第127話 アトム教の崩壊④
大司教視点
セシリアが戻ってきた事をすぐに王都中に知らせるように、大聖堂に残っている僅かな職員に指示を出した。
さらに明日午後1時に、私と大聖女から『重要』な話があると言う事も付け加えて触れ回させる。
大聖女が戻って来た事と、この重要な連絡という指示のおかげで、おそらく王都の市民の殆どが集まることになる。
結婚発表は盛大にやらなくてはならない!
何せこの国の支配者である私の結婚発表なのだ!
明日の発表までは結界があるので警備兵は実質必要がないだろう。
警備兵には王や王妃、姫の護衛を頼み、明日大聖堂に来ていただこう。
急な話なので大規模に兵士を出さねば失礼に当たるしな。
この結婚には大きな意味がある。
世界中に分布するアトム教会内で一番権力を持っているのは、実は私ではない。
意外にも地方で『奇跡』と呼ばれる力を使う教会主や、莫大な資金を持っている小国の教会の大司教の方が、忌々しいことに私よりも発言権が強かったりするのだ。
しかしこの結婚で、歴代1の能力を持つ大聖女と私が結婚したとあれば、私の発言権は間違いなく1番上になる。
文字通り、教会を自由に動かし、国民全てを操る事ができるのだ。
なるべく早く私の偉大な姿をクズどもに伝えるために……
「おい、アトム、結界スキルから、精霊使役スキルに変更だ!」
私がつけている指輪に話しかけると、私の固有スキルが『結界師』レベルマックスから『精霊使い』レベルマックスに変わった。
私はすぐに高クラスの一番早い風の精霊を呼び出して、教会の要人達に、明日大聖女との結婚発表会を行うというメッセージを伝達させた。
「おい、アトム!次は呪物を作れるスキルに変えろ!」
俺がそう言っても、スキルが変わった気配は感じれれない。
「ふざけるな!!私は忙しいんだ!!!早くしろ!!!!」
そう誰もいない部屋で怒鳴りつけ、指輪に魔力を注いだ。
指輪についた宝石が一瞬黒く濁ったと思うとすぐにスキルが『呪具師』レベルマックスに変わったのを感じた。
「ふん!すぐに従えばいいのだ、このクズめ!だから痛い目に遭うのだ!!」
私は呪物作成のスキルで、セシリアのドレスを作ろうとしていた。
人形のネックレスも悪くはないが、意識を持ったまま私に逆らえない体にしてやろうと思っている。
強力な呪いを込めたドレスを着させて、私に惚れさせてやるのだ。
こんな調子で、私は寝食も忘れて次の日まで結婚発表の準備を続けた。
そしてついに朝になり、全ての準備が整ったのだった。
「ふぅー、疲れたな。だが国民の前で私とセシリアが抱き合う姿を想像するだけで疲れも吹き飛ぶってものだ」
私は事前にセシリアに服が合うか確かめるためにもドレスを着させることにした。
化粧ができる者も呼ばなきゃいけない、髪も整え、風呂にも入らせ……ええい、一応女中を10人程呼んでおくか!
それにその後パーティーになるだろうから、酒と、食事、シェフに、ボーイにこま遣いだって……ああ、それでも足りん!
教会の中に誰もいないので、仕方なく私が精霊魔法を使い、色んな人間を教会に呼びつけた。
大丈夫だ。まだ時間はある。
私は全ての連絡を終え、いよいよセシリアの部屋に向かった。
人形のネックレスをしているので部屋で大人しくしているはずだ。
目の前で着替えさせてやろう。
「セシリア!私の作ったドレスを着てみろ!」
そう言ってドアを開けたが、そこには誰もおらずがらんとしていた。
「せ、セシリア?どこにいる!出てこい!これは命令だぞ!!」
そう言ってもセシリアは返事をしない。
私はセシリアの名前を呼び続けながらしばらく部屋の中を探したが、やはり彼女の姿はどこにもない。
馬鹿な?
人形のネックレスは私以外は絶対に外せないし、強力な結界のせいで、外部からも内部からも人は入れない。
「つまりセシリアはこの教会のどこかにはいるはずだ!」
私がそう言った瞬間、教会の門の前で鐘が鳴った。
誰かが来た?
私は急いで門の前に走った。
すると私が呼んだ女中やらシェフやらが大勢来ていたのだ。
私はすぐに結界を解き、全員を中に入れた。
この際こいつらに教会内を探させるしかない!
「すぐに入ってくれ!」
中に入りすぐに言われた、大聖女を探せ!と言う私の指示に、料理をすると思っていたシェフも、女中もボーイも色々戸惑っていたが、渋々言うことを聞いた。
落ち着け、まだ慌てるような時間時じゃない!
しかし、何時間探してもセシリアは見つからなかった。
「何故だ!無能どもめ!」
そう怒鳴りつけると皆びくりと肩を震わせた。
どこだ、どこにいる!考えろ!考えろ!!
私が落ち着いて考えを巡らせようとすると、外が騒がしくなっているのを感じた。
「な、何だ?」
外をチラリと見ると、なんと国民がちらほらと教会前に集まり始めていた。
「ば、馬鹿な!もうそんな時間か!?お、お前ら!突っ立ってないですぐに探せ!!」
私はもしかしたら私以外入れない部屋、書斎にセシリアがいるのではないかと思った。
これだけ探していないのだ、そうだそうに違いない。
私が急いで書斎の鍵を開け中に入ろうとした。
しかし、鍵は壊されている。
やっぱりこの中だ!
中に入ると私の書斎はぐちゃぐちゃに荒らしまわされていた。
「どう言う、こと、だ?」
私の計画は完璧だった。
結界で出入りはできない。
セシリアは人形のネックレスをつけている。
私が呆然としていると、後ろに気配を感じた。
「セシリア!?」
そう一瞬思ったが、後ろにいたのは役目を終えて戻って来ていた教会の職員だった。
「お、お取り込み中の所申し訳ありません大司教様、王様がお見えになっております」
私はダラダラと汗が止まらないのを感じた。
これだけの人を集めておいて、セシリアはいないと言ったら、私はどうなってしまうのだ?
そんな私の所に、さらに一人職員がやってくる。
「大司教様、各街の教会主様や大司教様も続々来ていただいております。華やかな発表になります」
何も知らずに呑気な事を言いニコニコ笑う職員を、私は殴り飛ばした。
それを見てもう一人の職員は慌てて逃げ出して行った。
「どうすれば……どうすればいい……」
私が狼狽えていると、教会の中にいても分かるほどの大きな音が聞こえた。
「パッパラッパパッパパー、パッパパッパパー」
私が雇った音楽家だ。
開始時間である1時の5分前になったらラッパを吹けと命じてあったのだ。
「ああああああああああああああ!!!!!!」
………
……
…
1日前
自分の部屋に入ったセシリアは、ドアが閉まり一人になれた事を確認すると、すぐに手を洗った。
「気持ち悪い。触られちゃった」
セシリアは大司教が触った手を念入りに洗った。
手を洗い終わり、ひとまず深呼吸。
「ふぅー、侵入は成功」
そう言ってセシリアは警戒しつつも外を見渡し、誰もいない事を確認して外に出た。
「とりあえず教会の大司教が悪事を働いている証拠。それと一番大事な人形のネックレスの解呪道具を探さなくちゃ」
そう言って教会を歩き回った。
「あ、この姿で見つかるとちょっとまずいか」
そう言ってセシリアは顔に手を当てる。
「変化解除」
先ほどまでセシリアだった顔は一瞬のうちにウランの顔に変わっていた。
「さぁ、作戦も最終章です」
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