第135話 最強の種

俺とセシリアはリナの背に乗って宙に浮かぶ大聖堂に向かった。


ものすごいスピードで上昇しているせいで、大聖堂から降り注ぐ大量の石の礫が、リナに何発も直撃している。


一つや二つではどうと言うことはないが、無数に飛びかかる礫のせいで、高い硬度を持つはずのリナの鱗は少しずつ剥げ落ち、体からは血が滲んでいく。


「リナ……」


「大丈夫だよタクト。このくらいへっちゃら」


リナはボロボロになりながらも大聖堂まで到達した。


リナは大聖堂に向かって勢いよく飛び込むが、大聖堂の前の見ない壁にガンと体をぶつけ弾き飛ばされた。


「まだ結界が……リナ、大丈夫だ!ここまでありがとう!後は俺たちがやるから」


そう俺が言うとリナは首を振る。


「駄目。中には強大な力を感じる。タクトとセシリアは力を温存しておいて」


そう言うとリナは魔力を口元に集めていく。


「七重の咆哮」


七色の光が大聖堂にぶつかる。

だが強靭な結界は破れない。


咆哮の力に耐えきれず、リナの傷口から血が大量に吹き出す。

それでもリナは諦めずにまた咆哮を放とうとする。


「駄目だ!これ以上は無理をさせられない!後は俺たちに任せて……」


そう言った俺にリナはニコッと笑って見せる。


「タクト、私はね、ルビードラゴンの最後の生き残りなの。世界でたった一匹。一匹になってから、ずっとずっと一人ぼっちだった。なんで私だけ生き残っちゃったんだろうってずっと思ってた。でもねタクト達に出会えたの。種族を超えて、仲良くしてくれる皆んなの事が、私は何よりも大切、だから!私は皆んなのためなら、命をかける!」


リナは自分の魔力だけでなく生命力を口元に集めているようだ。

危険な技である事は間違いなかったが、リナの覚悟を聞いた今、俺はそれを止めることはできなかった。


リナの生命力を宿した咆哮は赤く煌めく。

セシリアはその強大なエネルギーに驚きを超え感動さえ混じる。


「これが……おとぎ話でしか見たことがなかった伝説の竜、ルビードラゴン……かつて世界を支配したという最強の種……」


「紅玉(コウギョク)の、咆哮!!!!!」


そう言ってリナの口から放たれた咆哮が結界に直撃する。

今までびくともしなかった結界が、バチバチと音をたて軋んでいるのが目に見えて分かった。

そして次の瞬間、


バキィィィン!!!!


そう物凄い音をたて、結界は粉々に破壊された。


「どう、タクト、凄いでしょ」


「ああ、リナ、本当にありがとう!お前はズゴイ奴だよ!」


「えへへ……」


リナはフラフラしながらも大聖堂まで辿り着いたが、羽を休めた途端「ドシャン」と一気に脱力して崩れ落ちる。


「リナ!」

「リナさん!」


俺たちがそう叫ぶと、次の瞬間リナは

「ぐーぐー」

と豪快な寝息を立てていた。


心配そうにセシリアがリナを触って確かめる。


「……うん、大丈夫。寝てるだけ、命に別状は無さそう!」


「凄い……さすがはリナだ……」


俺たちは二人で寝ているリナを優しく撫でた。


「……皆んなの頑張りに報いるためにも、勝たなきゃ……」


「ああ……あいつは、あいつだけは絶対に……許さない!」

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