第7話

 モンスターと戦うための闘技場は地下にあるらしい。アルルさんが両開きの扉を開けると、野次が飛び交った。


「新入り―! 頑張れよ~!」

「生きて帰れるのは二人に一人だってよ」

「がっははは! 適当なこというなよ」


 適当に俺の生存確率を定めないでほしい。自分の評価が決まる試験には割と慣れているけれど、モンスターと戦う試験は初めてだ。日本でそんな試験を受けたことがある人なんて、一人もいないだろう。いや、いるのか。かつてこの世界に来たことがあるあいつらなら。

 俺がモンスターと戦っている間に、魔法を使った道具で(魔道具というのだろうか?)、レベルやスキルを調べるらしい。その結果で冒険者のランクとやらが決められるみたいだ。ランクによっては報酬が多い依頼を受けられるので、全力は尽くすべきだろう。


 石階段に足を踏み入れると、ワイングラスを指ではじいたような音が鳴って、赤い宝石に光が灯された。

 階段の先には鉄格子の扉がある。

 その左右にも別の扉があった。


「ではー、クリハラさんはこの先で、我々はこっちに行きましょう」

「一人で入るんですか?」

「もちろんー、男の子なら大丈夫ですよねー?」


 アルルさんは母親のような笑みで優しく言った。

 無言の圧力を感じた。


 扉を開いて中に入ると、運動グラウンドみたいに砂が敷き詰められた空間が体育館ぐらいの大きさで円形に広がっていた。意外と大きいな。

 そして上部には鉄格子で隔絶されているものの、観客席がある。そこにはさっき野次を飛ばしていた野郎どもが座っている。

 見に来るのかよ。

 あ、エルフのお姉さんも座ってる。これは見せ場だな。


「それじゃー、そこにある防具と武器は使ってもらって構いませんのでー、始めるときはいってくださーい」


 皮でできている防具や、鉄でできている防具などがたくさん並んでおり、剣や斧などの武器も立てかけられている。

 大きな宝石がはめられた棒は、もしかして魔法の杖か? 使ってはみたいけど、今はまだ無理だな。

 武器なんか使ったことないな。

 不安ではあるけれど、心がちょっと踊っているのが分かる。

 できるだけ丈夫そうな金属製の防具をつけていく。サイズは色々用意されているみたいだから、大丈夫そうだ。なんとなく装着できた。

 スタンダードな武器と言えば剣だろう。短くて持ちやすそうな剣を手に取ってみる。

 軽いな?

 俺の身長の三分の二くらいの大きさの剣を手に取ってみる。

 うん、しっかりくる。


「あいつ、両手剣使いなのか。体格にあってなさそうだがな」


 細いのは自覚してる。余計なお世話だ。

 これ、両手剣なのか。片手で使うつもりだったが。


 唾を飲み、深呼吸をする。うん、やろう。なにせ俺はあの試験で一位をとれる男なのだから。


「アルルさん! 準備できました! お願いします!」

「はいー! 皆さん、ご注目ー! 最初の敵はスライムですー」


 最初? 何回も戦わされるのか? まあ、レベルを測るには敵をだんだん強くしていく方が図りやすいのか。わかりやすいし。

 RPGゲームなんかではスライムは初期モンスターだと相場が決まっている。こいつは俺でも倒せるだろう。


 俺が入ってきた扉とは真反対の位置にある扉が開いた。 


「クリハラ、頑張れ~」


 サシャは無邪気に笑って手を振ってくれている。

 手を振り返しながら、ココを見ると、真剣な目つきでこっちを見ていた。まあ、仕事の報酬に直結するんだから真剣にもなるか。


 何の音もなく、透明な緑の液体が扉から飛び出した。


 ドスン。


 ドスン? ゲームなんかでよく見るスライムはもうちょっと軽いイメージだけれど。

 体積で言えばあの大男と同じぐらいありそうだ。

 捕まったら窒息ものだ。

 さて、どう倒したものか。

 俺のスキルはエナジードレインらしいから、まず体力を奪って、そこから攻撃するのが一番いいのか?

 でもどうやってスキルを発動するんだ。

 攻撃ボタンもスキル発動ボタンも現実にはない。

 

 とりあえず剣で斬りかかってみるか?

 剣を持ち上げ、思いっきりスライムにたたきつける。

 粉塵が舞って、視界が一瞬ふさがれた。


「おお! 見かけによらず、あの子すごい力だぞ。でも……」

 

 狙いとは大幅にずれた砂に剣がめり込んでいた。スライムはぴんぴんしている。

 やっぱりこうなったか。想像の中の俺は剣を使ってテロリストを何人もなぎ倒してたんだけどな。


 道具を使う球技は苦手だった。水泳や陸上は誰にも負けなかったけれど、テニスなんてボールにラケットが当たったことはほぼないし、あったとしても、飛んで行った球が見つかったことはない。


 当たるまでやるしかないか。

 

 俺は剣を頭の上にまで上げて、スライムのいる方向に何度も振り回した。

 風圧でスライムは飛んでいきそうになってはいるものの、まだ当たらない。

 まだだ。


「何をやってるんだ、あの子は? 攻撃が当たらないにしては、当たらなさすぎじゃないか?」


 数秒が過ぎて、やっと剣がスライムにめり込んだ感触が手に伝わってきた。勢いを殺さず体重をかけて振りぬいた。

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