第139話 二人なら

目の前に無数に飛び交う触手を……ただ、斬る、斬る、斬る!


大司教の攻撃は俺にかすりもしないが、奴の超再生によって触手は斬っても斬っても再生する。


「フハハハ!魔物細胞ト、スキル再生ノオカゲデ、私ヲ殺ス事ハ不可能ダ!サラニ……」


斬り刻んだ触手の破片がブクブクと音を立てて膨らんでいく。


触手の破片は魔物へと変容し、俺に襲いかかってくる。


「斬ってダメなら……焼き尽くす!」


ノエル直伝の魔界の炎で、触手の魔物を再生不可能なまでに焼き尽くす。


魔物を焼かれた大司教は俺を見てつまらなそうに言う。


「ケッ。ナカナカヤルジャナイカ。ダガサッキモ言ッタ通リ、私ハ無限二再生デキル。ソシテ私ノ触手ヲ切レバ魔物二ナル。イツカハオ前ノ体力モ尽キル。無駄ナ足掻キダ」


そう言って大司教は再び激しい攻撃を繰り出した。

確かに奴の言う通り、これだけでは勝てない。

それでも……俺はひたすらに戦い続ける。


「フハハ、馬鹿メ!何故ソコマデ頑ナニ攻撃ヲ止メナイ。ハヤク諦メテ楽二ナッタ方ガオ前ノ為ダゾ」


「……勘違いしている。追い詰められているのはお前の方だ……」


俺は一つの確信を持っていた。

しかし大司教は、


「何ヲ言ッテイル。マァ好キニ足掻ケ!」


と言って笑っている。


俺の確信とは、セシリアだ。

さっきまでいたはずのセシリアがこの場にいない。

それはきっとセシリアが大司教を倒すために何か別に動いているからだろう。


「……今まで俺とセシリアの二人で解決できない問題なんてなかった。今回も……楽勝だ。難しい事はセシリアに任せて、俺は、母さんを侮辱したお前を……絶対にぶっ倒す!!」


………


……



セシリア視点


「このアトム神様を閉じ込めているクリスタル、たぶん錬金術で作られたものだ……」


おそらく大司教が元々授かっていたスキルは錬金術。

その力で魔物と人間の融合についても研究し成果を出した。

そして同じく錬金術のスキルで、神をも封じ込める事ができルクリスタルを生成し、何らかの方法でアトム神様を捕まえ閉じ込めたのだ。


「アトム神様すら封じ込める事ができるクリスタルを、私が壊せるかって所ね……まぁ、やるしか無いよね。母さん、タクト、待っててね。すぐに何とかするから。それまで持ち堪えて……」


焦るな。焦ったっていい結果はでない。

まずは分析だ。

クリスタルに触れたり観察したり、魔力を流してみたりして、私はその性質を分析した。


その結果おそらくこのクリスタルは、高純度の魔石と硬度の高い金属を掛け合わせ、高質化と魔力遮断を両立させている事が分かった。


つまり……


「物理は効かない、魔法も効かないって事ね……」


私はクリスタルの破格の性能を知り、いっそう頭を悩ませた。

壊せない、魔法も効かない。ならどうすればいいのか?


…………。


…………。


…………。


…………!


「そっか……それなら……」


思いついた途端、我ながらなんと恐ろしい事を考えたと震えてしまった。


壊す必要なんてないんだ……問題は……


「一番の問題はアトム神様が大司教と何らかの形でリンクさせられていて。力を出せない状態にされていること……」


そのリンクのせいで本来は強大な力を持つはずのアトム神様が力を出せずにクリスタルから脱出できないでいる。


つまり大司教とのリンクを外しさえすれば、アトム神様は自力でクリスタルから脱出できるはずだ!


ではリンクはどうやって外せばいいのか、きっとどんな魔法を使っても、どんなにクリスタルを大司教から遠ざけても、リンクは切れない様にされているはずだ。


用意周到な大司教であればそれくらいの事はしているだろう。

ならば……


「……クリスタルごと、この世界からアトム神様を消し去って仕舞えばいい……」


我ながら自分の大胆な考えに震えてしまった。


「……さっき母さんに怒られたばっかりなのにね。まさかこの禁術をまた使うことになるなんて……。でもこれは勝算があってやることだから、きっとアトム神様なら……」


私はそう独言、詠唱を始めた。

先ほど大司教相手に使おうとした自分と共に相手を異空間に飛ばす禁術を……。


異空間、それなら大司教でも干渉は不可能。

つまりリンクは切れるはず!


私が異空間に飛ばされた後のことは……文字通り神頼みね。

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