第6話
冒険者ギルドは、思ったよりも大きな建物の中にあるみたいだった。門を通ると、整備のされた庭があって、その先に木造三階建ての大きな建物があった。体感で言うなら、都会にある駅ぐらいの大きさ、といったところか。
庭には頭が爬虫類になっていたり、動物の耳が付いていたり、耳が長かったり、三メートルを超えていそうだったりする、亜人達がたむろしていた。
初めて亜人を見た。地球にもこの世界から彼らがやってきたらしいけれど、俺が生まれてすぐのこととだったから実際に見たことはない。
彼らは談笑をしながら、肉を食べたりジョッキを交わしたりしている。この世界が一日何時間あるのかは知らないが、まだ昼のはずだ。
「真昼間から、酒を飲んでるみたいだけど、意外に平和なんだな。もっと荒くれものがいるイメージだった」
「そうですね。ただ、人間が嫌いな方もいるので気を付けてください」
確かに、俺たちに視線を向けてくる者達がいる。この国は人間が大多数だから、差別もあるのかもしれない。差別は正しくない。
耳の長い、エルフ? は露出の多い、半透明な布を纏っている。高校生男子としては見ずにはいられない。美形が多くて、全員に一目惚れしてしまいそうだ。
見たことが無いぐらい大きな胸だ。
人間が嫌われていても、あの子達には嫌われたくないなあ。
「あの人は人間が嫌いなんじゃなくて、あなたが怖いのでしょうね」
え?
「クリハラはえっちだね!」
サシャはころころと笑った。言語化しないでくれ。
抗いようのない衝動なんだ。
「さあ、入りましょう」
中は白色の宝石に照らされており隅々まで明るかった。物々しい格好をした人であふれかえっていた。甲冑を思わせる防具や、剣や槍を身に着けている人が多い。
外に比べて、亜人は少なく、人間が多い。
彼らが話しているのを聞いている限り、大形の生物を討伐しに行く部隊みたいだった。
売店らしき場所も、レストランらしき場所もある。ギルド、というよりかはホテルみたいだな。
ホテルでたとえると、エントランスの受付のような場所に、ココは案内してくれた。
「依頼を出しても良いですか? 人探しなんですけど」
ココは淡々と話す。
サシャの父親を捜してほしいという、依頼を出すのだろう。依頼の三割が人探しだと言うのだから、そこそこ当てになるのかもしれない。
「かしこまりましたー。どんな人物か、こちらにご記入ください」
えんじ色のブレザーを着た受付嬢が対応してくれた。栗色のショートカットで、大きなくりくりとした目が特徴的だ。
あと、エルフほどじゃないが、胸は大きそうだ。いや、それはどうでもいいが。
ココはサシャから父親がどんな人なのかを聞き出していく。
「もしかしてですけどー、ミルヘルムさんって、あの魔法使いのミルヘルムさんでしょうかー?」
間延びした喋り方をする人だ。
受付嬢はココに問う。
「そうですけれど」
「ミルヘルムさんは依頼を受けていかれましたよー。明日には戻ってくると思います」
元貴族の有名人がなぜ冒険者ギルドで依頼を受けているんだ?
同じことを思ったのか、サシャは目を見開いた。
「サシャのお父さんなんだけどね、どうしてここにいるの? もう一か月も帰ってこないの」
受付嬢は眉を顰める。
「ごめんねー。私からは詳しく言うことはできないのー。明日お父さんに直接聞いてみたらいいんじゃないかな?」
サシャはぱっと顔を輝かせる。
「うん! そうする!」
直接言えないような事情か。これは訳アリだな。
受付嬢はココに耳打ちをした。
「そうですね。今日は、クリハラの冒険者登録を済ませて時間をつぶしましょう。お父さんの件は明日にした方がよさそうですし」
スキルを調べるとは聞いていたけど、冒険者になるとは聞いていないぞ。でも、金を稼ぐにはそれが手っ取り早いか。やろう。
こちとら10種類以上のバイトをしてきたんだ。
「わかった、そうしよう。サシャもそれでいいか?」
「うんっ! 色々ありがとう!」
やっぱりいい子だな、と俺は思った。
「では、登録を行いますー。申し遅れましたが、私の名前はアルルですー」
「俺の名前は、繰原匡です。よろしくお願いします」
アルルさんはにっこりと、勿論ビジネススマイルだろうが、俺の目を見て笑った。胸がどきどきしてくる。
冒険者一人につき一人担当が付くそうで、アルルさんが俺の担当になるらしい。
悪くない。いや、良い。
「レベルとスキルを調べるためにー、モンスターと戦ってもらいますー。ではこちらに」
「はい! わかりま……した?」
今モンスターって言わなかったか? 俺は魔法で測定するものだと思っていたが、戦わなくてはならないのか?
「え、今から戦うんですか?」
「ええー、モンスターとの戦闘は冒険者をやる限り避けられませんから。戦闘面でスキルを活かせるかどうかもー調べさせてもらわないとなんですよー」
アルルさんの笑顔が怖くなってきた。
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