第131話 俺がいないと……


ヨル達は比較的魔物が少ない方向へと逃げたのだが、そこにもやはり通常よりも多く魔物がいる。

さらに小さな子供達が大勢いるために、移動は難航していた。


アサは爆破魔法で何体も魔物を倒していたが、消耗が大きい。

さらには仕方がないことなのだが、爆裂魔法により大きな音を立てたことにより、魔物を刺激し、少なからず新たな魔物を引き寄せてしまっている。


サヨも多くの敵を倒す戦闘スタイルではない。得意は暗殺だ。

その移動力を生かし、近づく魔物を優先的に排除しているが、中々その数を減らせない。


ヨルも同じくだ。呪文のキャンセルは主に対人間用の技であり、魔物相手には有用度は高くない。

その上ヨルは全員の指揮を務めなくてはならない。


かなり厳しい状況だった。


それでもブレーメンの仲間達は果敢に戦ったのだが、ついにその時は来た。

疲労が溜まりフラリとしたアサをアンデットが殴りつけた。


「きゃあ!」


「アサ!大丈夫か」


すぐに助けに行こうとするヨルだったが距離が離れすぎている。

アサがアンデットにやられるそう思った瞬間であった。


大きな槍を持った冒険者がアンデットを一撃で撃ち倒した。


「ふぅー危機一髪だ。大きな爆発音がしてきたから来てみたが良かったよ」


「大丈夫ですか?お嬢さん」


そう言って槍の男の隣に立つ聖職者風の男がアサに回復魔法をかけた。


「あ、ありがとうございます」


アサはお礼を言った。


「魔力切れを起こしている。これを」


そう言って魔力ポーションをアサに渡す。


「おい、マルコ。俺にも回復かけてくれよ」


「嫌ですよリック。何故か固有スキルの力が弱まっているようで、いつもより回復魔法か上手くいきません。それに貴方の傷は回復するまでもない、かすり傷です」


「へいへい。すいませんね。擦り傷ごときで騒いで。それにしてもこれはなんだってんだよ」


「分かりませんが、この付近に邪悪な気を感じます」


マルコが辺りを見渡すと、魔物はさらに増えていた。


「囲まれた」


ヨルは考えを巡らせた。


(考えろ!この状況を打破する方法を!考えろ!考えろ!)


必死で柵を巡らすが、疲弊しきったメンバーと子供達、助けに来てくれたとはいえたった二人ではどうにもならない。


しかし魔物達は着実にこちらに歩みを進めてくる。


万事休すかと思われたその時だった。


「旋風!!!切り刻めぇぇぇぇ!!!!」


強力な風の魔法が一瞬にして魔物達を切り刻む。


「ヒャッハー!なんて顔してんだよヨル!……やっぱり俺がいないと駄目だよな!ブレーメンはよ!!」


そう言った金髪ピアスの男に、ヨルは心の底から感謝した。


「……遅いぞ、ヒル」


「悪りぃな、相棒。それより早く次の指示をくれ。全員生きて帰るんだろ?」


ヨルは顔を上げ言った。


「……当たり前だ!行くぞ!!」

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