第4話

 店を出て、ココの後ろについていく。

 銅貨で俺の分まで支払いをしてくれた。

 あくまで、異世界への通行費と力の対価を払ってくれればよいというスタイルみたいだ。


 石造りの建物の外には出店が並んでいて、見たこともない食べものや、雑貨が売られている。子供たちが楽しそうにはしゃいでいる後ろで、親たちが呆れてそれを見ている。

 ここがメインストリートなのか。文化こそ違えど、日本でよく見た光景ではある。妙な親近感が湧いてきた。


「ココもここで育ったのか?」

「そうとも言いますし、そうとも言えないですね。あと、プライベートな質問はやめてください。仕事ですから」


 ココは遠くを見ている。

 目線の先には、城が見えた。世界史の教科書で見たことがあるような気がしてくる城だ。ここは王国だし、王城なのかもしれない。

 まさかココが王族ということはないと思うが。


 脇道に入って、メインストリートから外れた。ガラッと雰囲気が変わるのがわかった。狭い道には日光が入らないのか、薄暗い。出店ではなく露店が多くなった。布の上に、は割れた皿や石を並べて売っている人が多い。


「この辺りは治安が悪いので気をつけてください」

「ああ、言われなくてもなんとなく察してるよ」


 何度かものを売りつけられそうになったが、無視して進んでいく。日本でもキャッチは無視するのが一番だと、誰に教えられることもなく常識になっている。それと同じことだろう。

 しばらくして、子供の鳴き声が聞こえてきた。

 ちらっと伺うと、何かを盗んだ子供が店主に怒られているみたいだった。


「あれ、ほっといて良いのか?」

「良いんですよ。子供の盗みはよくあることだからいちいち相手にしていたらキリがありません」


 目を逸らして通り過ぎる。


「お兄ちゃん、お姉ちゃん、助けて! このおじさんに連れていかれちゃう!」


 俺たちに言っているのだろうか。……関わって良い事はない。


「無視してください」

「ああ」


「助けて! お願い!」


 少し小さくなった声で子供は叫び続けている。

 盗みはダメだが、気持ちはわからなくない。俺もバイトができる歳になるまで、まともに食べれなかった。父親のやっていた工場が買収されたせいで、稼ぎ口がなくなった頃を思い出す。

……空腹はきついんだ。

 ダメだとわかっているが、やっぱりどうしても放っておけないよなあ。


「ちょっと!」


 俺は助ける子供の方に走り始める。


「ごめん、すぐに終わらせる」


 小さな女の子が巨漢に頭を鷲掴みにされていた。女の子は7、8才くらいだろう。緑色のおかっぱで、丸眉毛が特徴的だ。

 男の方はスキンヘッドで、顔には刀傷が入っている。身長は190センチはありそうだ。

 とりあえずは、話し合いでどうにかしたいが。


「あ? なんだお前は?」

「俺のことはどうでも良いだろ、子供のやったことなんだから許してやれよ」


 足が震えてきたが、正しいことは正しいと言わなければ。これは俺の信条だ。


「うーん、そうだなあ。こいつが高級食品を食っちまったせいで、金を払ってもらわなきゃ生活できなくなるって言ったらわかるか? お兄ちゃんが金を払ってくれるならいいぜ」


 男は黄ばんだはを見せて笑う。


「違うよ、このおじさんがくれたのはただのパンだもん! ただでくれるって言ってたもん!」


 女の子は必死に訴える。

 目は潤んでいるものの、まだ泣いてはいないみたいだった。強い子供だ。


 どっちの言っていることが正しいかは見て明らかだ。


「オレも食って行かなきゃなんねーからよ、この子を売っちまうしかないんだ。お父さんを呼んで来て、お金を払ってもらえって何度も言ってんだけどな、それはダメらしいからな」

「だって、お父さんは来ないよ。仕事に行ってるんだもん」


 女の子は真剣な顔で訴える。


「ならお母さんでも呼べばいいじゃねえかよ」


 なぜそこまで子供相手に金を取ろうとするのだろう。確かに、この子の着ている服は汚れてはいるものの、上等そうだ。なぜこんなところで、お腹を空かせていたのだろう。

 上等そうだからこそ、親の金に目が眩んだのかもしれない。


「おい、これなんかどうだ」


 俺はポケットからスマホを取り出して、そいつの写真を撮る。


「何をする気だ」

「まあ、いいから見ろって」


 自分の間抜け面が写っているだろう画面を男に見せてやる。


「これは……、魔物の目を借りたにしては綺麗だな。良くできてやがる。俺様のかっこいい顔もバッチリだ」

「お気に召したようで何より。それは魔物を使わないで使用できる道具だ。これをやるからその子を離してくれないか?」


ココから聞いた付け焼き刃の知識で、それらしく説明をしてみる。 

男は繁々とスマホを眺めると、満足げにうなづいた。


「まあ、これだけの絡繰からくりを使ってて、値段がはらねえことはないだろう。ほら、離してやるよ」

「存分に自分の顔を楽しむといいさ」


 現代っ子としてスマホを手放すのには、やっぱり抵抗があるな。


「うわっ」

 

 緑髪の女の子が放り出されたので、体を使って受け止める。


「それじゃあな。お兄ちゃん、ありがとよ」


 一か八かの賭けだったが、カメラ価値のあるものみたいで助かった。

 ココは、こっちを真剣に見つめている。

 女の子を立たせて、目を合わせる。


「大丈夫か?」

「うん、ありがとう」


 所々、あざができているが大きな怪我はしていないみたいだった。


「よし、お父さんとお母さんのところに帰ろう」


「クリハラ! 危ない」


 ココは俺の後ろを指差して叫んでいる。

 スマホじゃ満足できなかったんだな。見てろよ。毎日ダンベルを千回持ち上げていた男を舐めるな。武術を学んでいるわけじゃないが、ただぶん殴るだけなら俺にでもできる。

 自信がなくてもやるときはやらないといけない。


 そもそも、スマホを渡すつもりなんて無いしな。

 子供を騙して、金を奪おうとするなんて、




 

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