第11話
「わたしはね、図書館の妖精に守ってもらってるの。魔物とお話しするのが得意になるんだ!」
ココは目を丸くする。
「それってお父さんと同じですよね?」
守りの種類が知られているぐらい父親は有名人みたいだ。
「そうだよ!」
「じゃあ、魔法が得意なんですね」
魔物と仲良くできるということはそれだけ、契約が結びやすくなるということか。
「お父さんにも、もう負けないよ!」
腰に手を当てて自慢げに胸を張った。
そこまでの魔法が使えるなら、あの男につかまることもなかったんじゃないのか?
「すごいね、サシャ。あの怖かったおじさんも倒せたんじゃないか?」
「……うん。でも魔法はぼうりょくのために使っちゃダメってお父さんと約束したから」
自分の命が危険にさらされても、その教えを守ったのか。俺は自分のスキルを積極的に、恨みを晴らすことに使おうとしているのだから胸が痛くなる。まあ、だからといってやめることはないが。
悪いやつは悪い。これは考え方の違いだ。
「サシャはいい子ですね。明日、お父さんもここに帰ってくるみたいですし、早く寝ましょうか」
「うん!」
ココと俺は代金を支払って、食堂を出た。
受付で宿泊代を支払うと、アルルさんが部屋まで案内してくれた。
「うちは、そういうことをするのは禁止ですのでー」
「わかってますよ! 子供が一緒に泊まるんですから!」
そういうことってなんだろう。
二人のやり取りはよくわからなかった。
扉を開いてみると、安いビジネスホテルとまんま同じような間取りが広がっていた。
シャワールームとトイレもついているらしい。
銅貨五枚。カフェで飲んだガジョマルが銅貨一枚だったことを考えると格安なのかもしれない。
サシャは部屋にあったオレンジ色の宝石に触れた。
「効果を表せ!」
部屋に暖色の明かりが灯る。
「今日は疲れたでしょうし、もうゆっくりしましょう。私はシャワーを浴びてきますので」
俺はごくりと唾を飲む。ココが服を脱いでシャワーを浴びている姿をどうしても想像してしまう。
控え目だが、確かに質量のある胸と、張りのあるきめ細やかな……
だめだ。
頭を振って邪念を取り払う。
「どうしたんですか? あ、サシャも私と一緒に入りますか?」
「わたし、一人で大丈夫だよ」
サシャの立場からすれば世話になりっぱなしなので、負い目があるのかもしれない。
「そうですか。じゃあ、別々に入りましょう。あ、クリハラは最後で」
「なんでだよ、まあ、いいけど」
そう言うとスタスタと歩いてシャワー室へと向かって行った。あえて最初に入ったのはサシャに気を使わせないためなのだろうか。
「わたし、こんなに助けてもらっていいのかな?」
「いいんだよ。正しいことをしただけだからね」
「正しい?」
「俺の中の決まりみたいなものだよ」
「ふうん?」
よくわからないという顔をしている。俺もよくわからないことを言っている自覚がある。
「気にしなくていいよ。じゃあ、お返しに魔法を教えてもらおうかな!」
「いいよ! わたし得意だもん!」
「あの灯りはどうやってつけたんだ?」
「クリハラ、灯りも付けられないの?」
この世界じゃあ初歩中の初歩だろう。ひらがなの書き方を子供から真剣に教えてもらおうとしているのと変わらないのかもしれない。
「そうなんだ。俺は何も知らないんだ」
俺は人並みの努力じゃどうにもならないことを自覚している。だから、プライドなんて元から無い。
サシャは笑うと思ったが、まじめな顔をして教えてくれた。
「まずね、手をかざして、心の中でしゃべりかけるの。『光を下さい』ってね。それから自分のせいめいえねるぎーを流し込むのそれで『効果を表せ』って唱えるの」
「わかった。やってみる」
まだ、光の付いていないベッドわきの宝石(読書灯だろうか?)に手をかざしてみる。
(光を下さい)
それから体の中のエネルギーを手のひらから放出するイメージをしてみる。
「効果を表せ……え?」
宝石が光り始めたのは良かったが、明るくなり続けて、一向に収まる気配がない。
「クリハラ! 手を放して。そのままじゃ爆発しちゃうよ」
「爆発⁉」
俺は慌てて手を放す、若干宝石から熱が感じられる。
だが光は収まらない。
「なんですか⁉ 敵襲ですか⁉」
後ろからココの声がしたので振り向く。
そこには何も着ていない、生まれたままの姿のココがいた。
控え目だが、確かに質量のある胸と、張りのあるきめ細やかな……、いや思った二倍は質量のありそうな胸としなやかな足、濡れた髪が頬に張り付いて妖艶な雰囲気を醸し出している。
かなりの光量に照らされた体は、なんというか……艶やかだった。
「い、いやあああああああああ!」
「ふごっ!」
走ってきたココに頬を殴られた。
「さすがに理不尽だろ!」
言い返そうとすると、空気が振動して、ココは消えた。テレポートしたのか……。
サシャは宝石に手をかざして、光を弱めながら大きな声で笑っていた。
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