第161話 勇者パーティー崩壊①

勇者マルスには3人の仲間がいた。

剣聖スキルレベルマックスの女剣士ベロニカ。

賢者スキルレベルマックスの魔法のエキスパートフレイラ。

そして大聖女スキルレベルマックスのミネアだ。

いずれも美しい女性で、彼女たちは勇者パーティーの心強い戦力というだけでなく、マルスと全員体の関係を持っている。

そのせいで3人は表面上は仲良くしているが、実は仲が悪い。

誰がマルスの正妻なのかいつかはっきりさせてやると全員虎視眈々と作戦を練っているのだ。


しかしそんな仲の悪い3人が、今日は小さな部屋に集まり何やら話している。

勇者マルスはその場にいない。

そう、マルスにはちょっと話しづらい話題なのだ。


ずっと静かに話していた3人だが、剣聖ベロニカがついに我慢できなくなり大きな声を出した。


「言い訳はやめろ!私たちは単独でもSSSレベルの冒険者なんだ!!それがSランクの任務を失敗しただと!?どうやってマルスに説明するんだ!!!」


怒られた賢者フレイラはベロニカの言葉にイラついた様子で反論する。


「しょうがないじゃない!ピノの代わりに新しく入った荷物持ちが使えなかったんだから!」


大きな依頼や長期間かかる依頼をこなすために、余裕のあるパーティーはポーターと呼ばれる荷物持ちを雇う事がある。

ポーターによっては武器の手入れや食事の準備をこなす事もあり、優秀なポーターは引く手数多で高給取りでもある。

ピノは世界でも1、2を争う勇者のパーティーのポーターを勤めていたのだ。


「言い訳はいらない!お前がこんな依頼楽勝と言うから、私とマルスは行かなかったんだ!そもそもポーター1人変わったくらいで……」


そうベロニカが言った所で、当の新しく雇ったポーターが顔を真っ赤にして部屋に乗り込んできた。


「おい、これは一体どういう事だ!!」


ポーターの若い男は一枚の紙を持っている。

そこには5000ゴールドと書かれている。


「どう言うことって、今回のあんたの給料でしょ?」


そうフレイラが言うと、ポーターは地団駄を踏んだ。


「ふざけるな!Sランクの任務に同行させてたった5000って!新人のポーターの日給以下じゃないか!!!」


「はぁ?前のポーターはその半分以下でやってたわよ?たかがポーターが調子に乗んなよ」


ポーターは拳をプルプルと振るわせる。


「聞いてよベロニカ!こいつ索敵も満足にできないのよ!」


索敵は魔法職のフレイラにとって確かに重要だ。

事前に敵の情報が分かれば呪文の詠唱も先にしておけるし、魔法の無駄撃ちも減る。

しかし索敵は本来ポーターの仕事ではない。

ポーターは黙っていられず反論する。


「ふざけんな!何キロも離れた場所にいる魔物の数と種類なんて、探知系固有スキル持ちでもないのにできるはずないだろ!」


「だ・か・ら!あんたを雇う前のポーターはやってたのよ!あんたポーターの中でも優秀だって噂があったから雇ったのに!索敵くらいできて当然だろうが!」


睨み合う2人の間にずっと黙っていた女性が割って入る。


「まぁまぁそんなに怒らないで」


糸目で優しそうなその女性は勇者マルスのパーティの回復役、大聖女ミネアだ。


ミネアがフレイラを回復しながらそうなだめる。

回復を受けている手前、フレイラはムスッとしつつも怒りを飲みこまざるをえなかった。


ポーターも納得はいかなかったが一応は静かになる。

その様子を見てミネアは糸目をすっとほんの少し開き、じろりとポーターの方を睨んだ。


「まぁ索敵はいいとして、サポートが甘いのは擁護できないですね。何故私が軽傷の回復をしなければならないのでしょう。被弾だってポーターが攻撃補助や防御補助をしていればゼロにできたハズですが?」


そうミネアがポーターを攻めるとついに、もうやってられないと言った様子でポーターの男が言った。


「ポーターが索敵や補助!?回復!?馬鹿馬鹿しい。そんなポーター世界中どこ探してもいる訳がない!俺は今日限りで辞める!」


そう言ってバタンと乱暴にドアを閉め、ポーターは出て行った。


残されたメンバーは皆落胆の表情を浮かべる。

ベロニカがため息をつく。 


「はぁー……またポーター探すのかよ」


「これならまだあの子の方がマシでしたね」


「関係ないけど、あいつがポーターやめてから、私の魔法の威力が落ちた気がするのよね」


そうヒソヒソ話している三人の耳に、突然ガシャンという大きな音。

それに続き、「た、助けてくれー!」という男の叫び声が響いた。

その声はマルスが昼食をとっているはずの部屋からだ。

3人はすぐに部屋を飛び出し、悲鳴がした部屋に走った。


声がした部屋のドアを開けると案の定勇者マルスが今日雇ったばかりのコックの首を絞めている所だった。

床にはコックが作ったのであろう料理が散らばっている。


「おい、やめてくれマルス!後処理が面倒なんだよ!」


そうベロニカがマルスを止めようとするが時すでに遅し。


マルスはベロニカの言葉を無視し、コックを炎魔法で焼き尽くす。


「ぎゃー!!!」


ベロニカはあーあと言った顔をする。


「ミネア、これ蘇生できる?」


「無理ね。火力が高すぎて半分灰になってるもの」


それを聞いてフレイラがめんどくさそうに、


「あちゃー。しゃーない関係者の記憶消しに行ってくるわ」


いつもの事と言わんばかりにフレイラはコックの事を知っている者のリストを作り出す。


ミネアは、


「部屋は浄化で、証拠が出ないようにしなくちゃ」


そう言って呪文の詠唱に取り掛かる。

手際が良すぎる。

マルスのパーティーではこんな事は日常茶飯事のようだ。


「マルス、雇ったばかりのコックを殺すなんて、どうしたんだよ」


そうベロニカが尋ねると、マルスは不機嫌そうに、


「1流のコックというから期待したが、まさか荷物持ちの作る料理以下のものを出してくるとはな。この勇者を愚弄した罪でコックには死んでもらった」


そう答えた。


ベロニカは困った様子で頭をかく。


「確かにピノのやつ、料理だけは美味かったけど、流石にそれくらいでコックを殺すなよ。高い金払って雇ってんだから」


そう言ったベロニカに反応してフレイラもピノについて話しだす。


「ピノ……野宿の時夜寝ないで見張してたし、今思えばあいつ、便利だったなー」


ミネアも頬に手を当てピノを思い出す。


「質の良いポーションを仕入れていたので魔力回復も楽でした。どうやってあの給料であんなポーションを大量に仕入れられたんでしょうか?」


そう三人が、つい先日勇者パーティを追放したポーターのピノについて話していると、勇者マルスは三人をギロリと睨んだ。

まるで、「アイツをクビにした俺に文句があるのか?」と言っている様だった。

3人は即座にすくみ上がる。


マルスはビクビクと震える3人に笑顔を見せて言った。


「証拠隠滅が終わったら3人にお願いがあるんだ、聞いてくれるよね」


マルスの言葉には有無を言わせぬ迫力があり、3人はただ黙って頷く。


「クビにしたピノの事だけど、やっぱり可哀想だからパーティーに戻してあげようと思うんだ。1ヶ月。それまでにピノを見つけて、連れ戻して来てくれ」

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