第130話 最終決戦ってマジですか?
俺はセシリアが目覚めてから色々な話をした。
ノエルの事や魔王の話なども全部だ。
呆れているのか心配しているのか怒っているのか、複雑な表情で聞いていたセシリアだったが最終的に、
「まぁあんたらしいっちゃ、あんたらしいわね」
と言って笑ってくれた。
セシリアも段々と調子を取り戻し、これからの事を語ってくれた。
「私、しばらくしたらここを出て、遠くの誰も知らない街に行く。そこで治療院を開くの。私の昔からの夢なの。場所はあんたにも母さんにも言わないつもり。だからもうすぐお別れね」
そんな風に話す。
「それ本気か?もう大聖女は辞められたんだから、俺たちへの迷惑とかそう言うことは考えなくたって……」
「遠くの街で治療院を開くのは、そう言うんじゃないから。心配しないで」
そう言ったセシリアの顔は、笑っているような、泣いているようななんとも言えない顔をしていた。
俺はそれ以上それについては何も言えなかった。
こうしてしばらく平穏な日常が続いていたある日の事だった。
ギルド皆んなもそろそろ通常業務に戻ろうとしていた矢先。
まだお昼にもならないはずだが、辺りが一瞬で暗闇に覆われる。
黒い雲が孤児院の周りを一瞬で覆い尽くしたのだ。
「おや、通り雨かい?早く孤児院に入らないとね」
そう言って母さんは外で遊んでいた子供達を家の中に入れようとする。
しかし次の瞬間、空に浮かんでいるあれを見咎めた。
「な、なんだい?あれは……」
神聖で神々しかったはずの大聖堂は見る影もなく、邪気が漂う悪魔の棲家のように変貌していた。
母さんは大声をあげる。
「大きい子達は、下の子を連れて早く逃げるんだ!1分で支度だ!あの建物と逆方向に!なるべく遠くに逃げるんだよ!!」
そう言うと外にいた子供達は慌てて支度を始める。
小さい子供達数人は不安そうにクレハの服の裾を引っ張る。
「かあたん。こわい」
「ふえぇぇぇぇん」
「かあたんもいっしょにいこ」
そんな幼児達を母さんはギュッと抱きしめる。
「母さんはここで少しだけやることがあるんだよ。なぁに心配しなくていいよ。すぐに母さんも追いつくさ。無事に逃げ切ったらみんなでホットケーキを焼こうかね」
そう言って母さんは幼児達の頭をポンポンと撫でた。
「クレハさん!みんな準備できました!」
元ブレーメンのヨルが孤児院の皆んなを扇動してくれたようだ。
ヒルはゴチンコのギルドの手伝いで、近くに支部にローラさんと行ってしまって不在のようだが、アサとサヨはこちらにいる。
逃げるだけなら戦力は申し分ないと思われた。
「悪いね、ヨル。頼んだよ!」
「任せてください!クレハさんも危なくなったら逃げてください」
「ありがとうね」
そう言ってヨル達は大聖堂と逆の方向に走っていった。
「何があった?母さん」
遅れて、俺とセシリアが外に出た。
俺たちも邪悪な気配を感じていたので、念の為ウランちゃんの持ってきた教会の聖遺物をいくつか準備している。
「タクト、セシリア、あれが何に見える?」
「あ、あれは……大聖堂?」
「あんな巨大な物を浮かび上がらせるなんて……」
セシリアのいた大聖堂があんなことになりこちらに向かっている。
嫌でもあの男の事が思い出される。
「大司教……」
俺がそう言うと母さんがため息をつく。
「どうやらあれだけじゃないみたいだ」
そう言った母さんの見据える先には大量の魔物とアンデットがひしめいていた。
大聖堂の邪悪な力で魔物を引き寄せているのに加え、何らかの固有スキルでアンデットを操っているのだろう。
「Bクラス以上の魔物が、1000以上はいる……」
流石に3人だけでは厳しいと俺は思った。
「孤児院にアリサとウランちゃん、ユキちゃんがいる。母さんは三人と逃げてくれ。俺とセシリアとあとはリナに頼んで3人である程度敵の数を減らすから……」
俺の提案を母さんはすぐに却下する。
「いや、逃げても結局原因を叩かないと問題は解決しない。アンタ達は大聖堂に行ってくれ。中にいる諸悪の根源をどうにかするのさ」
「でも、あんな上空に行ける浮遊魔法は私もタクトも……」
セシリアがそう言うと、母さんは指笛をピーッと鳴らす。
「リナ!帰っておいで!」
母さんがそう言うと物凄い勢いで、リナが俺たちの前まで駆け込んだ。
「クレハ、もうごはんか?きょうははやいな」
外で一人遊んでいたのだろう、体が泥だらけだ。
リナはクンクン鼻を動かす。
「クレハ、なんかくさいぞ、ここらへん」
リナは大量の魔物の匂いに顔を顰めている。
「リナ、原因はあれだよ。あの建物。あれがあっちゃ飯もまずくなっちまう。悪いけどドラゴンに戻ってタクト達をあの城まで連れってってくれるかい?あとであんたの好きなチェリーパイをたーんと焼いてあげるからさ」
「おぉ!クレハのチェリーパイ!だいすきだぞ!」
そう言ってリナはドラゴンの姿に戻る。
「タクト、セシリア、乗って。クレハの言うとおり、あの邪悪な城の主を倒せば、多分異変は止まる」
リナはドラゴン語で俺にそういう。
俺たちはリナの背に乗る。
「母さん、さっきも言ったけど早く逃げてくれ!もう歳なんだからさ!」
「ふざけんな!年寄り扱いするんじゃないよ!アンタ達こそ、死ぬんじゃないよ!」
「母さん、ごめんなさい……きっと私が大聖堂を出たから」
「まだ言ってんのかい?悪いのはアンタじゃない。大司教なんだよ。ほら、さっさと行きな」
母さんがそう言うと、リナは物凄いスピードで空へ舞い上がった。
無事に大聖堂に向かったのを見届けると、母さんはポキリポキリと拳を鳴らす。
「さぁて、実戦は20年振りかね。うちの子達には……指一本触れさせないよ!」
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