第117話 お兄ちゃんは妹に欲情したりしないってマジですか?
ノエル、ユキちゃん、ウランちゃんと、三人だけでカオスな状況で大変なのに、妹のアリサが部屋に入ってきた。
俺はこの状況に頭を抱えた。
いや落ち着けタクト!
アリサは天使みたいな妹だぞ!むしろこの状況に助け舟を出してくれるかもしれない!
俺はアリサに落ち着いてこれまでの経緯を話そうとするのだが、何故だろう、アリサの表情から殺意の波動を感じる。
「あ、あ、あ、あ、アリサ……えーっとこれはだな……」
人を殺しかねない表情でゆらりと部屋に入ってきたアリサ。
「なんで?どうして?結婚なんて大事なこと、妹に相談もなく?」
そう言って俺に詰め寄る。
「え、えーっと、いずれ言おうとは思っていたんだが……」
俺は「元はと言えばお前の責任だ!助けろ!」という思いを込めて、ノエルの方をチラリと見たが、いつの間にかノエルは忽然と姿を消していた。
あの野郎!逃げやがった!!
「私ってお兄ちゃんにとってはその程度の存在だったの?」
そう言ってポロポロと泣き出すアリサ。
「ち、違う!アリサは俺にとって大事な妹だよ!」
「……嘘だ!」
「ほ、本当だよ!」
「嘘!じゃあ好きだって言って!」
「俺はアリサの事が好きだ!」
「好き?大好きじゃなくて?」
「だ、大好きだよ!」
「……じゃあ今度遊びに連れてってくれる?」
「あ、ああもちろんだよ」
「昔みたいに、夜寂しい時一緒にいてくれる?」
「もちろん」
「お兄ちゃん、私、欲しいものがあるんだけど?」
「な、なんだ?なんでも言ってみろ!」
「お兄ちゃんからもらった杖、壊れちゃった……」
「じゃ、じゃあ新しいの作ってやるよ!」
「あと指輪が欲しい……薬指につけるやつ」
「ゆ、指輪?魔道具かな?それも作ってやるから」
「あと最後にちょっとしたお願いなんだけど、私もお兄ちゃんのお嫁さんにしてくれる?」
「ああ、そんな事か、もちろん……ん?」
「やったー!!お兄ちゃん大好き!!」
そう言って飛び跳ね、俺に抱きつくアリサ。
「いや、ちょっと待ってくれアリサ!」
「お兄ちゃんは、アリサに嘘ついたりしないよね」
そう言ってアリサは目を潤ませて俺を見てくる。
「お、お兄ちゃんは妹に嘘ついたりしないが、お兄ちゃんは妹をお嫁さんにしたりもしないと思うんだが……」
「アリサはお兄ちゃんの妹だけど、血は繋がってないから大丈夫大丈夫!」
「ま、待ってください!ずるいですよアリサさん!私だってタクトさんのお嫁さんに!」
そう言ってユキちゃんが前に出てくる。
二人の女性に迫られ俺はタジタジになる。
「た、助けてください。ウランちゃん」
そう言うとウランちゃんは恥ずかしそうに手を上げた。
「す、すいませんタクトさん。その、私もお嫁さんにして欲しいです」
そう言ってモジモジしている。
「えっ?」
このままでは収集がつかない。
そう思った時だった。
ズキューーン
銃声が鳴り響き騒がしい部屋がシンとした。
「帰ってきてみればタクト様に三人で群がって、一体何をやっているんですの」
アリスがそう言って三人を責める。
ドタドタとギルドのホールから足音がして、ギルド長が勢いよくドアを開け入ってくる。
「コラァーアリス!またギルドで銃を撃ちやがったな!!」
そう言ってゴチンコのおっさんはアリスを怒鳴りつける。
「緊急事態だったんで仕方ないでしょ。またあのエルフの受付嬢が変な思いつきでタクト様を困らせていたのよ」
アリスがそう言うと、ゴチンコはユキちゃんの裁判長コスをまじまじと見つめた。
「そうか……それなら仕方ねぇか」
あれだけ怒っていたゴチンコのおっさんはスンとしている。
「え、待ってギルド長!私ってすでにそういう、トラブルメーカー的な扱い?」
ユキちゃんは予想外な自分の評価の低さに狼狽えている。
「ユキ、勤務中に遊ぶのも程々にしろよ。それとサボってた分と銃弾で穴空いたギルドの修理代は給料から引いとくからな」
ユキちゃんは飛び上がって驚く。
「フェー!!!なんでよ!ウランちゃんやアリサちゃんだって一緒に遊んでたのにー」
「うるさい。ほら、客が大勢来てるんだ。受付に戻るぞ」
そう言ってゴチンコのおっさんはユキちゃんの首根っこを掴みずるずると引きづっていく。
「ふぅえーん!こんな気持ちじゃ仕事なんてできないよー」
「しっかりしろ!ギルドの連中が、受付のお姉さんは美人で知的そうで、性格もいいって褒めてたぞ。お前がいないとやる気が出ないんだと」
「えっ?本当ですか?もう、仕方ないなぁーへへへ」
バタンとドアが閉まり、ユキちゃんが出ていくとウランちゃんは茹蛸みたいに顔を真っ赤にした。
「私としたことが、取り乱してしまって……タクトさん。本当にごめんなさい!!」
そう言ってウランちゃんも顔を押さえ部屋を出ていってしまった。
残されたのはアリスと妹のアリサだけ。
アリサもちょっと悪ノリしてしまったことを気まずそうにしている。
「お、お兄ちゃん。流れで言っちゃったけど、お兄ちゃんが作ってくれた杖、壊しちゃってごめんなさい。本当はちゃんと謝ろうと思ったんだけど」
アリサは小さくなってしゅんとしている。
そうだ!アリサは天使だったんだ!ちょっと忘れていた。
きっと杖を壊したことを気に病みすぎて、奇行に走ってしまったのだろう。
「むしろあんな子供の頃に作ったものをまだ使ってくれていて、お兄ちゃんは嬉しいよ」
俺はアリサの頭をなでなでする。
「じゃ、じゃあ怒ってない?」
「怒ってないし、約束通り、杖も今度作ってやるよ」
「本当に?やったー!」
喜ぶアリサを見て、俺はうんうんとうなづいた。
「じゃあ、結婚の話はまた今度。日取りとかちゃんと決めようね」
「うんうん。そうだな……ん?お、おいアリサ……」
「じゃあまたね!お兄ちゃん!!」
俺がアリサに何か言わんとするや否や、アリサは光の速さで部屋から去っていった。
俺はフーッとため息をつき、どかりと椅子に腰を下ろした。
なんか色々問題は残ったが、とりあえず修羅場は回避できた。
「助かったよ!ありがとうアリス」
アリスはお礼なんてと謙遜する。
「いえ、タクト様には命を救ってもらっていますからね。これくらいお礼を言われることではありませんわ」
そうは言うものの、アリスにはなんだかんだでいつも助けてもらっている。
「いや、前から俺がピンチの時にいつも助けてくれて……本当に感謝しているんだ。何かお礼をしたいとは思っているんだけど、何がいいかな?なんかあるか?」
そう言うと、アリスは唇に指を当てて、少し戸惑った様な顔をした。
気のせいか、少し頬が赤くなった様な気がする。
「も、もし、私が……あの娘たちと同じ様に、タクト様と……けっ……」
そこまで言ってアリスは言葉を止めた。
「やはりやめにします。お礼は結構ですわ」
「えっ?でも……」
アリスは俺に向け、らしくない無邪気な笑顔を見せる。
思わず俺はドキリとしてしまう。
「ウフ、欲しいものをそんな風に手に入れても面白くありませんわ♪きっと貴方様の口から言わせて見せます。だからその感謝の意は、私があなたの横に並べるくらい強くなるまで、貸にしときますわ❤︎」
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