでも気にしないんだけど、『男の子だからねぇ、アーヤにはまだ理解するには難しいだろうねぇ』と、おばあちゃんが笑って言っていたよ。
ちょっとムッとしたけど、確かに私にはそのカイルの気持ちが分からなかったから、その時は黙っていた。
そうしたらおばあちゃんが『あらあら、怒ったのかい? 仕方ないねえ』と、こっそり七色の飴をくれた。
その飴がとっても美味しくって、カイルにもあげずに、隠しながらひとりで食べた記憶がある。
ほんと、おばあちゃんがくれるお菓子は全部美味しいから何時も楽しみにしてた。
だから、作り方を教えてほしいと頼んだんだけれど『それはちょっと無理なのよねぇ。ごめんなさい』と悲しそうな表情で言われてしまって、聞いてはいけない事だったんだと思った。
私のおばあちゃんってちょっとミステリアスなんだよね。
それにとっても綺麗だし。
おじいちゃんと並ぶと、まるで完成された一枚絵のようになるんだよ。
まさしく、お似合いの二人って感じなんだ。
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