第9話

「あれー、喜ばないんですかー」


 アルルさんは首を傾げる。

 ギルドにいる全員が俺に注目していた。


「そもそも、「守り」って……」


 危ない。こっちの常識を知らないような言動をとると、色々勘繰られるかもしれない。異世界人だと指を差される可能性もある。


「ちょっと遠いところから来たんですかねー?」


 背中から汗が噴き出した。


「クリハラ、「神のご加護」と言ったら、わかりますよね?」


 ココ、ナイスパス。


「ああ、そのことか。それで、俺の「ご加護」はなんなんだ?」


 どうとでも取れるように聞いてみる。

 それで、周りは納得したみたいだった。地域によって呼び方が違う概念なのかもしれない。


「「タルマハジャ神の守り」ですねー。本当にすごく珍しいですー。数100年に一人くらいしかいないですよー」


 またざわつき始めた。

 間伸びしていたアルルさんの声が若干うわずっている。それぐらい、特別なのか。

 不用意なことを言わないように、黙って話を聞こう。


「すごい……」


 ココも感動しているみたいだ。俺の力が優れていたからなのか、運がよかったからなのかはわからないが、期待に添えたみたいでよかった。


「もっとわかりやすく言うならー、「レベルが人の数倍上がりやすくなる」特性をクリハラさんが持っていると言うことですねー、これは期待の新人ですー」


 俺の成長速度が、人の数倍だと言うことか。それはいいな。何せ俺は容量が悪いせいで、反復練習しかできないのだから。それぐらいのハンデがあってやっと、他人と並び立てる。


「ついでみたいなものですが、レベルは10です。新人にしては高い方に属してはいますが、普通の範囲内ですー。驚くべきは、さっきの戦いでレベルが2も上昇したことですかねー」


 レベル10か。上限がどれぐらいなのかはわからないが、決して高くはないだろう。スキルも磨けるだけ磨きたいし、高度な魔物とも契約しておきたいから、できる限りレベルは上げておこう。


「そして、冒険者ランクはB級ですねー!」


 冒険者ランク? 受けられる依頼の数がランクによって変わるのかもしれない。


「え、俺より上? ルーキーにしてはすごくないか?」

「ワシは三年以上、Bにランクアップできなかったんじゃがのう」

「でもあの、異世界から召喚されたってあいつは、いきなりS級だったんだろ?」

「あれと比べるのはちょっとかわいそうだぞ」


 「異世界から召喚された」という単語が聞こえた。どの世界かはわからないが、地球からの可能性もある。ココのギルドを利用しているのか。あとで調べる必要があるな。


「どうですかー、こちらの結果で冒険者登録してもよろしいでしょうかー」

「良いですよ。ただ、S級になったルーキーがいるって聞こえてきたんですけど?」


 アルルさんは苦笑いをする。


「気にしないで、大丈夫ですよー。あれはちょっと特殊ですからねー。クリハラさんが劣ると言うことにはならないと思いますよー。人格面では特にー。あなたがいい男に見えるくらいですー」


 聞きたいこととはずれている気がする。よほど恨みがあるのだろうか。

 その言種だと、俺が普通いい男に見えないみたいじゃないか。いや、褒められたと思って受け入れておこう。

 そいつについては、後で詳しく聞こう。


「ありがとうございます」

「んー?」

「いや気にしなくていいです。じゃあ、登録よろしくお願いします」

「わかりましたー、ここでお待ちくださいー」


 アルルさんは、受付の奥にある部屋に入っていった。


「クリハラ、これで私との契約を果たせそうですね」


 涙で潤んでいた目はもう乾いている。いつも通りのココに戻っている。

 ココは緩んだネクタイを締めた。


「契約はした覚えがないけどな。まあ、言われた通りには払うつもりだよ」

「いいでしょう」


「クリハラ、カッコよかったよ! みんなびっくりしてたみたいだし、すごいんだね」


 緑色のおかっぱを揺らしながら、俺の制服の裾を引っ張って言った。

 ココと違って、この子は素直でいいなあ。


「お待たせしましたー」


 アルルさんが戻ってきた。枕ぐらいの大きさの皮袋を抱えている。


「これ、入会特典の皮の防具ですー。後、これが冒険者のライセンスになりますー」


 入会特典があるのか、スポーツクラブみたいだな。冒険者ライセンスには俺の名前と、レベル、そしてランクが記されている。「守り」についての記載はないみたいだった。


「ありがとうございます」

「それじゃー、これで登録は終わりですー。疲れたでしょうし、ゆっくり休んでくださいー。後、無粋な質問なんですけれど、ココさんとクリハラさんはカップルなんですかー」

「はあ⁉︎ 違います!」


 ココは即座に否定した。

 それはそれで悲しかったが、事実なので仕方がない。俺も悪質な業者と恋人同士になりたくはない。


「違いますよ、まあ色々あって一緒にいるんです」


 説明のような言い訳のような事を俺が言うと、アルルさんは一気に距離を詰めてきた。


「それじゃあー、今はフリーってことですかー?」


 耳元で囁かれてくすぐったい。自分の心拍数が上がっていくのがわかる。動けない。


「後で私のところに来てくださいー、色々サービスしますよ」


 え? え? サービス? そういうサービスしか想像できませんけど。


「クリハラ、何を言われたんですか?」


 ココの声はいつも以上に冷めていた。


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