第167話 ゴールズと鷹の爪の終焉②

ゴールズ視点


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


俺は気絶している従者を置いてすぐに馬車に乗り込んだ。


「ど、どうしたんですかゴールズ様!?」


「いいから馬車をだせ!一刻も早くここを出るんだ!!」


「で、ですがまだ従者のトニ様が……」


「うるさい!そんなもんお前らが後で回収してこい!とにかく出せ!」


「は、はい!」


馬車が出発しようとしたその時、あいつが大きな声を出す。


「おい、一週間だからな」


「……わ、分かっている!その代わり金を用意したら俺のことは探したりするんじゃないぞ!!おい、最大速度で本部に帰るんだ!」


「わ、分かりました」


猛スピードでその場から離れていくが、まだ震えが治らない。

ようやく震えが治まったのは馬車を走らせ1時間以上経ってからだった。


「クソ!……クソ!クソ!!」


俺は本部に帰りすぐに金をかき集める。絶対に死んでたまるか!!

俺の権限で入れる場所には全て入り、金目のものは全て回収し、部下に売りに行かせた。


それだけでは1000億には到底届かなかったので親父の名前で小切手を何度かきり、さらに金を集める。


まだ足りない……


俺は49支部の冒険者から預かっている魔物を売りに出した。

保管している備品も、従業員の給料も、それでも足りないので49支部そのものを売りに出した。


「ご、ゴールズ様……どうしましょう。あと1000億まであと少しなのですが、あと1000万ほど足りません。このままじゃ私達、あいつに……」


なんとかあそこから帰ってきた従者が泣き言を言う。


「……お前の臓器を売ればいい」


「えっ!?」


「もう俺が鷹の爪の物を盗んで売ってるのは親父にバレている。もう鷹の爪の物は何一つ持ち出せん。臓器を売って金を作ってこい!」


「そ、そんな、酷いです、ゴールズ様!」


「何が酷いだ!ここまでの金は俺が集めたんだ!お前が何をした!最後くらい役にたて!それにどのみち金を集めなければ死ぬんだぞ!臓器ぐらいどうでもいいだろ」


従者トニは項垂れていたが、しばらくしてスラム街の方へトボトボ無言で歩いて行った。

イライラしながら待っていたが、トニは5時間後に札束を持って戻ってきた。


俺は金をひったくりすぐに数を数える。


「こ、これだけだと!?」


「900万。これで精一杯でした」


「あと100万はどうするんだ!もう時間がないんだぞ!!」


「そ、そう言われてももう私に売るものなんて……」


「ちっ!」


俺は近くの質屋に飛び込み、店主に大声で言った。


「おい、これを金にしろ」


つけていた時計をゴロンと机におく。

これは500万した時計だ。100万くらいにはなる。


「……50万……」


「はぁ?50万だと、ふざけるなよ!!」


「嫌なら他所行きな」


「く、くそ!」


俺は金のネックレスを外しテーブルにおく。


「それは……20万だな」


「お、おい!頼むから二つで100万にしてくれ!時間がないんだ!」


「……こっちも商売なんでな。お、靴も良さそうだな」


「こ、これか?そうだこれも100万もしたんだぞ!」


「靴は10万、時計、ネックレス、靴、合わせて80万だ」


「なっ!ふざけるな!」


「ふざけてない。どこいってもうちと大差ない価格だと思うぞ。疑うなら他に行け」


怒りと絶望で目の前がチカチカした。そんな時間は俺には残されていない。


「た、頼む。どうしてもあと20万必要なんだ。なんとか……」


「……20万?簡単だ。随分いいスーツを着ているじゃないか。それを20万で買い取ろう」


「こ、これを?」


俺は屈辱に顔を歪めながら、上着を脱いで店主に渡す。

すると店主は嘲笑うかのように笑みを浮かべた。


「おいおい、何勘違いしてるんだ。スーツって言ったらセットだろ?早く下も脱げ」


「ぐ、グォぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」





その1週間で、鷹の爪は莫大な損害を被った。

鷹の爪創業者の息子ゴールズが鷹の爪の保有する財産の半分以上を無断で持ち去ったのだ。

そればかりではなく、鷹の爪の利用者の保管品に手をつけるなど、許されざる行為を行ったことで、多くの非難の声が飛び交った。

鷹の爪本部は必死に取り繕おうとしたが時すでに遅し、たった1週間で、半分以上の冒険者が鷹の爪を辞めた。


10年以上ギルドの頂点に鎮座していた鷹の爪だったが、その日ついにトップの座から転がり落ちたのだった。

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