第148話 番外編 ユキちゃんの憂鬱①
エルフの里からはるばるやってきた私ユキは、なんとあの大ギルド、『鷹の爪』に就職することができたのです!!
鷹の爪49支部に配属になった私は今日も元気に勤務しています!
「はい、回復終わりました!じゃあ今日も頑張ってきてください」
回復だけして終わりではありません!
そう言って笑顔で冒険者達を送り出すまでが私の仕事なのです!
質の高いサービスと接客。何せ私が勤めているのは世界一のギルド『鷹の爪』なんですから!
「いやーいつ見てもユキちゃんの回復魔法はレベルが高いよね」
「いやー、それほどでもありますけどー」
私は謙遜したつもりだったが、褒められ慣れてないせいで、つい喜びが口から出てしまいました。
「それにこんなに若くて美人で、大ギルドの鷹の爪勤務なんて……ずっと付き合ってるっていう彼氏さんも、幸せだろうね」
「へっ!?彼氏!!??」
突然言われた聞き慣れないその単語に、私は驚いた。
カレシ?かれし?彼氏?何それ?おいしいの?
一瞬パニックになったが、すぐにハッと正気に戻る。
そして自分が今大ピンチだと言うことに気が付いた。
だって……だってすぐ近くで、タクト先輩が勤務してるんですよ!
絶対に今の話聞いてたじゃないですか!
私に彼氏にいるなんてデマ!大声で言わないでください!
「わ、私、彼氏なんていません!今まで付き合った人とかもいないんですから!!」
私は裏で働くタクト先輩にも聞こえるように、あえて大きな声でそう言った。
これで誤解が解けましたよね?それでもって……少しくらい、私のこと意識してくれればいいなぁ。
「あれ?」
ちょっと私が思った展開と違ったかもしれない。
声が大きすぎたせいだろうか、賑やかだったギルド内がシーンと静まりかえってしまった。
私はそれを見て、大声を出したのが急に恥ずかしくなってしまい思わず下を向いた。
よく聞こえないが冒険者の皆さんはコソコソと何か話し合っている。
きっと私の馬鹿でかい声を笑っているんだ。あーー!!恥ずかしすぎるー!!!
「ゆ、ユキちゃんに彼氏がいない……だと?」
「ほ、本当かな?だったら俺……」
「え、だって責任者のウラン支部長が、ユキちゃんには彼氏がいるからちょっかい出さないようにって……」
「お、俺もそれ聞いた!」
コソコソ話を続ける冒険者達を見て、何故だかウラン支部長が「チッ」と舌打ちをした。
「さ、皆様、後ろも控えておりますので、速やかに前にお進みください」
そう言ってウラン支部長は冒険者達を促すが、すぐに異変は起こった。
「あれ?」
最初は偶然かと思った。何だか私の回復に並んでいる人の数が、いつもより多いような……
「あれあれ?」
回復しても回復しても、私に並ぶ列は一向に減らない。
しかも何故か今日は軽傷の人ばかりだ。
それに……
「あの、ユキちゃんって好きな食べ物は?」
「ユキちゃん誕生日って……」
「ユキちゃん来週の予定って……」
やっとのことで昼休みになり、私は休憩室で怒りを爆発させた。
「何なんですか!あれは!!」
ウラン支部長は「はーっ」と深いため息をついている。
「いつもは来ない軽傷の人までこっちに来るし!それに回復魔法で集中している時にくだらないこと話しかけられるし、ほんとに今日はもう!!」
私が休憩室で大声をあげているのに注意もせず、ウラン支部長は黙って何か考え込んでいる。
きっと支部長も何かすっごく困ったことがあったのだろう。
私だけ怒ってるのも、よくないか……よし!私は気持ちを切り替え、お昼ご飯を食べ始めた。
「(忙しかったせいで、今日はタクト先輩と全然話せなかったなー)」
私はチラリとギルド内を見た。
あれ?さっきまでギルドには大勢の冒険者がいたのにも関わらず、今はガラガラの状態だった。
さらにさらに、回復の受付には一人も人がいない。
「よし!」
思わずガッツポーズした。
お客さんがいなければ、ちょっとくらいタクト先輩とお話ししたっていいよね。
私はルンルン気分でお弁当を食べる。
そして午後の勤務の時間が来た。
「う、嘘でしょ……」
私は力が抜け、思わずその場に倒れ込みそうになった。
あれだけガラガラだったはずなのに、どういうことだろう。
私がいる回復の受付には長蛇の列ができており、何と列は外まで続いていたのだった。
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