第158話 ゴールズの策略

俺は親父に解雇された。


賢者の石を勝手に持ち出した責任を取らされた。

自宅にも帰らせてもらえないし、最悪だ!

クソ!あの時できた傷がいまだに疼く。


日頃の行いが良かったので、住む場所は何とか確保できた。

今は鷹の爪49支部の部屋をいくつか使い、寝泊まりしている。


「ああ、腹が減ったな。おい!誰でもいい!すぐ来い!」


俺がそう怒鳴ると俺の代わりに一時的にギルド長をしている小男がビクビクしながら部屋に入ってきた。


「あ、あの、どうかされましたか?」


「腹が減った。なんか買ってこい」


「あ、あの、今ギルドが忙しい時期でして、人を出すのはちょっと……」


「あっ?俺の親父は鷹の爪の代表だぞ?俺が一言言えばお前なんか一発でクビなんだぞ?」


「そ、それは、それだけはどうか!私には家族もいますしクビだけは」


「だったらすぐに買ってこい」


「は、はい……」


「けっ」


逆らわずにすぐに買いに行けよ、グズが。

そう思っていると、ギルド長(仮)はすぐに部屋を出ず、俺に口を聞いてくる。


「あ、あのゴールズ様、い、いつ頃までこの部屋をお使いでしょうか」


その言葉にカチンときた。


「あっ?俺がいたら悪いのか?」


「い、いえ!そういう訳ではないのですが、間も無く新しくここに支部長が来ることになりますので……」


「俺の代わりの支部長だと!?」


「ひっ!」


俺はギリギリと歯軋りした。

新しい支部長……場合によっては俺の言うことを全く聞かない可能性もある。

飯よりも重要だ。


「新しい支部長がどんな奴か教えろ!」


「え、えっと。何でも若くして出世して幹部になった、随分優秀な方のようで……」


となると親父のお気に入りだな。


「クソが!!」


「ひぃぃぃ!!」


「もういい。とりあえずお前は飯を買ってこい!」


俺は必死で頭を回転させるが何もいい案がでない。

とりあえず幹部の一人に、俺に弱みを握られて逆らえない奴がいるのでそいつに相談することにした。


親父にもう使うなと言われていたが緊急事態なので、仕方がない。

俺は高価な魔道具を使い、幹部と連絡を取る。

するとこんな情報が手に入った。


①鷹の爪はジェイドの獲得を狙っていること

②ジェイドは爵位をもらい、領主になったこと

③ジェイドは実はポルカという土地にいるんじゃないかと、鷹の爪の情報収集技術で判明したこと

④鷹の爪はまだジェイドには接触せず、さらに情報を収集してから行動する、慎重な策に出るつもりとのこと


「ふははは!いい情報だ!なかなか役に立つ奴だ!」


俺は情報を聞いて、鷹の爪の幹部に戻れることを確信した。

通信を切り、すぐに行動に移る。


「おい!」


怒鳴って呼びつけると、ギルド長(仮)がまた慌てて部屋に入ってくる。


「こ、今度はなんございますか?」


「出かけるから馬車を用意しろ。遠出になるから食料もだ。飯は馬車で食うぞ!」


そう言うとギルド長(仮)は顔を輝かせる。


「えっ!しばらくお出かけになるのですね!!」


「そうだが、随分嬉しそうだな」


「い、いえそんなことは……すぐに準備をしますのでお待ちを!」


そう言ってギルド長(仮)は部屋を出ていった。

一人になった部屋で、俺は顔がにやけるのを止められなかった。


「ふははは。こんなに簡単な事でいいのか!鷹の爪がモタモタしている間に俺が直接ジェイドに交渉すればいい。俺からの誘いを断る奴なんざいるはずがないからな!どれ」


俺は勝利を確信し、俺のコレクションの中でも一番高い酒の瓶を開けグイッとそれを飲む。


「ぷはぁー。待ってろよジェイド」

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