第159話 楽しい家づくりのはずが……
バルバトスさんは国境の監視と狩りに出かけた。
俺とピノはといえば、荒れ果てたポルカの土地整備を始める事にした。
「エアカッター!からの小旋風!!」
風魔法で草を刈り、さらに風魔法で刈った草や落ちている枝を集め辺りを掃除していく。
「さすがししょー!素晴らしい魔法コントロールっす!」
「いやー、まだまだだよ。風魔法が得意な子がいてね、教わったんだ。その子の方が数倍上手いよ。なんだったら紹介するしピノもその子の弟子になれば……」
「ピノもししょーのお手伝いします!」
何を言っても師匠呼びをやめないし、帰りそうにもないピノなので、俺はもう諦めた。
「じゃあ取り敢えず、バルバトスさんの家にずっと泊まるのも申し訳ないから、仮住まいの家を建てようと思うんだけど」
「わっかりました!家を建てるなら丸太っす!」
そう言ってピノは斧を持ち出し、木を倒し出した。
かと思うと、木の皮を剥ぎ、綺麗に加工していく。
元大工かなんかなの?
何でもできるなこの子。別に俺が教えなくても十分強いんじゃないか?
「ししょー!丸太いい感じに仕上がってきましたー」
「おお!これは……いい丸太だな……ありがとう!じゃあ丸太を運ぶか」
俺はピノが作ってくれた丸太をひょいと2本持ち、両脇に抱える。
ピノも1本ひょいと丸太を持つ。
身体強化魔法も使えるのか。
いよいよ俺が教えることはないな。
「よし、丸太は持ったな!行くぞォ!!」
そんな感じでピノと楽しく家を建てていると、俺らの元に昨日と同じくまた豪華な馬車が現れた。
「ん?なんだまた王都からか?随分早い戻りだな。緊急の要件でもあったかな?」
「そうっすねー。何でしょう?」
馬車は案の定俺たちの前に止まった。
すると従者に手を引かれ太った男が降りてくる。
あれ?王様の使いの人じゃない?
っていうかなんか見覚えあるぞ?
誰だっけ……?
「……あっ!?」
俺は誰だか分かり思わず声を上げた。
あれは……ゴールズ!俺をクビにした鷹の爪の幹部だ。
「……あっ!?」
向こうも気がついたようだ。
「ど、どうも」
「あ、ああ」
流石にゴールズもちょっと気まずそうにしている。
しかし気まづそうにしていたのも一瞬。
ゴールズは突然、「閃いた」という感じで目を輝かせ、ニヤニヤと俺に話しかけてきた。
「お前はいつぞやの無能な平職員。名は確かタクトだったな!実は俺は鷹の爪の業務でここに来ていてな。ジェイドがここにいるという情報をいち早く入手してここに来たのだ」
「そ、そうなんですか」
聞いてもないのによく喋るな、このおっさん。
鷹の爪の情報収集能力の高さは俺も知っている。
……でもそんな鷹の爪よりも早く情報を掴んだピノって、本当に何者なんだろう?
ゴールズは俺があからさまに興味が無いのにも関わらず、ぺちゃぺちゃと話を続けた。
「それでだ。単刀直入に言うと、俺はジェイドを鷹の爪に勧誘に来たんだ。見たところお前は、鷹の爪をクビになった後、ジェイドの奴隷かなんかになったんだろ?今はジェイドに命令されて大工の仕事をやっている。どうだ図星だろ!」
ゴールズがそう言うとピノがすぐさま口を開いた。
「何言ってるんですかこいつ?ジェイドは……」
俺は慌ててその言葉を遮る。
「ば、ばか!」
「も、もが」
手でピノの口を押さえしゃべらないようにした。
ふー、危ない危ない。俺がジェイドとバレたら絶対ややこしい事になるからな。
「そ、その通りですゴールズさん。でもジェイドさんは暫く帰らないので、俺が代わりにジェイドさんに伝えておきますが、多分ジェイドさんは鷹の爪には入らないと思いますよ」
俺がそう言うとゴールズは明らかに不機嫌な顔になった。
「ちっ。いないのか。そうだ!」
なんか嫌な予感。
「お前が鷹の爪に入る様に説得しろ!失敗は許さん!その代わり勧誘が成功すれば、お前を俺の権力で鷹の爪に戻してやる。そうすればお前も戻って、ジェイドも鷹の爪に入って俺は……ふふふふふふ、我ながら名案だ!」
えっ、普通に断りたい。
どうしよ。
「あのー大変ありがたいお話なんですが……」
「そうだろ。ありがたいだろ。それより暑いな、なんか飲み物もってこい。そこの乳の無い女」
「今……乳が無いって……」
ピノの目を見るとハイライトが消えている。
そして腰から「チャ」っとナイフを抜いた!
まずいと思い、俺は咄嗟にピノの前に立つ。
「ししょーどいて!そいつ殺せない!」
「ま、待った待った!無駄な殺生は」
「だってあいつ胸の事を!」
「い、いや褒め言葉だから!控えめな胸は俺の住んでた所では褒め言葉だから!」
「嘘だ!!!」
「う、嘘じゃないよ!俺も控えめな胸が大好きで」
咄嗟にそう言うと、ピノの動きが一瞬ピタッと止まった。
「……ほ、ほんとっすか?」
そう言って頬を染めている。
あれ?流れ変わった?
「あ、ああ。胸は小さい方が良い。スモールイズベストがうちの家訓だから」
「そ、そうっすかー。いやー照れますねー。まさかししょーがそういう目で私を見ていたとは。いやー」
そう言いながら、ピノは武器をしまってくれた。
よし!今のうちに、
「あ、あの、ジェイドさんはたぶんゴチンコのギルドに入っているから鷹の爪には入らないかなって!」
「ふん。あんなちんけなギルドより、いい条件を出すぞ。移籍金もたんまりだ」
「い、いやぁお金には困ってないみたいで」
「じゃあ女だな。女も好きな奴を抱かせてやる」
「いや、それも間に合ってるというか、これ以上増えても困ると言うか……」
「ししょー、どう言うことですか?女の子は間に合ってる?ししょーはピノの事が好きなんですよね?あっ女は間に合ってるってピノのことっすか?」
「ご、ごめんピノ。今はちょっと黙ってようか」
ゴールズは俺が断ろうとしているのを見てイライラとし出した。
「ええいうるさいぞ!いいから俺の言う通りにするんだ!!」
ええ!意見が通らないと逆ギレ?
普通にドン引きなんだけど。
「いや申し訳ないけどお引き取り願えませんか?」
俺は毅然と断るが、
「ダメだ!絶対ジェイドを連れて帰るまでは帰らん!」
駄目だ、話にならない。
「まいったな。どうしよ」
困っている俺と憤っているゴールズの間に、ずっと黙っていた従者の男が突然入ってきて口を開いた。
「ゴールズ様、ここは決闘で決めると言うのはいかがでしょうか。もちろん私たちが代理として入りますので」
決闘?何やら物騒な話だ。
「なるほど!その手があったか」
「はい、それに三本勝負にすれば、ジェイド、タクト、そしてあの小娘も手に入ります」
そう従者が言うと、ゴールズは舐め回すようにピノを見つめた。
「なるほど、あの女、胸はないが尻はかなりいい感じだ!触りごごちも良さそうだな!」
「ヒィ!なんかあいつ気持ち悪いっす、ししょー」
そんなピノの事は気にも止めず、ゴールズと従者は勝手に話を進める。
「素晴らしいアイディアだ!従者よ!本部に帰ったらお前の出世も約束しよう!!」
「はは!ありがとうございます」
俺がポカンとしていると、ゴールズはコホンと一つわざとらし咳払いし話を始めた。
「そんなに拒否するなら仕方ない。今からお前たちと俺たちで勝負をしてもらう!そして勝つ度にお前らは人を差し出す。こっちが一人勝てばジェイド、二人勝てば平職員、三人勝てばそこの小娘だ!」
「いや、待ってください。そんなことやるなんて俺は……」
「もちろんお前に拒否権はない!契約書も書いてもらう!」
そう息も付かせずに言ったゴールズを見てピノが言う。
「もういいですよししょー。さっさとこいつら倒して帰ってもらいましょうよ」
「いやでもさ。もし負けたら」
そう言うとピノが大笑いしだす。
「負ける!?ししょーが!?はははは、ししょーがこんな奴らに負けるはずがないっすよ!ししょーも冗談がうまいっすねー」
その言葉はゴールズと従者の怒りに火をつけてしまったようだ。
「そこまで言ったんだ……もちろん決闘……するんだろ?」
「うっ!」
俺は引くに引けなくなり、渋々決闘の承諾書にサインをした。
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