第2話
首筋辺りで段違いに揃えられた若草色の髪に、美丈夫と間違いなく言える整えられた顔、髪より若干色の濃い、少し垂れ下がっている緑色の目。
そして見える耳は横に長く、先は少し尖っている。
人種故か乳白色の肌をしており、その体型は細い。
ただ、鍛えられていない不健康という細さではなく、しっかりとつくべきところに筋肉はついている。
それも人種が関係しているのだろう。
筋肉はしっかりとついているが、それ以上大きくなる事はないらしい。
身長の差はあれど、大抵みな似たような体型となるのが──エルフ族だ。
そして基本的に美形種族とも言われている。
彼らはみな似たような系統の顔らしく、自分達の美醜については何も思っていない。
それどこれか顔の造形には興味がないらしい。
──何せ種族の殆どが似たような美形なのだから。
他種族の人間から、顔を褒められても全く何も思わないらしく、返答は至って淡白なものらしい。
目の前の男性がそのエルフ族、ガンクローゼさんだ。
因みにミシュアさんは、
茶色の三角お耳が頭についており、その先が白くなっていて、同じ色合いで毛量が多くふわっとしている、素敵尻尾の持ち主だったりする。
ボブの髪と瞳の色はグレーに近い黒色で、このギルドの人気受付嬢でもある。
特にケモナーと呼ばれている嗜好持ちの人達には、大人気だったりする。
わざわざミシュアさんに会いにだけ、ギルドに来る人もいるのだとか……?
噂で聞いただけで、それが本当かどうか真偽の程は分からないけれども。
「またアーヤに絡んでるのか?」
「ちょっ!? 絡んでるなんてちょっと酷くないですか!
私はただ、アーヤさんに感謝を伝えていただけですよ!」
「感謝、なぁ……。まぁ、いいか。
とりあえずアーヤは俺の知り合いの大切な
「変なちょっかいってなんですか!
それにその話、何回も何回もされてますから、耳たこなんですけどっ!」
相変わらず、ミシュアさんとガンクローゼさんは仲が良いなぁと思いながら、二人の掛け合いを生暖かい目で見る。
私以外の人も、同じ感じで二人を見ていた。
気が付けば大抵二人はこんな掛け合いをしており、それはこのギルド内だけではなく、ハーテヴァーユの町の皆が知っている程有名だ。
初めてその掛け合いを見た時は驚いたけれど、今では慣れたもので心を落ち着けて見ていられる。
ん?
心を落ち着けてってなんか違う気もするけれど、兎に角、私が此処に来て一月は経っているんだなぁと思わず感慨深く思ってしまった。
時間の経過は早い、うん。だから……。
「あのー。依頼完了の受領をお願いしたいんですけど……」
仲の良い二人の間を割り込むみたいで申し訳ないけれど、この後の予定もあるので許して欲しい。
「ああ、ごめんなさい……。ガンクローゼさんが邪魔をするから……。
今すぐ用意をしますので、少々お待ち下さいね」
「俺はサボっているギルド職員がいないか、確認しに来ただけだ。
ミシュアは、自分がサボっていた認識がないんだな」
「抑えて、抑えるのよミシュア。たかだか百二十歳程度の若僧の戯れ言に耳なんか貸さなくてもいいのよ。
今はアーヤちゃんがいるんだから、可愛くて素敵な頼れる受付嬢じゃないと……」
ミシュアさんがなんかブツブツと言っているみたいだけれど、何だろう?
「アーヤはこんな若作りの年増みたいになったら駄目だぞ」
ミシュアさんに気を取られていたら、唐突にガンクローゼさんがそんな事を言い出した。
「え、あ、はい……?」
よく分からないけれど取りあえず頷いておく。
「ガンクローゼ、ぶっ飛ばすっ……!」
突然、まるで地獄の底から響いているような声音で物騒な言葉が聞こえてきた。
思わず、ビクッと肩が跳ね上がる。
一体誰が……?
と、辺りを見回しても、そんな事を言いそうな人は見当たらなかった。
「はい、アーヤさんお待たせしました。この水晶に手をかざして下さいね」
ニッコリとした笑顔と共に、ミシュアさんが受付カウンターの上にある水晶を指し示す。
さっきの声は気になるものの、何も起こる様子がないし、私の聞き間違いとかかなぁと内心で首を傾げながら水晶に手をかざした。
刹那、一瞬だけ水晶は小さな光を放った。
「何時も思いますけど、この法霊具ほんと凄いですよね」
「そうですね。これを昔の人が作ったって言うのが、信じられないぐらいですね」
「そして、未だ誰もこの仕組みを解明していないというのがまた、凄いです……」
錬金術師の端くれとしては、とても気になる構造なんだけど、残念ながらこの水晶はギルドにしか置いてない為、調べる事が出来ない。
思わず、じーっと水晶を見つめてしまう。
「こらこら。水晶が気になるのは分かるけど、これからやる事があるんだろ?」
溜め息と共に言われたガンクローゼさんの言葉に、はっとする。
そうだ、そうだ。
早く帰らなきゃ!
「ああ、すみません!
それではまた……。ありがとうございました」
二人にペコリと頭を軽く下げると、私は納品所へと小走りで向かった。
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