第165話 最後の勝負

「で、デタラメだ!そんな、J・ロベルトが生きているなんて……」


「デタラメかどうかは、お前らの持ってる契約書を見ればわかる事だ」


バルバトスさんがそう言うと、ゴールズと従者はそうだったと言わんばかりに、慌てて契約書を見た。

魔法の契約書はその勝負の勝敗を公正に判定してくれるのだ。


2人が契約書を覗き込むと、


ゴールズ 2敗

タクト  2勝


と文字が浮き上がる。

それを見て、ゴールズは顔を真っ赤にした。


「認めんぞ!俺は!こんな結果、断じて認めん」


勝った。バルバトスさんが……。


嬉しい事なのにも関わらず、俺の心は晴れていかない。

俺の中を嫌らしい後ろ暗い気持ちが支配してしまっている。


ゴールズ……あいつさえいなければ……。

あいつが憎い……。

あいつのせいで俺は……。


怒りと嫌悪感で頭がくらくらする。こんな事初めてだ……。

駄目だ、体調が優れない……最後の勝負があるって言うのに……。


ああ……


「これまでの勝負はイカサマだ!さっきまでの勝負は無効にしろ!!」


……うるさいやつだ。

あいつをどうやって黙らせるかな……。


「…………いいよ。そうしよう。さっきまでの勝負は無効。エキシビジョンだったって事で。それで次の勝負が本番。その代わり、次勝った方が10勝。文句無しの完全勝利って事で」


「はっ?し、ししょー。それは流石に!」


ゴールズとかいう醜いデブは、俺の言葉に喜んで飛びついた。


「ガハハ。分かってきたじゃないか!自分の立場ってものが!自分からそういう提案をすると言うのは見所があるぞ!俺の奴隷になった後も悪い様にはしないでやろう」


「ほぉー。良い提案をすると褒められるわけだ。じゃあ最後の勝負の内容も提案しようか!勝負は単純明快。『まいった』と言ったほうが負け。ルールはそれだけ。ただしハンデとして俺はここから一歩も動かないし、お前に攻撃もしない、魔法も使わない。お前の方は武器を使おうが魔法を使おうが自由だ。どうだこれで」


成金デブはこの提案にも喜んで乗っかる。


「いい!その勝負採用だ!!」


嬉しそうにニヤつく顔が醜い。

はは!吐き気がするぜ!!


「し、ししょー!不味いっすよ!流石にそんなルールじゃ勝てっこありません!絶対ダメっす!!」


「黙れ小娘!こいつが自分から提案したんだぞ!」


「そ、そうっすけど……し、ししょーはちょっと錯乱してるっす!ししょーすぐ撤回して下さい!」


「撤回?何故だ?これでもハンデが足りないくらいだぞ?まぁ確かに普通に考えれば破格の条件か……よし、じゃあそれ相応のリスクは持ってもらおうか。もし俺が勝った場合は3勝分ではなく、10勝分の報酬を貰う。それでどうだ?」


「はいはい。好きにしろ。その条件で俺が負けるはずがない」


「そうか、それなら報酬を決めよう。うーん分かりやすく現金にしようか。うん、一勝10億なんてみみっちい事言わずにドーンと100にしないか?」


「ああ。いくらでも好きにしろ」


「ではこっちが勝ったら10勝分で1000億。一週間以内に用意しろ。用意出来なければお前ら皆、死をもって償ってもらう」


そう言うと、デブの腰巾着が目を白黒させた。


「い、いっせん……」


「ガハハ!それでいいそれでいい!それより早く勝負を始めるぞ!」


「ま、待ってくださいゴールズ様!1000億って、鷹の爪の運営資産全額払ってやっと賄えるかどうかの額ですぞ!そんな大金を払ったら鷹の爪は……」


「バカもの!あのルールで俺が負けるはずないだろ!お前は黙っていろ!おい、こいつの言う事は気にするな!そのルールと報酬で構わないからすぐに始めるぞ!」


そうデブが言うと、魔法の契約書の文字が書き換わる。


『次の勝負に勝ったものが勝者。

ゴールズが勝てば3人を指名し奴隷とする。

タクトが勝てば1000億を1週間以内にゴールズが支払う。払えなければこの勝負に関わったもの全員の命を差し出す。』


デブは契約書を見てニヤリと笑い、腰巾着はしぶしぶ勝負の準備を始める。


「で、では最終戦を始めましょう。タクト、あなたは一歩でも足を動かしたり、攻撃、魔法を使ったら負けです。では、勝負……始め!!」

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