第122話 作戦②

「ジェイドを出せ!!」


そう言ってゴチンコのギルドの窓ガラス目掛けて石は投げられた。

投げた男は、ガシャーンと音が鳴り窓ガラスが割れる事を想像したが、そうはならなかった。


投げられた石は、ゴチンコのギルドに当たる寸前の所で、コツンと見えない何かに当たりコロコロと男の足元に戻ってきた。


「?」


男はもう一度石を拾い上げ、さっきよりも強く石を投げる。


すると石はやはり何かに跳ね返り、今度は男の顔面に当たった。


「いてっ!!」


「な、なんだ?」


ジェイドを見つけるためにギルドに来ていた別の男が入口に近づく。


入り口にはデカデカと張り紙がされている。


「ギルドのリニューアルのため、しばらくお休みさせて頂きます」


「な!?」


「なんだと、休みだと!ふざけやがって!!」


ギルドに来ていた男達の中でも一番体躯のいい男が、ギルドの入り口目掛けて体当たりする。


しかし次の瞬間、男は尻餅をついていた。


「け、けっ、かい?」


………


……



「ジェイドに対し、教会がなんらかの措置をとる事は予測できましたので、事前にギルドを休業させ、結界を張りました。ギルド長や職員は新たな支部設営の為に別の場所で仕事をしています」


そうウランがクレハに報告する。


「あんたは本当に優秀だね、ウラン」


「いえ、まだまだです。作戦はここからが本番ですから」


………


……



「おい、西の洞窟にジェイドがいたらしいぞ。なんでも洞窟で何日も隠れてるらしい。行くぞ」


王都にそんな噂が出回り、冒険者の多くと、教会の秘密組織ブレーメンの一部は西に向かった。


………


……



「ヒル君ごめんね。病み上がりなのに」


「いえ、これくらいなら全然平気です、ローラさん!」


風魔法でローラが作ったジェイドの衣装をまるで生きている人間かなように動かす。


「これで数時間、衣装はこの付近を動き続けると思います」


「ありがとう、ヒル君。まだ行けそう?」


「これくらいなら、50はいけますよ!」


そう言ってヒルは胸をはる。


「無理しなくていいからね」


「はい!」


ヒルとローラは次は南を目指した。



冒険者が大量に西に向かったその数時間後。


「南の森でジェイドが野宿しているらしい。かなりの数の目撃情報がある。西にいるという情報はおそらくジェイドの仲間が流したニセ情報だ。大司教様が至急南に迎えとご命令だ」


教会は残った警備で大規模な部隊を作り、南に向かう。


次の日


「北の空き家に大聖女様がいるらしいぞ!」


「ああ、確かに凄い回復魔法を使ったし、フードを被っていたがあれは大聖女様だ!」


なんでもその大聖女はさらに北に向かったらしい。

一瞬で呪いや怪我を治すその力と美しい容姿から、間違いなく大聖女だと王都はざわめく。


教会はすでに人が殆どいないにも関わらず、無理やり捜索部隊を作り、さらには残っているブレーメン全ての人員をも北に向けた。


………


……



王都北のとある空き家


「あ、ありがとうございます!僅かばかりですがこれを!」


そう言って怪我を治して貰った男はなけなしの銭を白い服の女性に渡そうとする。


「いえ、受け取れません!」


そう言って女性は頑なに金を受け取らないのだが、その声や動きはいささか大袈裟な気がする。


「で、ではどうかお名前を!」


「そ、そんな……私は……名乗るほどではありませんわ!」


そう言って女性は逃げるようにその場を立ち去る。


残された男は感嘆の声をあげる。


「あのお美しい姿、立ち振る舞い……間違いない!行方が分からなくなっている大聖女様だ!!」


小屋を出てしばらくして、男を治療した女性は待機していたリナと接触する。


「おつかれー」


リナにそう言われて女性がフードを取ると、エルフ特有の長耳がツンと飛び出す。


「はぁーアリサちゃんが用意した杖とポーションと解呪符!これ凄いわー!まぁ私の聖女の演技も、すんばらしいけどね!」


大聖女の真似事をしていたのはユキであった。

そしてリナはユキの護衛。


「すごいなー、ユキ!わたしはあんなのはずかしくてできないぞー!」


「ん?なんかその言い方引っかかるんですけど?褒めてるそれ?」


「ほめてるぞー!ユキはすごいなー」


リナの天真爛漫な笑顔を見て、ユキちゃんはうーんと腕組みしてうなる。


「うん、まぁいいや!次行くわよ、リナちゃん!」


「おー!またユキのえんぎがみれるー。たのしみだー。こういうの、コメディっていうんだろ?ウランにおしえてもらったー」


ユキはリナの発言にずっこける。


「リナちゃん。コメディ違う。私は名女優。ほら、言ってみて」


「めい、じょゆう?」


「そう!いいよ、リナちゃん!!」


「ユキはめいじょゆう!」


「そう、私は名女優!!」


「ユキはめいじょゆう!」


2人は仲良く、次は西に向かった。









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