第137話 秘密

セシリア視点



アトム神様が囚われているとしたら……その隠し場所は一箇所しかない。

大司教個人の部屋の中だ!

大司教は誰一人として中に人を入れようとしなかった。

部屋に何か秘密があるのは間違いない。


全速力で走り、大司教の部屋に辿り着く。

鍵がかかっていたが、構わずドアを蹴破った。

中は一見して普通の部屋。


いや、そんなはずがない。


あいつのことだ。

一番大切な物は手元に置いておくはず。


「(落ち着け……周りをよく見るんだ)」


そうやって部屋を眺めると、アトム神様の大きな絵画が飾られているのが目についた。


「……もしかして」


私は絵画を外してみた。

するとそこには案の定隠しレバーが設置されている。


すぐにレバーを引くと、


ズズズズズズッ


と音を立て、部屋にあった重い本棚が動き出した。


やはり隠し通路。

本棚があったはずの場所はぽっかり穴が空いている。


穴の奥を見たが、暗くて先は分からない。

私は何故か穴の奥を覗いて、ゾクリと背筋が凍るのを感じた。


「……早く行かなきゃ……」


私は自分に言い聞かせるように独言、恐る恐る階段を降りて行った。


階段を降りながら、私は辺りから漂ってくる血生臭い匂いに思わず吐きそうになる。

階段の至る所に血が飛び散っているのだ。


大聖堂にこんな所があるなんておぞましい。


かなり降ったはずだ。

早くついてくれと願っていると、ついに終点に辿り着いた。


目の前に簡素な木製のドアを見つけた。

私はゴクリと唾を飲む。


ドアを開ける薄暗いその部屋はまるで錬金術師の実験室の様だった。


「何?ここ?」


私はキョロキョロと辺りを見回す。


「ひっ!!」


ホルマリンにされた魔物だ。

何体も棚に並べられている。


「なんでこんなものが……」


恐る恐る確認すると、魔物の殆どが体を引き裂かれ、別の種の魔物と無理やり接合されていた。


「キメ……ラ?」


ホルマリンの他にノコギリや実験器具、そしておそらく大司教が書いたのだろう、いくつかの書物が机に置かれているのを見つけた。

ざっとタイトルを読む。


『魔物の融合について』、『魔族の細胞と人間の細胞について』、『人と魔物の融合について』、『新たなる神の誕生』


時間が無いのは分かってたが、大司教を倒すためのヒントになるかもしれないと思い、軽く本の内容にも目を通す。


「魔物同士の融合、失敗、相性があるようだ……。魔物と人間の細胞は基本的には融合できない、人の細胞の方が死滅してしまう……。ついに人と魔物の融合に成功、しかしすぐに被験体は死亡。長期の生存を確認できた被験体有り、しかし凶暴性を確認。……ついに完全な融合が成功した、それは私自身への魔物細胞の融合だ、やはり私は選ばれし者だった、不死身の体を手に入れた。……新しい神の誕生だ……」


これが本当であれば大司教は……。

アトム神を解放したとしても大司教は手強いかもしれない。


私は先を急いだ。


実験室の先にあったのはいくつもの檻のある部屋だ。


「グルルルルル」


魔物の唸り声があちこちから聞こえる。


何体もの魔物が捉えられているようだ。

掃除もされていないのだろう、さっきの部屋も酷かったが、ここの臭いはより一層醜悪だ。


不快感が込み上げてきたが、見落としがあってはならないので一つ一つ檻を確認した。

しかしアトム神様は発見できない。


しばらく進んでいくと、一番奥に厳重に鍵の掛けられた部屋を見つけた。


「ここだ!きっと!」


私は鍵を破壊し、ドアを開けた。


ドアを開けると、さっきまでの臭気が嘘の様に、その部屋は清んだ空気が漂っていた。

そして明るい。

明るさの正体は、部屋の中央に浮遊している赤いクリスタルだとすぐに分かった。

クリスタルは煌々と光を放っている。


すぐにクリスタルの中に封じ込められている美しい女性に目を奪われた。


「この方が……アトム神……」

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