第143話 オラに力を貸してくれってマジですか?

リナの背に乗ったセシリアはすぐに俺に向かって大聖堂の落下をどう防ぐつもりなのか聞いてきた。


「で、どうするの?あんなバカでっかい建物、破壊できるビジョンが見えないんだけど」


「それは、俺のスキル、聖槍を使う。聖槍は俺の魔力や調子次第でいくらでも巨大化できるんだ。それを使えばどんな大きな物だって破壊できる」


セシリアはうんうんと頷く。


「なるほど。ちゃんと勝算があった訳ね。あんたの事だからノープランだったんじゃないかとちょっと疑っちゃったわよ。それで、その槍はすぐに出せるの?それとも詠唱に時間がかかったりするの?」


ノープラン……セシリアのその言葉にギクリとした。


「ああ、それが……」


そう言って俺はセシリアに小指程の大きさの聖槍を出して見せた。


セシリアは俺のポークビッツに驚愕の表情を浮かべた。


「あんた!私の前でこんな小さいの出して!ふざけてるの!もっと大きくしなさい!ほら早く!こんなんじゃやる事やれないでしょ!!」


「いや、さっきの戦闘で殆ど力を使いきっちまったし今は無理だよ。でも回復すれば絶対いけるから!待ってて!待ってて!」


「ほんとバカ!タクトのバカ!もういい!私あそこに戻るから!リナ!大聖堂にすぐ戻って!!」


「いや!待てって!落ち着けって!ちゃんと大きくする方法は考えてあるから!」


セシリアはギロリと俺を睨みつけた。


「時間がないのよ!それを早く言いなさい!」


「えっと、聖槍の巨大化に必要な魔力をみんなから分けてもらおうと思うんだ。それなら短期間で回復できるどころか、俺の魔力以上の巨大な聖槍を顕現する事ができると思う」


「なるほどね?でも魔力の譲渡なんて、そんなこと本当にできるの?」


「たぶん。前に魔王を倒した時に、みんなの力が流れ込んでくるのを感じたんだ。聖槍を発動する時は俺と親しい特定の人からなら魔力を分け与えてもらえるはず!」


「……分かった。魔力の譲渡が可能として、あの大聖堂をぶっ壊すのに、具体的にはどのくらいの魔力が必要なの?」


「ああ、まぁそんなにはいらないかな?えっと……たぶん王国の上級魔法使い1000人分くらいあれば足りると思うよ?」


「はぁ!!??そんな量の魔力集まるわけないでしょ!!」


セシリアの言う通りだった。

今回は生半可な魔力では足りない。

魔王を倒した時よりも何倍も大きな魔力が必要だ。この前に分けてもらった魔力よりももっと大きな魔力が……。


「そう、とんでもない量の魔力が必要なんだ。だから、セシリア力を貸してほしい」


セシリアは俺の顔をじっと見つめた。

「はぁー」とため息をつくと、俺の手をギュッと握り目を瞑った。


「偉大なる神アトム神よ、我が言葉を信徒達に伝えたまえ」


そう言ってセシリアは大聖女にだけ許された神を介して信徒達に言葉を伝える祈りを始めた。


「セシリア……それって……」


「しー。今は黙ってて」


そう言ってセシリアは続けた。


「今大聖堂が空から堕ち、この地に甚大なる被害を与えようとしています。それを阻止すべく私と……今私の隣にいる、聖槍……ロンギヌスの槍の使い手『タクト』は命を賭して戦っています。しかし私たちの力だけではこの困難は乗り越えられません。アトム教徒達皆んなの力が必要なのです。時間がありません。皆さんの魔力をタクトに貸して下さい!私たちは今大聖堂と共に空にいます。どうか私たちに魔力を送るために、空に向かって手を上げてください!」


………


……



アトム神はセシリアからの神からの伝導の言葉を聞き大いに笑った。


「ふはは!このアトム神を伝言板代わりに使うとはのう。面白い。貴様らがどれだけやれるか見せてもらおうか」


アトム神はセシリアの言葉をアトム教徒全員に伝えた。


「さて、お前の望み通り伝えたぞ。だが果たして、そう思い通りにいくかのう……」



王都ではいきなりの神の啓示に慌てふためいていた。

殆どの者はいきなりの怪しい啓示に、どうすればいいか戸惑っていたが……


「……俺、ちょっと手上げてみるかな……」


そう言ってちょっとした興味本位で手を挙げた市民のおかげで、事態は一変した。

その市民は、片手を上げて数秒も持たずにガクリと膝をついてしまった。


「どうした?大丈夫か!?」


隣にいた別の市民が、手を挙げた市民を支える。


「あ、ああ。何とか大丈夫だが……本当に魔力を持ってかれたよ。こりゃキツい。こんなの、10秒もしない内にぶっ倒れちまうし、下手したら魔力切れで死んじまうぞ!」


それを聞き辺りはシーンと静まり返った。

次に手を挙げようとする者は現れない。


「……た、助けてやりたい気持ちはあるが……命まで賭けるのは……」


そんな言葉を聞き、他の市民達もどこかホッとした様な声をあげる。


「し、仕方ねぇよ!俺たちのせいじゃないし!大司教が皆んな悪いんだからな!」


そう言って、市民達は力なく笑った。



そんな下界の様子を見ていたアトム神はカラカラと笑った。


「やはり……人は愚かな生き物よのう」


そう言って一頻り笑った後、悲しみの表情を浮かべた。

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