第166話 ゴールズと鷹の爪の終焉①

ゴールズ視点


「おい、あれをよこせ!」


「はい、もちろんです!ゴールズ様なら使うと思っていました!」


俺は従者からあれの箱を受け取る。


「そうそう、これだ。取り扱いには気をつけんとな」


俺はとっておきの聖遺物を箱から取り出す。

その聖遺物の名は『拷問棒』。親父にねだってオークションで10億で競り落として貰ったものだ。

見た目はただの木の棒なのだが、もちろん特殊効果がある。

この棒の持ち手の部分以外に当たった者は耐え難い程の激痛が走り、嘔吐し、糞尿を撒き散らし、地面をのたうち回る。名前の通り拷問に最適のアイテムなのだ!

俺の一番のお気に入りの聖遺物。これを喰らわして勝負は終わりだ!


「ははは、勝負あったな!この棒をくらってまともに立っていた者は今まで1人もいない!」


俺は下民の恐れ慄く顔が見たかったのだが、奴は退屈そうに欠伸をしやがった!


「はぁー。一応聖遺物みたいだな。でもそのクラスの聖遺物じゃ……」


「うるさい!ムカつく野郎だ!死ねー!!」


ごちゃごちゃ言っているやつに俺は思い切り叩きつけた。

しかし奴は憎たらしいことに、俺の拷問棒を片手で受け止めやがった。


だが……これでいいのだ!

受け止めようがどうしようが、拷問棒の先に触れた!先に触れれば効果は発動する!

さぁ!惨めにのたうち回れ!!


「……」


「……」


な、なぜだ、なぜのたうち回らない?


「一応説明しておくと、聖遺物にもランクがある。これは聖遺物の中でも下級も下級、精々Dクラスの聖遺物だ。こんな者なら一般の冒険者でも防げるやつは大勢いる。それに俺は聖遺物のクラスで言えばSSSクラスのロンギヌスの槍を持っているんだから、下位の聖遺物が最上位の聖遺物に影響を与えられるはずがないだろ?」


「はっ、ロンギヌス。何訳のわからん事を言って……」


意味のわからんことを言いながら下民は俺から拷問棒を奪い取った。

なんて卑怯な奴なんだ!


「か、返せ!」


「ああ、別にとった訳じゃ無いし、こんなのいらないよ。はい」


そう言って下民は拷問棒をポイっと投げ捨てた。


「お、おい、バカ!急に投げるな!貴重な品なんだぞ!」


さすが俺様。間一髪のところで拷問棒をキャッチ……ん?キャッチ?


「あっ!」


「あっ!」


「あっ!」


「ぐわぁぁっぁぁぁぁっぁぁ!!!」


拷問棒の先を掴んだ俺に激痛が走る。


「グェぇぇぇ、ぐわ!ぐわ!ぐわ!ふぐぅぅぅぅぅぅ!!!」


「はははははは!何だあれ!」


俺が苦痛で地面をのたうち回る中、下民が大笑いしていたようだが、俺は痛みでそれどころではなかった。


たぶん拷問棒の効果は1分ほどなのだが、酷く長く感じた。そのまま死ぬんじゃないかと思ったが、ようやく痛みが引いてきた。

まだ痛みで足が震えていたが、俺は卑怯な下民に対する怒りと、人の不幸を笑う様なこんなクズを生かしておいてはいかんと言う正義感でなんとか立ち上がった。


「許さん!絶対に許さん!!」


立ち上がった俺を見て下民が鼻を摘む。


「おい、待て。お前くさいぞ。漏らしてるだろ。あと泥だらけで汚い。近寄んなよ」


「うるさい!!うるさいうるさいうるさいうるさい!!!もう勝負など関係ない!殺してやる!心臓を串刺しだ!」


俺はナイフを取り出し構えた、その時、


「おい!」


奴がそう言っただけで、空気が急に冷たくなる。


「な、なんだ?急に寒くなってねぇか?」


髭の野人がそう言った。

いや、寒いなんてもんじゃねぇだろ!

か、身体が震えて……


「あっ……」


俺は手がかじかみ、ポロリとナイフを落としてしまう。

ナイフを拾おうと思ったのだが……か、身体が思うように動かせない。


「近づくなと言ったろ……殺すぞ」


不機嫌そうに奴がそう言うと、まるで空気が鉛になったかの様に、身体がズーンと重くなる。


「えっ、な、なんですかこれ、ししょー?身体が重いっす!魔法?えっ、でも魔力は感じないし……」


小娘が!重いだけじゃねぇ!い、息が!息が苦しい!!

窒息して死んじまう!

そ、それに……

まるで大きな槍を突きつけられているみたいに……


「う、うわぁ」


従者が、泡を吹いて気絶した。


俺は冷や汗をダラダラ流しながら、目だけを動かし、チラリと奴を見た。


「うっ……あっ……あっ……」


奴を見て悟った。

その強さはヒメネスやあの小娘なんて次元じゃない。

そもそもあいつが人間かどうかも怪しい。


一歩でも奴を動かしたら俺の勝ち?

いや、今俺が一歩でも奴に近づいたら、0コンマ1秒もかからずに殺される……魔法や武器なんていらない。ただ殺気をぶつけられるだけで俺は……


さっきの拷問棒の痛みなんか、この苦しみに比べればなんでもない。

ただ奴が睨んでいるだけで、1秒がまるで永遠の様だ。

声を!声を出さなきゃこのまま死ぬ!

生きる為、俺は必死に声を搾り出した。


「……ま、ま、ま、ま、ま、負け、だ……お、お、お、お、俺の……だ、だ、だから俺を見るな!た、頼むから!み、み、見るんじゃねぇ!!」

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