第118話 戦争開始

アリスは、

「次の行動を開始しますわ。私はまた単独で動きます」


そう言って部屋を出ていってしまった。

俺の暗殺の件はまだ終わっていないのだ。

それどころかアトム教会が敵になったという事なので、前よりも深刻な事態になるに違いない。


きっと他の皆んなも俺のためにそれぞれ忙しく動き出すのだろう。

たぶん止めても無駄だ。

さすがに俺ももう隠れてなんかいられない。

俺は自分に何ができるのか考える。


あのラーチとかいうやつがまた襲ってきた時の事を考えた。

きっと一番の問題はあの男だ。

このギルドのみんなは強い。

でもあのラーチとか言う男の実力はそれ以上だ。


ラーチは無駄な殺しはしないような事を言っていたが、それも本当かどうか怪しいところだ。

できればあいつとは俺一人でやり合いたい。


「しばらくはこの街を離れるか」


そうするしかないと思った。

荷造りでもしようかと思っていたところで、ゴチンコのおっさんがひらひらと手紙を持って俺の所に現れた。


「おいタクト、お前宛に手紙だ。至急だってよ」


手紙を受け取った俺だが、俺に手紙なんか送る人物に心当たりはなかった。


「至急の手紙?なんだろう?」


「さぁな。俺は忙しいから戻るぞ」


こんな時期だから、最初は教会の罠かと思ったがすぐに違うと分かった。

封筒の表紙に書いてある達筆な文字。


「母さんからだ!」


俺はすぐに封を開けた。


「タクトへ

最近こっちに顔を見せない親不孝は、今は緊急事態だから多めに見てやる。

色々話したい事もあるが今は要件だけ話すよ。


まずセシリアについて。

ついさっき大聖堂に忍び込んで、今家に連れて来たから」


俺はそこまで読んで吹き出してしまった。


「はっ?母さんが大聖堂に忍び込んだ?しかもセシリアを家に連れて帰った!?」


信じられない事だったが、母さんはこんな冗談を言う様な人ではない。

とりあえず手紙を読み進める。

すると、これまでセシリアが大聖堂に閉じ込められていたこと、酷い仕打ちを受けていたこと、このままでは大司教と無理やり結婚させられてしまうこと等、悲惨な事実が書かれていた。


俺は情けなくて唇をグッと噛んだ。

セシリアのそんな状況に、今日まで何も気づけないでいたなんて……。

それと同時に教会に対する怒りが沸々と湧き上がってきた。

俺は体から殺気と魔力が漏れ出しそうになるのをグッと押し留め、手紙の続きを読んだ。


「ここまで読んだお前は怒りで顔を真っ赤にしてるんだろうけど、今は堪えな。」


母さんはエスパーなのだろうか。

全てお見通しのようだ。


「手紙に地図を入れといたからお前は地図の場所に一人で行きな。理由は行けば分かるよ。


それと、アリサに聞いたけど、そっちには結構いい人材がいるらしいね。


セシリアを匿っておくのと、教会をぶっ倒すのにこっちに少し人材を貸して欲しいんだ。

ブレーメンの子供達の話も聞いてる。

子供達は、そこにいるよりはこっちに来た方が設備もあるし、隠れるのにも安全だ。

ブレーメンの子供達も全員こっちに連れてきな。


てことでその子供達と、戦えなくてもいいから子供の世話できる奴を1人、あとはできれば頭のキレるやつを一人貸しておくんな。


アリサは連絡役としてそっちにいて欲しいね。

アリサとこっちにいる子の特殊な魔法を使えばすぐに連絡ができるからね。


よろしくね、バカ息子。



追伸 死んだらただじゃ置かないよ!


愛を込めて 母より」


手紙を読み終えた俺は、すぐに行動開始した。



セシリア視点


「手紙、送っちまったよ。本当に良かったのかい。タクトをこっちに呼ばないで」


「だってタクトは最大戦力でしょ。それに教会の狙いは私とタクト。私達2人はバラバラにしといた方がいいわ」


なんて理由をこじつけたが、本当はタクトに会いたくなかったのだ。


母さんや大勢の人が私のために動いてくれている。

それはとても嬉しいのだが、やはり無謀だ。

私は教会の恐ろしさを知っている。

しかし逆に教会の弱みだって分かる。


いざとなったら私が大聖堂に戻れば……それを交渉材料にして、他のみんなの命を助けてもらえると私は踏んでいる。


教会に戻る……。

きっとタクトの顔を見たら決意が揺らいでしまう。


「……」


私が黙り込んでいると、母さんは私をギュッと抱きしめた。


「……セシリア、あんたは昔から優しい子だよ」


急な母さんの行動に、私は照れてしまった。


「な、何よ母さん。急に」


「あんたは皆んなのお姉さんだったからね。欲しい物があっても他の子に譲って、一つもわがままは言わなかったね」


母さんは昔話をしただけなのに、なんだか全て見透かされてる様な気がした。


「悪かったね。わがままも言わせてやれなくて。どれ、母ちゃんがいい子のセシリアにご褒美でもあげようかね」


「こ、子供扱いし過ぎ!」


そう言って私が怒ると、母さんは嬉しそうに笑った。


「親にとってはいくつになったって子は子だよ」


「だからって、ご褒美って……」


私の言葉なんてお構いなしに母さんは続ける。


「あんたが本当に欲しい物なんて、分かってるよ」


そう言って母さんはヒラヒラ手を振る。


「さて、まずは相手の戦力をそぐかね」

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