第138話 最悪の目覚め

クレハとジョゴスは死闘を繰り広げていた。



最初はクレハが優勢だったが、ジョゴスの傷が再生してきた事により、少しずつ形勢が変わってきていた。


クレハはチッと舌打ちをする。


「(まだ大精霊は3、あともう少しだと思うんだけどね……)」


クレハの精霊魔法は特殊である。

詠唱を終えてから時間経過と共に召喚できる大精霊の数が増えるのだ。

最初は炎と氷の精霊の2体であったが今は土の大精霊が召喚され3体であった。


クレハの準備が整うよりもジョゴスの再生の方が早い。


「私の再生率は70%と言ったトころかな。だがお前の攻撃もモう見飽きた……こレで終わりダ」


魔物の細胞が再生を繰り返し傷を癒していた。

そのため人間だった部分がほとんど消失してしまい、今のジョゴスは半分以上が魔物の体になっていた。

話し方もどこかおかしい。


ジョゴスは触手攻撃と雷鳴を同時に放つ。

魔物化が進んでいるこの攻撃は以前よりも強力で速い。

クレハは避けることができずにモロにそれをくらう。


クレハは当たる瞬間何とかシールドを張ることに成功する。


「ふぅー間一髪だね」


ギリギリのところで4体目の風の大精霊を召喚することができ、防御が間に合ったのであった。

しかし以前クレハのピンチは続く。


「(このままじゃ最後の雷の大精霊が召喚される前にやられちまうね)」


クレハには5体の大精霊が揃って初めて使える大技があった。

それを使えば再生を追いつかせずにジョゴスを倒すことができる。

そう思っていた。


だが健闘虚しく、ついにジョゴスが完全に体を再生させてしまう。


「ハハハハハハ!凄いゾ!凄い力だァァ!!!」


ジョゴスは雷を纏わせた触手でクレハを攻撃する。


シールドを張るクレハだが、触手はそれを突き破り、クレハに命中する。

触手に吹き飛ばされ壁に激突するクレハ。口からダラリと大量の血が流れた。


「ダメージが大きくて……大精霊が維持できない」


クレハの召喚していた大精霊が全て消えた。


対するジョゴスはすでに体の9割以上が魔物の姿で、あれが元はアトム教の大司教とは思えない姿になっていた。

無限のスキルを持つ魔物と人間のキメラ。

こんな最悪の敵、今のクレハに勝つすべは無い。


「ああ、ここで殺シテモもいいがお前はせしリアの母親?だッタな。なンかお前をウマく使えル気もすルし、アレ、マだコロさなくて、イイのか?わからなクなってキたな」


知能、理性までも魔物に侵食され始めている。


「マァいい、とりアえズ捕まエておコう」


そう言いながら無詠唱でジョゴスは魔法を発動させる。

クレハの足に足枷が現れ、一歩も動けなくなった。


クレハは自分の敗北を悟った。

しかし、人質になって子供たちの足手纏いになるくらいだったら……


「サンダーボルト!」


クレハはジョゴスに向かって力を振り絞り雷の呪文を放つ。

しかし弱々しい電撃はジョゴスにひょいと避けられてしまう。


「なンだ、こレは?ふざケていルのか?」


そう笑いながら避けたジョゴスだったが、すぐに後ろから大きな声がした。


「いでぇー!!」


慌てて後ろを振り向くと、クレハが放った電撃はずっと眠りについていたタクトに当たっていた。

クレハの電撃は威力を調整されていたようで、軽い痛みだけでタクトはピンピンしている。


「チっ、小賢しイ!アいつを起こス為にやっタのか」


タクトはすぐに起き上がり、ジョゴスとクレハを見た。

今の状況を確認する。


「なんで母さんが!?血!血が!大丈夫かすぐに……」


「寝坊助、お前が寝ている間に色々あったんだよ。いいか、これから母さんが言うことをよく聞きな!そこにいる大司教だった何かをさっさとぶっ倒して、セシリアと一緒にここを脱出しな。あと1つ、一番大事なこと……」


そう言言いかけたクレハの言葉を遮り、ジョゴスはタクトに脅しをかける。


「ケケケ!話はそこまでだ、お前ノ母親は捉えテイル。助けたければ大人しく……」


そうジョゴスが言ったところでクレハがそれを遮るように言う。


「本当に外道だね、あんたは。私を人質にタクトを倒そうったってそうはいかないよ。……じゃあね、あとの事は頼んだよタクト……サンダーボルト!!」


クレハは突然自分の真上に魔法を放った。


放った魔法は大聖堂の天井に当たり、天井が壊れる。

天井は崩れ大量の瓦礫がクレハの頭上に降り注ぐ。


タクトはすぐにクレハの意図が分かった。

慌ててクレハの所へ駆け寄ろうとするが間に合わない。


「か、母さん!!!!」


巨大な瓦礫がクレハの上に落ちる寸前で、クレハはタクトを指さして言った。


「一番大事なこと……タクト……母さんはあんた達の事世界で一番愛してるよ……」


ガダンガダンと無情にも瓦礫はクレハに降り注ぐ。

クレハはもちろん、そのまま瓦礫の下敷きになった。


「かあさーん!!!!」


そんな母の最後の姿を見つめ、ガクリと膝をつくタクトを見てジョゴスは大笑いする。


「く、くははははは!なんテやツだ!自分デ死にヤがっタ!!」


ジョゴスの笑い声を聞き、タクトはグッと拳を握りしめた。

拳から血が滴り落ちる。


「お前は……お前だけは、許さない……」


「く、フハハ!あいツが勝手に死んダダけだぞ。ぷハハは!それ二許さナイだと?それはコっちのセリフだ!お前ハ神でアる私に不敬ヲ働いた。お前モババアと一緒に死ネぇ!!」


そう言ってジョゴスは雷を纏った大量の触手をタクトに向かって放った。


しかし触手はタクトの前に届く事なく一瞬でまるで紙切れの様に細切れにされる。


「へっ?」


タクトが手に持っているのは短い何の変哲もないナイフ1本のみ。


「な、何ダ?何をシた?私の触手ノ硬度は鋼鉄以上ダぞ?そんなナイフ1本で10本以上アる触手を?い、いヤあり得ナい。な、何かズルをシテいるんダな!わ、私ニハ分かるぞ!卑怯者ニハ死を!!!!」


ジョゴスは特大の雷を召喚させる。


「究極雷魔法、神ノ裁キ!!当たレバ塵も残らナイ!死ネ!!!!!!!」


雷がタクト目掛けて落下する。

その直前、タクトはすっとナイフを振り上げた。


すると雷がナイフの斬撃でスパーンと真っ二つになる。

雷はタクトに当たる事なく二股に分かれあさっての方向に流れていった。


「なっ!ナ、な、何ダト?雷を切ったダト?そんな馬鹿なコト……」


ジョゴスは目の前で起こった事実を信じる事ができなかった。


「(スキルは確カニ奪ったハズだ。たダノ人間に神私を圧倒する力なんテ、そんなハズは……)」

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