第169話 夢はでっかくってマジですか?

「ん、んー。あれ、なんで俺寝てるんだっけ……」


「おぉ、やっと起きたか」


バルバトスさんに声をかけられ、その瞬間俺ははっとした。


「俺、ゴールズと勝負してたんだった!えっ、なんで?なんで寝てるんだ!?」


「……勝負が終わって、すぐに倒れたんだよ」


「結果!最後の勝負はどうなったんですか?」


バルバトスさんは俺がそう言うとキョトンとした。


「どうなったって、お前が仕切って、お前が勝って、それであのゴールズとかいう野郎を……って、本当に何も覚えてないのか?」


「あ、はい。全く。バルバトスさんが勝った所までは覚えているのですがそれ以降は……で、でも、勝ったって事ですよね!良かったー」


「いや、勝ったは勝ったが……お前大丈夫か?変な病気とかじゃないといいが。熱ないか見せてみろ」


バルバトスさんがそう俺を気遣ってくれているなか、ピノが嵐の様に部屋に飛び込んできた。


「ししょー!!!!!起きたんですね!よかったー」


ピノはミサイルみたいに俺に飛びかかり、バルバトスさんの家の壁を俺ごと吹き飛ばした。


「ぐえぇぇ!」


「おい!ふざけるな!この怪力小娘!家を壊しやがって!!」


「ししょー!ししょーししょー!恐かったっす!なんかししょーが別人みたいになって、それで急に倒れちゃうし」


「おい小娘!家を直せ!」


「バルバトスさんも恐かったっすよね?ししょーが変になって」


「人の話を……ああもう!……まぁ、さっきのお前はちょっと異様だったのは確かだがな。おい、木をもってこい!修理するんだ」


「修理じゃなくて、どうせなら新しい家を建てちゃいましょうよ、もうボロボロじゃないっすか、この家」


「なんだと?」


「ししょーおっちゃんがいない時言ってたっす!ポルカを3年で王都みたいな街にするって。王都みたいにするなら、この家じゃダサすぎっす!」


「ポ、ポルカを王都にだと!?無理にきまってんだろ!確かにポルカは面積だけは王都並みに広いが、面積の殆どが魔物が住む森だぞ!」


バルバトスさんが至極真っ当な事を言うと、ピノは珍しく真面目な顔で言い返した。


「普通じゃ不可能っす。でもししょーならやりますよ」


初めて見るピノの真剣な表情に、一瞬バルバトスさんはたじろぐが、すぐにこの計画の問題点を挙げる。


「まず森を開墾するにも、街を作るにも金だ!1億2億なんて額じゃ話にならんぞ、いったい……」


「1000億……ししょーは1000億出せますよ」


えっ、待って、ピノ?いくらなんでも俺1000億は……。


「ぐっ、確かに1000億……そうだな」


えっ待って?バルバトスさんまで?1000億って何!?俺記憶無い間に1000億あるとか言ったの?いや、流石にそんなに持ってないよ!


「あ、あのー……ピノさんバルバトスさん。盛り上がってる所申し訳ないですが、俺1000億は……」


「金はいいとして人はどうする!金があっても開墾や建設に必要な人員は?軽く1000人は必要だぞ!」


「あ、あの。金も……」


「確かに、ししょーなら100人分の働きくらい余裕でしょうけど、1000人分はちょっと難しいかもですね」


「そうだろ!それに100歩譲って人が集まったとして、開墾だけで10年かかるぞ!3年なんてとてもじゃないが」


「あのー。みんな、聞いてます?俺1000億なんて」


「おっちゃんの言う通りっす!3年でここを王都になんて言う人間バカっす!愚かっす!」


「いや、ピノさん。傷つくんだけど、あと1000億……」


「だろ。そんなできもしない事を軽々しく口にするバカが俺は1番嫌いなんだ!分かったらなら現実を見て……」


「それでも!!」


バルバトスさんはピノをギロリと睨む。


「……なんだ?まだ何か言う気か?」


「人も時間も足りない。そもそもこんな魔物が強い辺境の土地に移住してくる人なんているはずない。本当に絶望的な状況っす!ししょーがポルカを王都みたいにするって言った時、子供の頃、大人になったら勇者になるんだーって言ってた、自分の事を思い出したっすよ。ほんと、笑っちゃうっす」


勇者、と言う言葉にピクリと眉を動かしたバルバトスさんだったが、冷たい声で言う。


「……現実は残酷だ。大半の夢ってのは叶わないものなんだ、だから……」


「……それでも……ししょーならできます」


「なんだと」


「どんなに不可能な事でも、ししょーなら出来るって。世界中の全ての人がししょーを笑っても、ピノだけはししょーを信じるっす」


ピノに何か言い返そうとしたバルバトスさんだったが、ピノの真っ直ぐな目を見て、思わず顔を背けた。


「体調が戻ったなら出て行け。それと、家の壁の件はお前らがどうにかしろ」


「へへ!了解っす!行きましょ、ししょー。1分1秒も無駄にはできないっすから!」


「あ、ああ。それはそうとピノ、俺1000億は……」


そう言いかけた時だった。


カタカタカタカタ。


部屋にある家具が小さく揺れる。


「地震か?」


地震、というよりは地響きの様だ。

しかも地響きは徐々に大きくなって行く。


ドシンドシン。

ドシンドシン。


ガタンガタン。

ガタンガタン。


俺が乗っているにも関わらず、ベッドが上下する程の揺れだ。


「こ、これは……」


「な、なんなんだこの揺れは!」


「ししょー!外っす!外に大量の気配があるっす!!」


俺たち3人はすぐに外に出た。

すると、


「あ、あれは……」


「ゴブリンキングの……大群っす……」


あんな数のゴブリンキング、今まで見た事がない!

そもそも、ゴブリンキングが群れをなすなんて、それもざっと見積もって100体。


「く、くそ!」


バルバトスさんが銃を取り出す。


「待って下さい!様子がおかしいです!」


俺はゴブリンキングの群れの1番前にゴロタがいるのを見つけた。

そしてその肩の上に人間の女性がいる所も……。


「あれは……もしかして」

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