第157話 手違いってマジですか?

いつの間にか眠っていたようだが、随分浅い眠りだったみたいだ。

何か悪夢を見ていた気がする。嫌な汗。


突然バルバトスさんの小屋の入り口から、トントンと小気味よいノック音が響いた。

バルバトスさんはすぐに警戒体制に入る。


「本当に、お前が来てから客が多いよ」


俺に向かってそう言った後、


「誰だ!名乗れ!」


そう怒鳴った。

すると、外から、


「国王からの勅命でまいりました。こちらにいらっしゃるジェイド様にお話があります!」


「お、俺に!?」


俺の声が聞こえたのか、国王からの使いと名乗った者は、俺に向かって更に話を続けた。


「いらしたのですね、ジェイド様!この度は我々の不手際で大変申し訳ありませんでした!」


不手際。

その言葉に俺もバルバトスさんも合点がいった。

バルバトスは王国からの使者を部屋に招き入れる。


「なるほど。やはりポルカへの派遣は手違いだったか」


「はい。その通りです。貴方は、この家の主人でしょうか。申し遅れました。国王からの使いで、ヤリスと申します」


「……そうか、じゃあ早くこの男爵様を連れ帰ってくれ」


バルバトスさんは名乗りもせず、そうぶっきらぼうに言った。


「はい、ご迷惑をおかけしました」


そうバルバトスに頭を下げた後、使いのものは俺にザッと説明をしてくれた。


「今回の不手際はジェイド様に統治していただく土地を選定した女性文官が大きな原因となっているようで、今原因の究明に努めております。もちろん聞き取りの後、文官には重い罰を与えます。それとは別にジェイド様にはすぐに別の領地を……」


「だってよ。よかったな」


バルバトスさんがそう言って俺の肩を叩き背を向けた。

別の土地、それに文官に重い罪か。

なんだか背負わなくてはならない物がまた増えた気がする。


「は、はい」


そう言った瞬間隣の部屋のドアが開き、ピノがひょっこり顔を出した。


「ししょー、別の土地に行くんすか?」


ピノにそう言われて、一瞬戸惑ってしまったが、


「あ、ああ。そう言うことになるかな」


「そうなんすか」


てっきり、「ならピノもついていきます」とでも言うかと思っていたが、ピノはそれ以上何も言わなかった。


「ジェイド様。善は急げです。すぐに行きましょう、外に馬車を用意してあります」


「う、うん」


外に出ると、来た時の何十倍も高そうな、この場に不釣り合いな馬車がドンと待ち構えていた。

馬車に乗る前に、見送りに来てくれていたバルバトスさんとピノをチラリと見る。


「じゃあ、達者でな。もう会うこともないだろうが」


そうバルバトスさんが言った。


「…………あの、紙と、何か書くものありますかね?」


俺は使いの者にそう頼んだ。


「はい、少々お待ちください」


俺は馬車には乗らず、持ってきてもらった紙にサラサラと手紙をしたためる。


「……できました!これを国王様の元まで届けてもらえますか」


「は、はぁ。もちろん届けますが、今から王都に行きますし、国王も直接謝罪がしたいとおっしゃっておりますので、その時直接お話されたらいかがでしょうか」


そう言う使いの者に、俺はキッパリと言った。


「いえ、俺王都には行きません」


「えっ!?な、何故です?」


「だって俺はここの領主になったんですから」


「で、ですからそれはこちらの手違いで……」


「いやー、怪我の功名、手違いがあってむしろラッキーでしたよ!こんないい土地をいただけたんですものね」


使いの者はポカンと口をあけ、驚いているのか呆れているのか。

ピノは何故か嬉しそうにニマニマとしているし、バルバトスさんなんかは、


「お、おい!お前何言ってんだ!この土地は寂れてるだけでなく……昨日話しただろ!俺が生きていることが分ればきっと奴が……」


俺はバルバトスさんの言葉を遮って、使いの者に言った。


「と言うことで、俺はこれからポルカの発展のために尽力しますので、そう国王様にお伝えください。あ、心配しなくても、手紙に俺を連れ帰らなくてもあなた達に処分が下されないように書いておきましたし、安心してください」


そう言っても使いの者は戸惑っている。


「し、しかし……」


バルバトスさんはツカツカと俺に歩み寄り、俺の肩をガシリと掴み怒気を込めた声でこう言った。


「……どう言うつもりだ?同情か?」


「……同情?何言ってんですか?俺は単純に豪華な観光地を貰うよりも、ここみたいに一から自分で好きなように発展させられる土地の方が性に合ってると思っただけです。それにここには友人のゴロタもいますし」


しばらくバルバトスさんは俺を睨みつけていた。

俺は瞬きもせず、その目を逸さなかった。


「…………勝手にしろ!」


バルバトスさんは俺を掴んでいる手を離し、後ろを向いてしまった。

使いの者はそれを見てオロオロと戸惑っている。


「あ、あの……」


「行ってください。大丈夫ですから」


「……わ、分かりました」


使いの者は相変わらず戸惑いつつも、馬車に乗り込み、ポルカを離れていく。


バルバトスさんは俺に背を向けたまま不機嫌そうに怒鳴った。


「お前は……大馬鹿野郎だよ!」


俺はバルバトスさんに向かって力を込めて言い返す。


「本当に同情とかじゃないんですよ……。そうじゃなくて、自分個人の問題です。……ここに……どうしてもぶっ飛ばしてやらなきゃ気が済まない奴が来るって話、聞いちゃったものですから」


バルバトスさんは目をひん剥いて振り返る。

ピノは、


「あはっ♡」


そう言って俺に擦り寄ってくる。


「やっぱりししょーはかっこいー!それでこそピノのししょーです」


急にどうしたんだこいつは。

本当にこの子の行動だけはよめない。


「な、何の話だよ。それに師匠じゃないし、くっつくな!」


そんな俺たちを見てバルバトスさんは「けっ!」と言った。


「勝手にしろ!本当に死んでも知らんからな!!」


勝手にしろ……つまりこの土地を自由にする許可は降りたわけだ。

さぁまずは何から取り掛かろう。

忙しくなるぞ!

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