第145話 神殺しの槍
タクトの元に魔力が着実に集まっていくのを、神は興味深げに眺めていた。
「本当に他者から魔力を集めおった!とんでもないスキルじゃ……あれは……何だ?」
アトム神は自身の持つ数万のスキル全てが記載されている『叡智の書』を捲り確認した。
「ふむ……やはり『聖槍』などというスキルは載っていない……つまり」
つまりタクトの『聖槍』スキルはアトム神が与えたものではなかったのだ。
「聖槍……神血を浴びた事で力を持った槍、なるほど、神殺しの槍……」
アトム神は考えを巡らすが答えは出ない。
「……まぁ良い。今はことの成り行きを見守ろう……」
………
……
…
自分の体に魔力が次々に注ぎ込まれていくのを感じる。
「き、来た来た!!」
俺は槍を顕現させる。
さっき出した小さく短い槍ではなく、今度は巨大な槍が顕現した。
槍は俺の魔力が膨れ上がるのに比例して、際限なく巨大化していく。
「……これが……聖槍の力……」
セシリアが槍を見つめその力に驚いているが、まだこれでは足りない。
これではまだ大聖堂を破壊できない。
「まだだ!みんな!頼む!力を貸してくれ!!!!」
俺の言葉は風の精霊に伝言してもらった訳でもないので、もちろん仲間達に届いているはずもない。
しかし俺の言葉に反応するように、さらに大きな魔力が体に流れ込む。
それと同時に、皆んなの思いも身体中に流れ込んできた気がした。
「お兄様!アリサの魔力全部持っていて下さい!」
「タクトさん!ブレーメンの皆んなの魔力!あなたに送ります!」
「タクト、僕の魔力使うんだから、失敗したら承知しないよ」
槍の大きさは、あのパズスを倒した時以上になった!
「来たぞ!来たぞ!!み、な、ぎ、っ、てきたぜ!!!」
「う、嘘でしょ?」
セシリアが驚きを通り越し、信じられないといった表情を浮かべる。
それもそのはずだ。
俺の顕現した槍は、大聖堂を凌ぐ大きさにまでなっていた。
これで準備は整った。
しかし最後の大仕事が俺には残されている。
このとんでもない質量になった槍を最大出力で大聖堂に向けてぶちかましてやるんだ!!
俺はグッと右腕に力を込めた。
「タクト様」
「タクトさん」
「タクト……やっちまえ!!!」
「うおぉぉぉぉぉ!!!!」
全力で槍を放り投げる。
ドーーーン
大きな音を立て、槍は大聖堂を粉々に破壊していく。
これならば、瓦礫の落下による被害も殆ど起きないだろう。
「や、った……」
全身の力がぬけていくのが分かった。
何回目だろう。この感覚。
俺は抗いがたい深い眠りに堕ちていった。
………
……
…
「タクト、すごいな、あとはゆっくりちじょうにおりるだけー」
ゆっくりと降下していくリナの背で、気を失ってしまっているタクトを、セシリアはぎゅと抱きしめた。
「……タクト……ありがとね、私やっぱりあんたの事が……好きだ……」
そうタクトに囁くセシリアにリナが言った。
「タクトいまねてるぞー。そういうだいじなことは、ちゃんとおきてるときにいわないとってウランししょーがいってたぞー」
セシリアは顔を真っ赤にする。
「そ、それが言えれば苦労しないのよ!だって、私はタクトの姉だから」
「セシリアはタクトのおねいさんだったのかー。ん?アリサはタクトのいもうとっていってたけど、タクトのことすきすきーっていってるぞ?」
「えっ?待ってそれ、リナちゃんちょっとそれについては詳しく……」
そんな話をしている間に、リナは地面に降り立った。
孤児院の方角から、リナが降り立った地点に、地上にいた仲間達が駆け寄ってくるのが見えた。
「おーい!おーい!どこにいますかー?大丈夫ですかー?」
仲間たちがセシリア達を探している。
「みんなだ!!おーい!こっちだよー!おーい!」
セシリアは手を振って無事を伝えた。
セシリアに気がついた仲間達は息を切らせて駆け寄る。
「みなさん無事ですか?お怪我は?」
セシリア達の元に駆け寄るとすぐに、ウランはそう尋ねる。
「私は大丈夫」
「リナもー!」
「タクトは寝てるだけ、でも……」
そこまで言って、セシリアは口籠る。
「でも?」
「母さんが……」
そう涙目になるセシリアを見て、ウランはきょとんとしている。
「母さんって、クレハさんの事ですよね?クレハさんがどうかしましたか?」
セシリアは俯き、辛そうに話し出す。
「……母さんは、大司教との戦闘で……死んで……」
そこまで言うと、駆け寄って来た面々は顔を見合わせて驚いている。
ウランは大体を察した様子で困り顔を浮かべ、セシリアに説明しようと試みる。
「あのー、セシリアさん。クレハさんは……」
「うん。大聖堂も無くなっちゃったし、遺体も……」
涙を瞳に溜めるセシリアを見て、本当にウランは話しにくそうだ。
「遺体も何もクレハさんは……」
そうウランが言ったところで、ウランの後ろから大きな声が聞こえた。
「おやまぁセシリア、勝手に母さんを殺さないどくれ。あたしはこの通り、ピンピンしてるよ」
そう言って流石に疲れたのか、杖をつきゆっくりと歩いてくるその姿を見て、セシリアは思わず顔を覆った。
「嘘!」
魔力は空っぽで、身体に全く力が入らないはずだった。
なのにセシリアの足は勝手に動き、駆け出していた。
「お母さん!!」
セシリアは泣きながらクレハに飛びつき、強く強くその体を抱きしめた。
「良かった!生きてた!母さん、母さん!!」
クレハは照れくさそうに顔をかきながら言った。
「心配しなさんな。あんたが孫の顔見せるまで、私は死にやしないんだよ」
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