第164話 勇者殺しは大罪ってマジですか?

「では俺が問題を出す。問題は公平を期すためにこの本から出そう」


そう言ってゴールズが取り出したのは、俺も読んだことがあるこの国の地理や歴史について専門的に記されている、故J・ロベルト著の有名な書物だ。

繰り返し読まれたのであろう、ゴールズが持っている本はボロボロだ。

もしかして、従者の私物?


「いや、全然公平じゃないだろ!熟読された本じゃないか!」


俺がそう従者に抗議するのをバルバトスさんが制止する。


「タクト、問題ない。あの本の内容なら、俺も多少知っている」


対決する当の本人であるバルバトスさんが言うので渋々黙ったが、こんなの絶対におかしい!

流石の俺もこれまでの事もあり堪忍袋の尾が切れそうだ。

絶対にあいつらは許さない!!

勝負が全て終わったら、地獄を見せてやる!


「ふはは。では問題ないな!という事で早速1問目だ。721年に世界大戦の原因となった事件といえば?」


何かまた卑怯な事をしてくるかと思ったが意外にもこれは普通の問題だ。


そしてこれは簡単。常識のレベルの問題だ。

正解は『勇者ブレイブ殺害事件』。

世界を照らすと言われている固有スキル勇者。それが国に生まれれば大きな国家収益につながる。そのため勇者が生まれた国は国家間でも強い実権を握るのだが、その国の要とも言える勇者が何者かに殺害されるという信じられない事件が起こったのだ。


もちろん勇者を保有していた国は怒り犯人探しを始め、これが世界大戦へと波及していく事となったのだ。

俺が生まれるずっと前に起こったこの事件と世界大戦だが、多くの人が亡くなり、それはそれは悲惨な戦争だったらしい。


2人もすぐに正解が分かったようで、サラサラと答えを書いていく。


「「勇者ブレイブ殺害事件」」


「フハハ、流石にこれは2人とも正解だな。では次の問題だ!この国で最も小さい川といえばどこ?」


これもサラサラと答えを書く2人。


「「血流川」」


これも2人とも正解!

すごいぞバルバトスさん!


「ししょー」


「どうしたピノ?」


「私ずっと見てたっすけど、あいつ本の折り目がついたページを問題に出してますね」


言われてよく見てみると、確かにゴールズは適当に問題を選んでいる訳ではないらしい。


「と言う事は?またズルしてる?どんな問題が出るか事前に決めてたのか?」


「たぶんそうっす。だからどんなにおっちゃんが頑張っても……」


「あいつら……大丈夫だピノ。例えこの勝負にバルバトスさんが負けたとしても、この落とし前は絶対につけさせる」


俺はすでに負けた後の事を考えて作戦を練っていたのだが……


「3問目両者正解、4問目両者正解、5問目も両者正解……6問目……7問目……8……9…………」


バルバトスさんは間違える事なく、どんどん問題をこなしていく。


その状況にゴールズは苛立ちを覚え語気が荒くなってくる。


「くそ!野人の様な見た目のくせに正解しやがって!さてはカンニングしていやがるな?」


「……事前に出す問題を打ち合わせているお前らと違って、俺はそんな卑怯なまねはしない」


確信を突かれ、ゴールズも従者も一瞬冷や汗をかいた様だが、すぐに従者が逆ギレする。


「うるさい!学の無い野人のくせに!ゴールズ様!こうなったらあの問題を!」


そう従者に言われ、ゴールズはニヤリと笑う。


「よし!では10問目だ。これはこの本の作者に関する問題だ!」


それを聞き、初めてバルバトスさんが顔をしかめた。

俺は抗議する。


「その問題は歴史と地理とは関係ないだろ!」


「うるさいうるさい!俺はこの本から問題を出すと言ったのだ!この本に関する問題もセーフ。作者に関する問題もセーフなのだ」


「ししょー、もうこいつぶちのめしましょう」


「ああ、勝負とかもう関係ない」


「い、い、い、いいのか?それをしたら無条件でお前らの負けだ!契約書の効果が発動するぞ!」


「そんなの後で考えるとりあえずお前を一発殴らなきゃ……」


俺が怒りで頭をいっぱいにしていると、バルバトスさんがすっと手を伸ばす。


「……ちょっと待て」


「止めないでください!バルバトスさん!」


「まだ俺が負けると決まったわけじゃないだろ。決着がつくまでじっとしてろ」


確かに、ここまで頑張ってくれているバルバトスさんに失礼だったかもしれない。


「そ、そうですね。ピノ、ステイだ」


「ししょーがそう言うなら。了解っす!」


だが、勝負が終わった後は……。

殴られそうになって慌てていたゴールズだったが、


「ふふ、この本の作者は既に亡くなっているが、死ぬ前に歴史について自身の見解を語った著者『歴史とは』を出版している。10問目は、『この本の作者が歴史についてどう思っているか答えろ』だ!!」


「な、何だそれ!」


俺がそう言うと、従者は大声で笑った。


「ははは!勉強不足ですよ。まぁ『歴史とは』はたった100冊しか発行されなかったプレミア本ですから、お前の様な野人がしるはずもないですがね!尊敬するJ・ロベルト氏の最後の著書は何度も読みましたし、私はすぐに答えが分かりましたよ。歴史とは……おっと、答えを言ってしまうところでした。ふははははは」


最後まで卑怯なやつだ。

そんな貴本の情報を問題にするなんて!

俺も読んだ事がないし、そもそもそんな本が出ている事すら知らなかった。


これは当たらなくても仕方ない。

バルバトスさんはよく戦ってくれた。


バルバトスさんはこれまでスラスラと答えを書いていたのだが、この問題だけは顔をしかめ、辛そうな顔をしている。


「では、2人とも答えを出せ!」


ゴールズがそう言うと、2人は紙に書いた答えを出す。

従者の答えは、


「歴史とは希望」


バルバトスさんの答えは


「歴史とは後悔」


ゴールズが笑う。


「はは、ついに勝負あったな。正解はもちろん『歴史とは希望』だ!ちゃんと『歴史とは』に書いてある!この勝負俺たちの勝ちだ!!」


「くそ!!」


俺が怒っている中、バルバトスさんが冷静な声で言う。


「ちょっと待ちな」


「なんだ、野人。負け惜しみか?」


「はぁー。何度も何度も野人って、俺は野人じゃねぇ。俺の名前は……まぁいい。それより、正解は『歴史とは後悔』絶対にこっちだ。作者はそう言っているぞ」


「ははは!馬鹿言うんじゃない!お前が何を言おうと、『歴史とは希望』これが正解だ!」


ゴールズと従者は嘲笑うかのようにバルバトスを見つめる。


「そうです。負け惜しみはおやめなさい。さっきも言った通り、この作者は最後の著者で……」



「別に負け惜しみじゃねぇよ。というかさっきからよ、作者は死んでねぇ!あいつの本を取り上げろ。最後のページを見てくれ」


「最後のページ?」


俺はゴールズの本をさっと奪い、最後のページを開く。


「おいこら!勝手に取るな!!……ふん、今更その本を読んだ所で……」


本の最後には作者のフルネームが書かれているだけだった。


「書いてあるのは名前だけ……って、ああ!!」


俺はそこに書かれている名前を読み上げる。


「J・ロベルト・BB!?BBってまさか……」


ゴールズと従者は、いやそんなまさかという表情を浮かべるが、バルバトスさんは淡々と言い放つ。


「『歴史とは』なんて俺は出版した覚えがない。おおかた、俺がいなくなった後、俺の部屋を漁って、俺のメモかなんかを勝手に出版したんだろう。俺の本名は、J・ロベルト・バルバトス。作者本人が言っているんだ。『歴史とは後悔』これが正解だよ」

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