第8話
剣先が引っかかる感触があったので、そのまま振り抜いた。
勢い余って、俺は尻餅をついてしまう。カッコ悪いな。やっぱり道具を使って戦うのは向いてないのか。というか道具を使わずに戦う奴なんているのか?
観客席の方向から、悲鳴が上がる。
砂煙がおさまると、スライムが飛び散って跡形も無くなっていた。うん、筋トレをした甲斐はあったみたいだな。
「アルルさん、倒しましたよ!」
「お、お見事ー! じゃあ、次行きましょうー、次は、スキルも使ってみてくださいー」
「わかりました!」
とは言っても、スキルの使い方がわからない。前回はたまたま、発動しただけだからな。
観客席にまでスライムの破片が飛び散ったみたいだ。申し訳ない。
サシャはココの服についたスライムの破片を拭き取ってあげていた。
「サシャ、服を汚しちゃってごめんね!」
「いいよー、クリハラカッコよかったよ!」
無邪気に笑って、サシャは答えてくれる。
「感情を込めて戦ってみてください」
ココが平坦だが、良く通る声で俺に言った。
意味もなく俺にそんな要望をしてくるとは思えない。多分、スキルの使い方を教えてくれているのだ。
「わかった。アルルさん、お願いします」
「わかりましたー」
鉄格子の扉が再び開くと、ユニコーンのようなツノが生えたサイが入ってきた。サイよりも少し身体が華奢だ。
どちらにせよ、見た事のない生き物だ。
「次の相手はサイコーンですー」
サイコーンって、適当だな。ユニコーンとサイを組み合わせただけだ。多分、サシャの魔法で相手のしゃべっていることが日本語に変換される過程で、そうなってしまったのかもしれない。
さっきはスライムの攻撃を受けなかったから、脅威がよくわからなかったが、みるからにサイコーンは危険だ。
あのツノで一刺しされたら内臓まで貫かれるだろう。流石に鉄の防具を貫通しないと思いたいが。
サイコーンは後ろ足で土を何度か蹴り上げると、俺の方向に向かって全力で突進してきた。猪もそうだが、こういう猪突猛進タイプは急な方向転換が苦手なはずだ。
凄まじい速度だが、躱せることには躱せる。
一旦右によけて、相手が急停止した隙に隙に剣を叩き込む。
また床に突き刺さった。
やっぱり当たらないか。
武器を使うのはやめだ。先にスキルで体力を奪ってしまおう。
剣を一旦、ヒットを打った野球のバッターみたいに投げ捨てようと思ったが、道具は丁寧に扱うのが正しい。そっと足下に置く。
「おい、どっちに狙いを定めてんだ! こっちだぞ!」
また一直線に突っ込んでくるサイホーンを、かわさないことにした。こっちが狙えないなら、相手に狙わせれば良い。
角の先に意識を集中させ、俺の体を貫く前に両手で押さえる。このまま相手の動きを止めてやろうと思ったが、力が及ばず、押し出されていく。
感情を込めなければ……。最近あった、ムカつくこと……。
ああ、あれがある。
「金取るなら、先に言えよおおおお!」
目の端で、ココがびくりと動くのがわかった。
痛快。
両手に、青色の光が宿った。これだ。体に力が宿るのがわかった。徐々にサイホーンとの力が拮抗していき、押し返せ始めた。
片手を離して、思いっきり頭に拳骨を食らわせる。
サイホーンは白目を剥いて、突っ伏した。
痙攣はしているが、もう立ち上がって攻撃をしてくることはないだろう。
「はいー、そこまでですー」
観客席はざわめいた。
「あの子、サイホーン倒しちゃったぞ」
「なんだあのスキルは……エナジードレイン?」
「ふふふ。かっこいいじゃない。ルーキーは大体負けちゃうのにね」
よし! エルフのお姉さんに「かっこいい」を頂きました。
心の中で俺はガッツポーズをする。
大体のルーキーが倒されるモンスターを二匹目に選ぶなよ。
「じゃあー、さっきの受付に戻ってもらえますかー」
「はい!」
アルルさんにも願わくば「かっこいい」のお言葉をいただきたいものだ。ココは死んでもそんなことを言ってくれない気がする。
受付に戻ると、サシャ、ココ、アルルさん、そして野次馬の面々が待っていた。暇なのか? この人たちは。
「じゃー、結果を発表させてもらいますねー」
アルルさんは長方形のガラス板のような道具を見ている。いや、読んでいるのか。測定した結果が板の上に表示されるのかもしれない。
唾を飲む。アルルさんは俺の反応を楽しんでいるように見える。何せ俺の追い求めていた力の正体が判明するのだから。俺と、家族の恨みを晴らすための力が。
「スキルは……名付けるなら『エナジーコピー』ですねー」
「エナジー、「コピー」?」
「そうですー。相手の力を奪うのではなくてー、自分と相手の生命エネルギーを同じにするスキルみたいですー。まだ、なんの成長もしていないので、このスキルがどんな方向に成長するかはーわかりませんけどー」
野次馬たちは盛り上がっている。「コピー系統」のスキルは珍しいのだとか。相手から奪っているのではなく、相手の生命エネルギーが下がって、自分の生命エネルギーが上がって均衡が取れたということか。言い換えれば、触れた相手とのレベルが全く同じになるというわけか。
でも同じ力じゃ決着がつかないはずだ。
「あと、みなさん、よく聞いてくださいよ。この子は「守り持ち」ですよ」
沈黙が訪れる。
そして、ギルド中の人が絶叫した。
全員聞いてたのかよ。
アルルさんは、意外とエンターテイナーなんだな。俺の個人情報をネタにしないでほしいけれど。
「守り」とはなんだろう。
「ココ?」
ココに説明させようと思って呼びかけてみると、目を潤ませて俺のことを見ていた。
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