練習練習

 次の日、織姫に言われて、リゲルは織姫から手渡されたタッチパネルに表示された書類を書いた。


「ここに名前と、実家の住所を書いて。ちなみにご家族は?」

「うーんと。オレの父さんも母さんも既に死んでるんだ。今は残してくれた畑で生活してた。一応モニターでロボットに指示しながらリモート管理できるから、その辺は大丈夫」


 リゲルはそうのんびりと声を上げているのを、織姫は「そう」とだけ言った。

 最後にサインを記入してタッチパネルを返すと「はい、それじゃ受理しました」と受け取ってくれた。


「君のアイドルとしての素質はわかったけれど、スターダストフェスティバルまで、もう時間が二週間しかないからね。詰めて練習していきましょう」

「はあい」

「とりあえずシリウスくん。リゲルくんにアイドルとしてのこと、いろいろ教えてあげてね」

「はい」

「デネブくんも。仲良くしてあげて」

「はあい」


 こうして、三人でレッスンルームへと向かった。

 シャツにジャージというラフな出で立ちで、床体操をはじめる。

 入念に柔軟体操をして体の筋という筋を伸ばしてから、ダンスのレッスンに入るのだ。


「ちなみにスターダストフェスティバルの予選会とかって、なにをやるのかリゲルくんは知ってるの?」


 気持ちのいいほどペタンと足を開脚させて床にくっついているデネブに尋ねられ、リゲルは「全然知らない」と答えた。

 それにシリウスは同じくペタンと開脚させて「だろうな」と言いながらも説明してくれた。


「予選会では、それぞれくじ引きを引いて、それで出された種目をこなす。順当に勝ち残ったら一ブロックにつき、一ユニットが本戦に出場できる」

「負けたら処分だからね。最低でも本戦まで勝ち残らないと駄目なんだよねえ。あー、もう


 昨日からいちいち物騒な言葉を挟んでくるデネブに、リゲルはひたすら首を捻りながらも、足をグニグニと伸ばす。

 その中でも、シリウスは淡々と説明してくれた。


「ダンス、歌、パフォーマンス。そこで審査員の点数が高かったほうが勝ち抜け。本戦に出るまでに十回ほどふるいにかけられるんだ」

「十回も……? そんなに?」

「アイドルのアイドルによるアイドルのための祭典だからな。アイドルの数……処分対象はそれだけ多い」

「そのさあ……昨日からときどきシリウスもデネブも言ってる物騒な言葉ってなに? 死にたくないとか処分とかって」


 リゲルののんびりとしたツッコミに、シリウスは押し黙ってしまった。対してデネブは「アハハ」と笑う。


「そのまんまの意味だよ。よーし、柔軟体操終わりっ。振り付けは動画で送られてくるから、それを見ながらレッスンしよー」


 そう言いながら、モニターにタブレットを繋ぎ、ダンスの動画を壁面に映す。

 デネブの言葉に、リゲルは困惑した顔をして首を捻るが、シリウスは肩を叩いた。


「今は予選を突破することだけに集中しろ……よそ見をしたら、負けになる。なんのために上京したのか考えろ」

「えっ? うん」


 リゲルはシリウスの言葉に頷きながら、ダンスのレッスンを開始した。

 昨日はヒップホップの雰囲気のブレイクダンスだったが、今回はJ-POP特有の弾けたダンスだ。

 シリウスはとにかく手本に忠実なダンスだが、動きが滑らかなために動画に映っているロボットの真似をして踊っているとわかりにくい。

 一方デネブは、振り付けは合っているが、ところどころに自身の可愛さをアピールする仕草が入る。自身の容姿に自信がなければ、そういう仕草はまずできない。

 そしてリゲルはというと。


「……いくらなんでも、真似し過ぎだ」

「完全にロボットダンスだよねえ。見た者をそのまんまできるのはいいことだとは思うけど」


 見たまんま踊った結果、全体的にカクカクとしていて、とてもじゃないがお披露目できる代物ではなかった。

 それにシリウスは説教する。


「これは振り付けの確認なんだから、そのまんま踊る奴があるか」

「ごめーん。オレ、地元だったらほとんどダンスとか見たことなかったから、見たまんましか踊れないんだよね」

「……たしかに、振り付け自体は全部合っていたんだがな」

「うん。でもお客さんを意識しながら動かなかったら、ただのモノマネダンスになっちゃうから注意してねー」


 デネブに庇われ、シリウスも素直に頷いた。

 

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