第151話 第三章プロローグ「俺がスローライフってマジですか?」

「面倒なことになったな」


そう言って、国王は深いため息をついた。


俺は申し訳なさで、ただ縮こまるだけであった。


「やっとタクトの名が広まり、正当に評価されると思っておったのに、まさか英雄どころか、諸悪の根源という噂が広まってしまうとはな……」


俺もまさかこんな事態にまでなるとは思っても見なかった。

俺はセシリアを助けたとき、軽い気持ちで、自分が今回の事件の黒幕であるとほらを吹いてしまったのだ。

なんとそのほら話は、王都どころか瞬く間に国中に広まってしまった。

なんでもこの話を面白おかしく大手の新聞社が書いたことが広まった原因らしい。


そのせいでタクトという名は国民からは、魔王以上の大悪人と嫌われているらしい。

なのでここ最近は名前と顔を隠し、コソコソと生活している。


国王は俺に、


「お前に爵位を与えなければと思っておったのにこれではな」


と言った。

俺は驚いたが国王は笑って続ける。


「何を驚いておる。そなたがやったことを考えれば当然であろう。爵位だけでなく、領地も渡すつもりだぞ」


領地なんて面倒そうなものは別にいらないが、国王がそこまで俺のことを考えていてくれたことを考えると、さらに申し訳ない気持ちになった。

しかし国王はもう暗い顔をしてはいなかった。


「そこで考えた!お主に領地を合法的に渡し、批判も受けないすばらしい方法があったのだ」


その言葉を聞き、俺は焦った。


「国王様、ありがたいお話ですが、私には貴族なんて……」


国王は首を横に振った。

実を言えばこの時国王は、俺を貴族にし、いずれは自分の娘2人のどちらかの夫になってもらおうと画策していたのであるが、そんなことその時の俺は知る由もない。


「本当は『タクト』に正式に領地を渡したいのだが、今回は『混沌を司る漆黒の翼†ジェイド』に土地を送ると言う名目にしたいと思う。これであれば問題は起こらないはずだ」


「えええ!?だってジェイドって本当は存在しないんですよ」


「確かに、ジェイドは存在しない。しかし混沌を司る漆黒の翼†ジェイドは、御前試合で衝撃的な優勝を果たしたことから、その名はこの国全土に広がっており、ジェイドがこの世に本当は存在しないなど疑うものは、1人としていないだろう。それに御前試合を優勝したと言う実績がある。その功績を認められ、領地を与えられたとなっても不自然は無いのだ」


確かに言われてみれば筋は通っている。でも俺はさっきも言った通り本当に貴族なんてごめんである。

そんな俺の心を見透かしたように国王が言う。


「心配しなくとも、統治が楽な土地を優秀な部下に選定させてある。その中からお前が好きな土地を選ぶが良い。土地の中にはのどかで観光地に適したところもたくさん用意してある。別に気構えなくていい。領地などといってもそちらには優秀な人材がたくさんいるのでそいつらに全て任せてしまい、そなたはここら辺で少し休息を取るといい。色々と大義であった」


なんと!国王はそんな粋な計らいをしていてくれたのか!俺は思わず感激してしまい、


「ありがとうございます!」


と言ってしまった。あ、やばい。

これ話を受ける感じになった?


「では早速向こうの部屋に向かおう待たせてある部下に土地を説明してもらい、どこの領主になるか選ぶといい」


「……」


今から断るって、無理ですよね?……まぁでも、たまには観光地でバカンスもいいかな?


そして俺は部下がいると言う部屋に入った。

部屋には大層機嫌が悪そうな、若い女性が待っていた。

目つきが鋭く、何やら俺のことを睨んでいるように見える。


「あ、あのー」


そう声をかけるが、女性は私と喋るのも嫌だと言ったふうに返事をしない。


「あのー、ここで領地を選べって言われたんですけれど」

と言うと、女性は机の上に資料のようなものをバサっと無造作に差し出した。

資料とは言ったが、数枚の領地の名前が書かれただけの紙が綴られたものであり、領地の説明やそこに住む民の事など一切書かれていない。


「あのーすいません。これだと土地がどんな場所全くわからないのですが?」


そう聞いたが、女性はさらに不機嫌になり、

「はっ!?」

と一言答えただけであった。


恐い。


仕方ない。王様も全て良い領地だと言っていたし、適当に選んでも問題ないだろ。


俺はその紙の中で、これだと思うものを指差した。


『ポルカ』


名前的になんとものどかそうな街ではないか!

俺がここにしますと言って、ポルカを指刺したとき、その女性が初めてニヤリと笑を浮かべた。


「ではポルカでいいですね。あなたが選んだんでですからね!」


念を押すように女性は言った。


「はい」と俺が答えると、


「すぐに手続きを始めます。権利書等は後日郵送しますので」


その後は今まで何も言わなかったのが嘘かのように、女性は色々と手続きの説明を早口で喋りかけてきた。

話が終わると質問も受け付けずに、さっさその場を去ってしまった。

俺は部屋に1人残されず思わずぽかんとしてしまった。


しかしこれで俺も土地持ちだぜ。

しかも観光地でのどかな場所、確かに国王様の言う通り鷹の爪を止めてから、いや鷹の爪で働いていた時から忙しくて羽根を休める時間がなかったかもしれない。これで少しはゆっくりできるかな?



国王の優秀な部下視点


国王はあのようにおっしゃられているが、絶対私は認めない!


タクトとか言う男、たくさんの女性を囲っているらしい。

さらには魔王と裏で繋がっているし、大聖女に命令をして言うことを聞かせたりもしているらしい。

国王様は騙されているのだ!


しかし国王の決定に口を挟めるほど、私には力がない。だからタクトを貴族にするのは嫌だったが、従わざるを得なかった。


しかしなんと幸運なことにタクトが領主になる土地の選定と言う仕事を私は任された!

これはチャンスだと思い、国の土地の中でも特にひどい問題のある土地をいくつも選んだ。


どれが選んでもひどい目に合うように土地を選んだが、タクトはよりにもよってポルカを選んだ。

私は思わずにやけてしまった。

ポルカは私が選んだ土地の中でも、特に問題が多い場所だ。

せいぜい苦しめばいい!

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