第3話
「冒険者ギルド」という場所で依頼を受けて得た報酬から、五割が差し引かれるらしい。闇金より質が悪い気がする。
「冒険者ギルド」と聞くと、ゲームや漫画や小説に出てきたものが思い浮かぶ。ココの説明を聞く限り、そのイメージとはあまり離れていないみたいだった。
「魔法についてですが……」
料金についての説明を口早に終えると、俺に質問をさせる暇も与えず、魔法の説明にとりかかった。
この子、見た目通り胡散臭いし、可愛らしい顔にそぐわず腹黒いぞ……。
魔法は俺が想像していたものとはちょっと違った。
元々、人間や亜人たちが誕生する前からこの世界にいる魔物が使っていた不思議な力らしい。無から有を生み出せる力だそうだ。循環の中にいる人間や他の生物たちには使うことができない力なのだそうだ。
よくわからない話だ。
シルクハットから、鳩を取り出すには、タネもしかけもないといけないってことか?
なんにせよ、使えないのは残念だ。ゲームでよくあるみたいに、呪文を唱えてファイヤーボールでも飛ばしてみたかったな。
「訓練したら、使えるようにならないのか? いくらでも練習はできるぞ」
「なりませんよ」
店員がマグカップを二つテーブルに置いた。ガジョマルという、ブルーハワイのシロップみたいな見た目だ。ちなみに暖かい。
ココはなんの抵抗もなくそれを口にする。
「……おいし」
「え?」
トロンんとしためで、ココはつぶやいた。男物のスーツとのギャップがすごい。こんな反応もできるのか。見た目通り、仕事以外ではただの女の子なのかもしれない。
俺も恐る恐る口に含んでみる。
「美味しい……。酸味がうまく調和してるな」
「そうですよね! 美味しいですよね! ガジョマル」
「お、おう」
目を見開いて、食い気味に捲し立てた。そんなに好きなのか。気持ちはわかるが。
「ごめんなさい。取り乱しました。なんの話でしたっけ、そうだ、魔法ですね」
ココは話を続ける。
魔法の力を借りることはできるみたいだった。街で浮いていた宝石や、首にかけている透明の宝石が、そのための道具らしい。
石を世界に魔物だと認識をさせて、それと契約を結ぶらしい。本物の魔物と契約を結ぶと危険を伴うことが多いから、道具を使うのだそうだ。強力な魔法を使おうとすればするほど、本物の魔物に近い道具を使わなければならないため、力量が必要なようだった。
「これでわかりましたか?」
「ああ。大体わかったぞ。その道具ってのは俺でも使えるのか?」
「大丈夫です。後で一緒に見にいきましょう。必需品ですからね、それぐらいはこちらで用意します」
良かった。高値で売り付けられるのかと思った。
魔物と契約、不思議な力。うん。悪くない。男の子なら心躍らないやつはいないはずだ。
「それともう一つ、スキルについて話しておきましょう」
この世界の人々には生まれ持って、魔法以外の特殊な力が与えられるらしい。体にある生命エネルギーを用いて、発動させるのだそうだ。
ただ、使える力は十人十色で、強大にはなるものの、基本的には他の力を使うことができないらしい。
スキルには四段階の力の大きさがあって、おおよそレベルと呼ばれるものが上がるにつれて、解放されていくのだそうだ。
レベルは、生命エネルギーを測定して、算出される。
「ココはどんなスキルを持ってるんだ?」
「……」
ココは表情を変えないまま黙り込んでしまった。
「ココ?」
「ああ、すみません。私のスキルは「
無意識に魔法だと思っていたが、空間に穴が開いたのはスキルを使ったからなのか。
「俺にもスキルはあるのか?」
「はい、ありますよ。『力が与えられる』の力がそうですよ」
なるほど。この世界で生活できるだけの力、とはスキルのことらしい。俺が求めていた力。復讐するための力。
これを得るためにはこの子にいくら騙されても、どれだけ金をむしり取られても構わない。
「よし、今すぐ使ってみたい。どうすれば良いんだ?」
「まあ、落ち着いてください。『冒険者ギルド』に行ってみましょう。そこで調べてもらえると思いますよ。あの試験を一位で通過したなら、かなりのレベルと、スキルが見込めるはずですよ」
高揚が一気に冷めていくのが自分でもわかった。
俺には特別な才能は何もないのだ。ただ淡々と物事を続けられるだけ。
果たしてココが期待するような結果が出るのだろうか?
解雇されても日本に帰れないなら路頭に迷うだけだぞ。
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