第153話 第一村人発見ってマジですか?

「ハンカチ持った?ちり紙は?出発前にトイレ行った?」


本当にローラさんは、俺を幼児かなんかだと思っているんだろうか?


「ああ、ごめんなさいタクトさん。でも私心配で。だって領主でしょ?タクトさんって仕事以外だと本当に小さい子みたいに何もできないから、私がいないとご飯とか片付けとかちゃんとできるか不安で……」


それについてはぐうの音も出ない。


「だ、大丈夫ですよ。なんか向こうに優秀な人がいるらしいですし、住み良い所みたいですから。落ち着いたら皆さんを招待しますよ!あ、来ました」


馬車が遠くに見えた。

ローラさんは俺に向かい手を広げる。


「?」


俺が分からないでいるとローラさんが頬を膨らませる。


「行く前に、ぎゅってして下さい!」


なんだろう、相変わらず可愛い人だ。

俺がローラさんを抱きしめていると、いきなり声をかけられた。


「お熱いとこ申し訳ないが、早く準備してくれ」


いつの間にか馬車は到着していたようで、御者が声をかけたのだ。

ローラさんは慌てて俺から離れる。


「じゃ、じゃあまた。絶対に手紙下さいね!」


恥ずかしかったのか、ローラさんはそのまま離れて行ってしまった。


俺は御者と二人きりになってしまった。


「早く乗れ。荷物は?」


乱暴な口調だ。

俺は小さなカバン一つを指差した。


「あれです」


「そうか」


御者はカバンを引っ掴むと、馬車の中に投げ込んだ。


「あっ」


「なんだ?なんか文句あるのか?」


「い、いえ」


バッグにはローラさんが作ってくれたお弁当が入っていたのに、ぐちゃぐちゃになっちゃったかな?

あんなに乱暴に扱わなくてもいいのに。


それにしても何かおかしい。

俺は違和感を感じながら馬車に乗り込んだ。


前に御前試合で優勝した時は、随分豪華な馬車で迎えに来たので驚いたものだ。

しかしどうだろう。

今回はまるで積み荷を積む用の馬車であり、どう見ても人を乗せるための馬車ではない。尻も痛い。


御者だってもっと丁寧な方だったし、流石に国王様が直接手配してくれた訳ではないだろうが、あの王様なら1番いい馬車を!くらい言いそうなものだ。

何か手違いでもあったのかな?


すると、さっきのカバンを乱暴に投げた御者ともう一人の御者がヒソヒソ話をしているのが聞こえてきた。


「なぁ、いいのか?あんな態度とっちまって」


「いいんだよ。いつ戦争が起こってもおかしくない国境近くに連れて行くなんて、罪人か良くて貧乏商人か何かだろ?」


「いや噂だと今乗せてる方は貴族みたいだぞ」


「ははは。冗談だろ?」


「いやホントに」


「……」


すると、いきなりさっきの乱暴な口調の御者が顔を向け、大きな声で話しかけてきた。


「乗り心地大丈夫でしょうか?これ座布団ありますので使ってくださいね」


俺はぺこりと頭を下げ座布団を受け取った。


その後またヒソヒソ話が始まる。


「嘘だろ?あれが貴族?どう見ても冴えないただのおっさんだぜ!」


悪かった冴えないおっさんで。これでもまだ20代だ。


「で、でも精々男爵だよな?お偉いさんの貴族じゃないよな?」


御者はすがるような声でもう一人に話しかける。


「男爵は男爵かもしれないが、なんでも国王様の客人らしいぞ」


「な、何だって!?国王の客人が俺の馬車なんかに!」


「それはしらねぇよ」


また御者が俺の方に向かって話しかける。


「さ、さ、先ほどは、て、て、て、『手が滑って』、お、お荷物を、ら、ら、ら、乱暴に扱ってしまい、も、申し訳ありませんでした。に、荷物で壊れたものがあれば私の方で弁償させていただきますのでご確認下さい。も、も、も、も、申し訳ありませんでした」


壊れるような物は弁当以外なかったので、大丈夫ですと答えると、さっきの態度とは打って変わって、御者は恭しく戻っていった。


「聞いてねーぞ!そんな重要な話!!」


「いや俺も直接聞いたわけじゃないんだけど、噂でな」


「どうしよう……絶対怒ってるぞ」


「まぁあの態度なら貴族じゃなくても怒るわな」


「俺、どうすればいいかな」


「……お前料理うまかったよな。道中の飯でも奮発したら?美味いもん食えば怒りも収まるだろ」


「そうか!そうだよな!」


別にどんな態度を取られても怒るつもりはなかったが、随分甘く見られているのは間違いないな。

飯如きで俺がそんなに喜ぶか!


そんな感じで、始終気を使われながら俺はポルカにたどり着いた。

ちなみに飯はかなりうまかった。


いい気分で俺は馬車を降りる。


「それでは、なにとぞ……なにとぞ!なにとぞ!!!どうか良きに!良きに!!」


よくわからないことを言って御者達は去っていった。


「さてここがポルカか」


事前の想像では、『ポルカにようこそ』なんておしゃれな看板が立つ、華やかな街を想像していたのだが現実は……。


鬱蒼としげる草木に年季の入った木製の家が一つポツン。

シーンと静まり返った空間に、カラスの鳴き声だけがこだまする。


カラスが何かキラキラした物を巣に隠している。スピネルかな?なるほどここら辺では宝石が取れるらしい。


本当に観光地?実は鉱山地帯じゃない?


当然お迎えくらいはあると思っていたが、それは思い上がりだったようだ。

はぁー、仕方ない。


「すいませーん。誰かいませんかー」


自分でなんとかするしかない。

一軒だけある目の前の家に近づき、声をかけてみるが返事がない。


どうしようと思って、とりあえずもう一度声をかけドアを叩いてみるとドアが、


キィー


と音を立てて開いた。


「ありゃ、鍵開いてるや」


耳をそばだててみると奥で音がする。


「人はいそうだな。申し訳ないけど、入らせてもらいますよー」


遠慮気味に音がする方に入って行くと、暖炉がある部屋にたどり着いた。

そして暖炉の火を弄っている中年男性。


第一村人発見だぜ!!


「すいません、ご主人?」


そう声をかけると第一村人は俺の方を振り向いた。


「くぁwせdrftgyふじこlp」


どう聞いても国の言葉ではない。

直感的にやばいと悟った。


「お邪魔でしたね!出てくよ」


俺が立ち去ろうとした時、村人が斧を手に持ったのがチラリと見えた。


「ま、待って待って!止まって!俺怪しいもんじゃないから!!」

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