第125話 ラーチは教会にて最強ってマジですか?

タクト視点


俺に殺気を向けるラーチは余裕の笑みを浮かべる。


「ふっ。ただ魔力が多いだけじゃ、教会最強の俺の足元にも及ばない。固有スキルを使わずとも俺の敵じゃないね!」


そう言って、ラーチは長い詠唱を始めた。


俺は一刻も早くセシリアの居場所を知りたかったので、そんな時間さえも苛立っていた。


しかし、そもそもこいつに場所を聞かないとセシリアを探しにいけない。


「氷刀千本桜!!」


無数の氷の刃が生成され、四方八方からこっちらに向かってくる。


「どうだ!これでは避けようがないだろ」


「魔眼発動。アースシェルター」


魔眼を発動させ無詠唱で土術を発動させる。

一瞬で分厚い土のドームが俺の体を守る。


「な、何!?無詠唱で俺の氷魔法を防ぐだと!?」


ラーチは顔を引き攣らせている。


ただ勝つだけじゃ駄目だ。

完膚なきまで叩きのめし、戦意を喪失させ、セシリアの居場所を吐かせる。


「ふっ、どうやらなかなかやるみたいだね。固有スキルを使わせてもらうよ」


俺は苛立ちを隠さずに言った。


「お前じゃ俺には勝てない。痛い目にあいたくなければセシリアの居場所を言え」


俺の言葉にプライドが傷ついたラーチは怒りで小刻みに体を震わせる。


「余裕な顔をしていられるのも今だけだぞ!俺のスキルはな、音を操る!!これは世界最強のスキルだ!音はいいぞ!応用もきく!特殊な音波を発生させて特定の場所に人を寄り付かせないようにしたり、音振動で離れた者の位置を把握もできる。さっそく見せてやる!固有スキル、エコーロケーション!!」


そう言ってラーチはスキルを発動した。


「ふふふ。これでお前の動きは手に取るように分かる。今右腕を動かし、頭をかこうとしたな」


俺はラーチの言う通りボリボリと頭をかいた。


「それがどうしたんだよ」


「つまりだ!お前の細かな動きが俺には分かる!お前の攻撃は事前に予測できる!お前は何をやっても俺には勝てないんだ!!!」


俺はやれやれと頭をかかえる。


「それでどうして俺が勝てないと決めつける?」


「ふっ、強がりを!音を操ると言うのは攻撃においても最強だ!!音の衝撃波、つまり攻撃は音速だ。攻撃は遠距離だけじゃないぞ!俺が直接お前に触れれば、音波を体に直接叩きつけ、お前の脳みそを揺らすことができる!いくら強くても脳みそを直接揺らして脳震盪を起こせば、一撃で気絶する。つまりだ!お前は俺に触れた時点で負けなんだ!せいぜい足掻いてみせろ!」


そう言ってラーチは音の衝撃波を放った。

音が地面を抉り向かってくる。

俺はそれを軽々と避けた。


「ほぉ、音速の攻撃をよく避けたな。しかし今のは地面を抉ったから目に見えた。今度は空中に衝撃波を出すぞ。見えない音速の攻撃、お前に避けれるかな」


そう言って確かにラーチはもう一度音の衝撃波を放ったが、実は空中であっても俺には視認できる。


さっきの様にひょいと避けた。


「な!?当てずっぽうで避けたか!ま、まぐれがそう続くかな?」


「まぐれじゃないぞ。お前のエコーロケーションほどじゃないが、神経を張り詰めれば空中に存在する魔力を視認する事ができる。お前が術を発動する時にその魔力が微かに動くから、どこから攻撃が来るか分かるよ」


「ば、馬鹿な事を言うな!空中の微細な魔素が見えると言うのか?」


「ああ。なんか頑張ったら見えた」


「は、はったりだ!くらえ、音弾連打!!」


ラーチが今度は音の衝撃波を5つ飛ばしてきた。俺はひょいひょいと全てをかわした。


「無駄だ。いい加減セシリアの居場所を教えろ」


ラーチは後退りし、明らかに動揺していたが、動揺を隠そうと強がって言う。


「ま、まぁ想定ないだ。中々やるな!これはさらに体に負担がかかるので使いたくなかったが……」


「そう言うセリフは弱い奴が使う」


「ほざけ!もうお前は終わりだ!俺の最大最強の固有スキル、『音乗り』!!今の俺は音に乗って動けるようになった!つまり俺の今のスピードは音速。時速1225kmだ!お前は俺に触れられただけで、地べたを這いずる事になるんだ!」


手に魔力を込めて、音速で俺に向かい襲いかかってくる。


「はぁー。懲りない奴だ」


俺は音速で向かってくるラーチを先程衝撃波を避けた時と同じ様にひょいとかわした。


「はっ?」


惚けているラーチの後ろに、俺はすぐさま回り込み、渾身の一撃をお見舞いした。


「があぁ!!」


ラーチは吹き飛び、大木にぶつかり血をはく。


「ば、馬鹿な……エコーロケーションを使っていたのに、お前の動きが読めなかった。それに音速の俺の攻撃を、どうして……」


「どうしてって、俺さっきから音の衝撃波を何度も避けてるんだから、分かりそうなものだけど、今まで避けられた事がなくて頭がまわらないのか?」


「はっ??」


俺は察しの悪いラーチを見て、今日何度目になるだろうため息をついた。


「はぁー。音の衝撃波が避けられるんだからさ、分かれよ。俺は身体強化と魔眼やなんやらの固有スキルによる強化。さらに無詠唱魔法のブーストやらなんやらで、一瞬だけど音速よりも速く動けるんだよ」


「そ、そんな……俺より速く動く人間なんているはず……」


「いるさ、ここにひとりな。さぁ、そろそろ諦めろ。セシリアの居場所を言ってもらうぞ」


「ま、待て!俺は教会を裏切ることができない!だからセシリアの居場所を言うことは

……」


そう言ってラーチは隷属の腕輪を俺に見せつける。


「裏切りを感知すると、腕が締め付けられて最終的に腕がもげるのか、自業自得だな。死なないだけましだろ?言え」


「い、嫌だ!言わない!」


俺はラーチがそう叫んだ瞬間、その顔面を掴み地面に叩きつける。

ラーチはポタポタと顔から大量の血を流す。


「言え」


「む、無理だ、腕がなくなるのは嫌だ!!」


容赦なくもう一度地面に叩きつける。ポロリと何か白い物が2つ地面に落ちた。

ラーチの前歯が折れたのだ。


「2本だけか。話すまでに何本折れるかな?」


そう言ってもう一度叩きつけようとした時、


「わ、分かった!言う!言うから!セ、セシリアは教会に戻ってる!近くの警備隊の所だ南に20kmのとこだ!でも多分もう合流しちまったし、手遅れかもしれない!あの警備隊は一瞬でセシリアを教会に届けられる様にいくつか使い捨ての魔道具を準備させてあったから……ぐわぁ!!」


そう発言した途端、ラーチが苦痛に顔を歪める。

腕輪がラーチの腕をもぎ取ろうと、強く腕を締め付けたのだ。


それを見た俺は魔法で強化した短刀で、腕輪を真っ二つに割ってやった。


「あ、ありがとう!ありがとう!た、助かったよ……まさかこの硬度の隷属の腕輪を簡単に破壊するとは……」


「勘違いするな、次に俺の前に姿を現したら、容赦なくお前を殺す。今すぐ消えろ」


「わ、分かったよ。俺はどこか遠くに行くよ。この国を出る!お、お前らとは、2度と会わない!」


俺はその言葉を聞き、すぐに南にセシリアを追って向かった。


………


……



無理な魔力解放、身体に負担のかかる固有スキル、タクトの攻撃によるダメージ。

ラーチの身体は現在ボロボロであった。


しかしそれ以上に精神的なショックが大きい。


ラーチが初めて敗北したショックとタクトに対する恐怖にしばらく呆然としていると、そこにある人物が姿を現した。


「タクト様はお優しい方ですから、こんな奴でも生かしておいたんでしょう……本来手負いのネズミを狩るのは趣味じゃないのですが……まぁ汚れ仕事はタクト様には似合いませんし、私がやればいい話よね❤︎」


「は、はぁ?何をごちゃごちゃと!誰だお前」


ゴスロリ服の女はラーチを見下ろし話し出す。


「あら、私を知らないだなんて、うふ。私はアリス、覚えてなさい。あんたを地獄に叩き落とすその名前を」


「ふ、ふざけるな!確かに俺はあいつには負けたがお前如きに……」


「うるさい」


そう言ってアリスがパチンと指を鳴らすと、ラーチの周囲に結界が張られる。


「こ、これは!?」


「普段のあなたの実力だったら、私が密かに魔道具を設置しているのに途中で気がつき、逃げられたでしょうね?どう、私の特性の魔導結界。魔力が一切感じられないでしょう?」


必死に固有スキルを発動しようと試みるラーチだが、全く魔法が発動しない。


小さな結界に閉じ込められたラーチはダラダラと汗を流す。

そんなラーチを見てアリスはウフっと笑いかけた。


「さぁ、このドブネズミはどう料理しようかしら❤︎殺すだけじゃつまらないし……永久に解呪できないデバフ効果のある私の特製魔道具を身体中につけて、世界最弱にしちゃうとかはどうかしら♪」


「や、やめろーー!!!!」


ラーチの悲鳴も虚しく、アリスはニヤリと不敵な笑みを浮かべ、淡々と『お仕置き』を始めるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る