第128話 アトム教の崩壊⑤

大司教の部下視点


「大司教様!もう無理です!予定の時刻から10分も過ぎています!!」


「ええい!こうなったらそこのお前!このドレスを着て大聖女の振りをしろ!!!」


そう言って大司教様は女中の中でも若く美しい女を見つけそう命令した。


「い、嫌です。そんな恐れ多いこと!!」


「何だと貴様!私に逆らう気か!!」


そう言って女中を殴りつけようとする大司教様を私は必死で止めた。


「おやめ下さい大司教様!大丈夫です!私めにいい作戦があります!!」


「な、何だと!?よ、よし、話してみろ!」


「私がそのドレスを着て、大聖女として外に出ればいいのです」


「な!ふざけているのか、お前は!」


そう言って大司教様は顔を真っ赤にしてお怒りになられた。

私は大司教様の為ならどんなに殴られようが構わない。


「ふざけてなどおりません。見ての通り私は小男で痩せていますので体型は見ての通り女性と相違ありません」


「だからと言ってだなぁ!!!」


「幸い化粧をする者も揃っております!あとはカツラを被り、顔には仮面を被ればいいのです」


「仮面?だと?」


「そうでございます!大聖女様は本来であれば市民に顔を見せていいようなお方ではないのです!なので仮面を被って外に出るのは不自然ではないかと……」


「……し、しかし声はどうするのだ?」


「基本は大司教様がお話になり、後ろに女中をつけて、その女中に喋らせましょう!仮面を被っているので口元は見えないはずです!」


大司教様は私の案を聞き、「むむむむ」と唸っていたが、やがて観念したように言った。


「すぐに化粧と着付けをしろ!」


近くにいた化粧係が、一応ということで私の腕や足だけでなく、顔に白粉と口には紅を塗った。

そんな私の顔を見て大司教様は顔を顰め苦々しげに言う。


「まるで化け物だな」


「大丈夫でございます。ちゃんと仮面をつけますので」


私は大司教様の為であればどんな罵倒もどんな仕打ちも耐えられる。

愚民どもとは格が違う強い信仰があるのだ。


そして女中達に大司教様が自ら作られたというドレスを着させられた瞬間、私は急にハッとした。


ああ、私の信仰心は実は大司教様への恋心だったのだと。

私は大司教様を今にも抱きしめたくなったがグッと堪えた。


「準備はできたか?」


「はい」


そうなるべく高い女性の様な声を出して答えると、大司教様はゴミを見るような目を私に向けた。


「なんだその声は?気持ち悪い」


私は大司教様に罵倒されて、ゾクゾクした。


「まぁ良い。もう30分も王を待たせている。確かに遠くから見れば女に見える。手筈通り行くぞ」


私と大司教様は国民達の前に出た。


「お待たせして大変申し訳ない!」


大司教様がそう大きな声を出すと、愚民共はざわざわと騒がしくなる。


「あれは、まさか大聖女様?」


「お戻りになられたというお噂は本当だったのか!?」


「あの服ってウエディングドレスじゃない?」


「やはり大司教様と結婚なされるのね!」


大司教様はある程度の所で、鎮まれ鎮まれと手でジェスチャーされた。

すると愚民どもは静かになる。


「お察しの通り、私はこの者と結婚する。そう、彼女は……」


そう言った瞬間であった。


「ズキューーン」と銃声が聞こえた。

まさか大司教様に?と思ったが狙いは違っていた。

弾丸は私の顔目掛けて飛んできたのだ。

私は殺されたかと思ったが、違った。

私の顔面に飛んできた銃弾は、仮面だけを器用に破壊し、私には傷ひとつつけられなかったのだ。


「え!?」


「大聖女様じゃない?」


「ていうかあれ男じゃないの?」


「男っていうか、おじさん?」


「さっき大司教様あの人と結婚するって言ってたよね?」


「え、そういうこと?」


突然の事に市民はパニックになる。


「こ、これは!違う!鎮まれ鎮まれ!!!!」


大司教様がパニックになって叫ぶがその姿がまた愛らしい。

私は思わずとんでもない発言をしてしまう。


「そうです!私はこの教会の職員ですが、このたび大司教様と結婚する事になりました!」


私がそう言うと、愚民どもはうるさく騒ぎ立て始める。


「一体どう言うことだ?」


「大聖女様の発見の報告じゃないの?」


「まぁ愛の形はそれぞれじゃないか?」


「そうだな。祝福しよう」


愚民どものくせに中々いい事を言う。

当の大司教様は呆然としている。


「お前……なんてことを……そ、そうか!私が作った呪いのドレスのせいで私に惚れて……!脱げ!今すぐそれを!」


大司教様が私を殴り飛ばした所で、教会前の来ていた王が声を上げた。


「鎮まれ!皆の者!!」


その鋭い言葉に、愚民どもだけでなく大司教様もピタリと動きを止め何も言えなくなられた。


「どう言うことか分からんが、良くもまぁとんだ茶番を見せてくれたな」


「あ、あの、申し訳ありません。王よ。実は手違いがありまして……」


「黙れ!」


王がそう怒鳴ると、いつもは威厳に満ち溢れた大司教様が濡れた子犬のようにびくりと肩をお震わせになられた。


「この件の処罰は追って連絡する。その時は今のような立場でいられると思うなよ」


そう言って王は兵士と共にお帰りになられた。


大司教様は、何も言わず下を向き。呆然としている。


あぁ、なんて可哀想な大司教様!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る