第163話 圧勝

「す、スピードだけはそこそこあるみたいだな!だ、だがそんな小さな身体じゃ俺に致命傷は……」


とヒメネスが負け惜しみを言った瞬間、ピノはヒメネスの右腕に綺麗な正拳突きを放った。


「ほい!」


パキッ。


「ひ、ひぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!」


あーあれは折れたな。

ピノ容赦ないな。


「こ、小娘が!よ、よくも……」


「ほい!ほい!」


パキッ!パキッ!


ヒメネスの左腕、右足の骨がピノのパンチで連続して折れてしまった。

ヒメネスは内股になりポロポロ子供の様に泣いている。


「あ、あ、あ、あ」


既に戦意を失っているな。

心配する必要なかった。ピノの圧勝だ。


その様子を見てゴールズが慌てて従者に怒鳴る。


「お、おい!すぐに試合を止めろ!ヒメネスを刑務所から出すのに、いったいいくらかかったと思ってるんだ!!」


ピノの圧倒的な強さに、呆然と試合を眺めていた従者だったが、その言葉にハッとして慌てて試合を止めに入るが……


「せ、戦闘不能のため、勝負は……」


「まだっす!」


「「「えっ!?」」」


試合を止めようとした従者をピノはギロリと睨む。


「まだこいつ降参してないっす!そう言うルールっすよね?」


うわぁーピノさんエゲツなー。

ピノの迫力に従者もゴールズもたじろぐ。

異論を挟めば自分が同じ様にボコボコにされるのではないかと2人ともぞっとしている。


「あ、ああ。そう言えば最初にそう言ったような」


「じゃあ続行!!」


ピノが笑顔でそう言うと、ヒメネスは顔をくしゃくしゃにしながら声を絞り出した。


「こ、こうさ……」


その瞬間ピノがヒメネスの喉を手刀で突き刺す。

うわっ、とことんやる気だな。


「ぐ、ぐほっ!は、は、は、はひゅーはひゅー」


必死で何か言おうとするヒメネスだが、喉が潰れてしまい、その声は聞き取れない。


ピノが冷たい声でいい放つ。


「あんたこうやって今まで、何人もいたぶって殺してきたんでしょ?良かったっすね、私は優しいから殺しはしないっすよ。でも……死んだ方がマシって思うくらいには……苦しんでもらうっす」


そこから先は試合ではなく、ただの拷問だった。

ヒメネスの身体の骨が折れる音がする度に、ピノは不快そうな顔をした。


「こんな事して、あんたはいったい何が楽しかったんすか……」


身体の骨を何十本も折られたヒメネスは最後はただ痙攣するだけだった。

あれではどんな高度な治療を受けても一生車椅子生活だろう。


ピノはふーっと重い溜息をつく。


「これ以上やると死んじゃうっす。これで終わりっすね」


ピノがそう言ってヒメネスに背を向けるやいなやゴールズが叫ぶ。


「ち、治療だ!俺が払った10億を無駄にするのは絶対に許さん!!」


その声を聞き、ずっと馬車で待機していたのであろう。

鷹の爪の優秀な回復治療班が猛ダッシュでヒメネスに駆け寄り、ヒメネスを運んでいく。


その様子を唇をギュッと噛み締めながら見ているピノ。

ピノは俺に背を向け、後悔とも悲しみとも聴こえる声で言った。


「ししょーに……つまんない試合見せちゃいました」


……やっぱりこの試合はピノにやらせるべきではなかったのかもしれない。

俺はピノの頭をぽんぽんと撫でた。


「えへへ。次も勝ちましょうね、ししょー」


そんな俺たちの空気感とは打って変わって、ゴールズと従者は慌てふためいていた。


「ど、どうしましょうゴールズ様!」


「あ、慌てるな!あと2勝すればいいだけだ!」


「で、ですが、私も多少魔法や護身術は使えますが、あんな化け物みたいな娘と戦うのは……」


「馬鹿者!!!次の試合からは対戦相手にあの小娘を選ばなければいいだけの話だ!それに何も相手の得意分野で勝負する必要もないだろ!試合の内容を変えればいいだけだ!」


「な、内容を?ど、どの様な内容で?」


「お前の前職は国立大学校で歴史と地理を教えていただろ!次の対決は地理と歴史のクイズ対決にすればいい!」


何やら勝手に話が進んでいる。

ここは文句を言ってやらないと。


「おいおいおい。ちょっと待って下さい。決闘の対決内容がクイズって……」


「黙れ!俺がルールだ!」


そう怒鳴るゴールズに従者はうんうんとうなづいている。


「そうですね!何も腕力で競う事はありませんね」


卑怯な奴らだ。

まぁでもさっきみたいな対決よりかはマシかな。


「分かりました。クイズ対決、いいですよ。鷹の爪時代に危険地帯以外は一通り営業で回ったんで、ある程度は分かるはずですよ」


「ふふふ。たかが支部の一職員が、本部のエリートの私に勝てるはずがないでしょ!ちなみに私は国の地理検定と歴史検定どちらともA級を持ってますから!」


従者の言葉を聞いて、ピノが俺に尋ねる。


「A級って、そんなに凄いんですか?」


「んーまぁ地理も歴史も合格率10%とかだからね。俺も取る前に結構勉強したなー」


「ししょーも持ってるんですね!流石です!」


「まぁただ暗記するだけだから」


俺のその言葉を聞いて、ゴールズとその従者は冷や汗を流した。


「ど、どうしましょう。相手もそれなりに知識があるみたいですが……」


「う、狼狽えるな!別の策を……」


そうゴールズが言った所で、ちょうど見回りに行っていたバルバトスさんか帰ってきた。


「おい、騒がしいな。また誰か来てるのか?これ以上面倒ごとは……」


「あーバルバトスさん、お帰りなさい。すいません。確かにこれは、かなり面倒な事になっているんですが……」


俺とバルバトスさんが話しているのを見て、ゴールズは閃いた!と言った表情の後、ニヤリ悪い顔をした。

ゴールズはびしりとバルバトスさんを指差す。


「よし!次の決闘の対戦相手はそこの髭のお前だ!!対決はさっき言った通り地理、歴史のクイズ対決だ!異論は認めん!」


「はっ?」


「決闘?何の話だ?」


バルバトスさんはいきなり指をさされ不快そうな顔をする。

ゴールズ!いきなり何を言い出すんだこいつは。


「いやちょっと待って下さい!バルバトスさんは関係ないでしょ!」


俺は必死に反論するが、ゴールズは契約書を突き出し、ニタニタ笑う。


「いや、お前と話していたと言う事はお前の仲間だろ。お前の仲間であれば対戦する義務がある!契約書に書いてあるぞ!」


「そんな無茶苦茶な!」


バルバトスさんはふんと鼻を鳴らす。


「馬鹿馬鹿しい。俺はやらんぞ」


そりゃバルバトスさんもそう言うよ!

バルバトスさんは付き合ってられないといった感じてくるりと向きを変え、家に帰ろうとする。


「ふはは!じゃあこちらの不戦勝だな!」


不戦勝!?

それはまずい!!

ジェイド(俺)が鷹の爪に行かなくてはいけなくなる!!


「さ、流石に不戦勝っていうのは……」


「うるさいうるさい!どの道あんな髭だらけの汚らしい学の無い乞食に、歴史や地理なんて分りっこない!不戦勝だろうがなかろうが俺たちの勝ちは確定なんだよ!!!」


そう言ってゴールズも従者もバルバトスさんを見下し笑う。

俺は我慢できなくなり流石に怒鳴りつけようと歩み寄ろうとした瞬間、バルバトスさんが俺の肩をずいとひっぱり、ゴールズの前に立つ。


「えっ?バルバトス……さん?」


バルバトスさん、表情は変わってないけどもしかしてキレてる?

バルバトスさんはゴールズに向かい言う。


「……気が変わった。その勝負、受けてやろう」

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