ハーテヴァーユの新人錬金術師

鴎 みい

第1話

 昼時の喧噪も過ぎ、町全体がまったりとした雰囲気に包まれている三時過ぎ、私は漸く通い慣れた道をゆっくりと歩いていた。

 そして目的の場所に着くと、「よしっ」と小さく呟いて、ドアを開ける。

開けた瞬間、幾つかの話し声が聞こえた。


そこは───冒険者ギルド。


 一般的な出入り口は丁度真ん中にある。

そして、私が入って来たドアがその真ん中になる。

 真正面には受付カウンター。

入り口から向かって左側は、依頼が貼ってある依頼ボードがある。

依頼ボードの端、受付側の方にはドアが一つあって、素材等を納品する建物へと続いている。

向かって右側には、軽食等が食べられる小さな食堂があり、ここで待ち合わせや打ち合わせが出来るようになっている。

 この時間帯なら受け付けの混雑もなく、お行儀の悪い人達もいないので、初めて訪れる人にはかなりおすすめの時間帯。

但し、依頼を受けたい場合にはその限りじゃないけれども。

 何せ、おいしい依頼は早い者勝ちになるから。

──おいしい依頼とは一般的に、報酬がかなり良い依頼の事。勿論、危険が少ないとなお良し。

だからと言って、事前予約なんて勿論出来ない。

第一、出来たとしても、どんな依頼がくるか分からないのに事前予約ってどうやってするの?って感じだろうし……。

 新しい依頼の追加が大体朝頃だから、昼時になるとおいしい依頼は殆どなくなってしまっている。

だから、今の時間はおすすめじゃない。

 なので、今ギルドにいる人は依頼を探しに来たというよりは、打ち合わせや同行者を探す人だったり、私みたいに依頼完了の報告に来た人なんだろう。


「こんにちは」


 私は何時ものように、受付のミシュアさんへと声をかけた。


 ここの冒険者ギルドは近くに──馬車に乗って大体三日ぐらいの距離に──ダンジョン一体型の都市がある為、そこに比べるとかなり規模の小さいギルドとなっている。

 受付窓口も二つしかないので、混雑時になるとかなり待たなくてはいけないし他にも、大きいギルドと比べると見劣りする点は幾つもある。

それでも、全体的な雰囲気が個人的に気に入っているので、私はここのギルドで満足している。

ダンジョン都市ってなんかギスギスしてて、忙しない感じがするし。

治安的にもなんかちょっとなぁって、私の勝手なイメージなのだけどね。

 でも、私と同じ様な考えの人がいるとは思う。

だって、規模の割に此処を利用する冒険者の数は結構多いから。


「こんにちは、アーヤさん。今日はどのようなご用件でしょうか?」


 何時もの様に笑顔を浮かべるミシュアさんに、受付も大変だなぁと思いながら、肩掛け鞄から小分けにしていた袋を数点取り出して、その中身を見せる。


「あの、常時依頼の薬草採取の納品です」

「いつもありがとうございます。

 近い距離にダンジョン都市がある所為か、若い方や新人の方はすぐにそちらの方に行ってしまって……。

 報酬が少ないのでベテランの方には人気がありませんし、だから頻繁には受けてもらえず、薬草の数も何時もギリギリの状態でして……。

 でも、アーヤさんが来られてからは徐々に備蓄も増えてきて、本当に助かってるんです」

「いえいえ。私は自分のついでみたいなものですから。そのついでにちょっとしたお小遣いを貰えるなんて、こちらこそ助かってますよ。

 とは言っても、他にもやる事があって頻繁に受けられないのが申し訳ないのですが……」

「とんでもないです!

 アーヤさんは錬金術師なんですから、本職が優先になるのは当たり前じゃないですか」

「ありがとうございます。まだまだ一人前と胸を張って言えないのが辛いところなんですが……」


 思わず苦笑いを浮かべる。

 師匠には独り立ちしても大丈夫とは言われたけれど、やっぱり不安が大きいのか、失敗もよくするし、師匠と一緒にやっていた時よりも手間がかかっているというか、なんかすんなりと出来ていない。

 なんだかんだと言って甘えていたんだろうなぁ、一人になって改めて思った。


「おいおい、何時まで喋っているつもりだ?」


 ちょっとだけ思考にふけっていたら、溜め息と共に呆れたという声音でそんな言葉が聞こえてきた。

 その声で思考を中断すると、意識を声の聞こえた方へと向ける。

 そこには、ミシュアさんの後ろで腕組みをして一人の男の人が立っていた。


「ガンクローゼさんっ!?」


 ミシュアさんはそう叫んだと同時にピッ!と背筋を伸ばした。

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