第112話 タクト、ピンチってマジですか?

時間は少し戻り、ヨルとサヨの二人から襲撃を受け危機的状況の【ウラン】視点


……

……


「ええ。音を消す能力。飛んできた瓦礫を全て消し去る投擲能力。逃げる時に使った身体強化諸々、複数の気配を消すのも上級の盗賊スキルですよね」


そう言うと盗賊と言われたサヨはぷぅっと怒った顔を作った。


「違う。サヨ盗賊じゃないもん!」


怒っているサヨを宥めるようにヨルが笑う。


「ふふふ、そうですね。惜しいですがちょっとだけ違います。サヨのユニークスキルは盗賊ではなく、レアスキル『ニンジャ』ですから。じゃあ見せてやりましょうよ。サヨの素晴らしいスキルを!」


ヨルがそう言ったと同時に、サヨがこちらに走ってくる。

まずい。

魔法を使おうとしてもヨルに呪文を消し去られる。

体術では到底『ニンジャ』スキルを持つサヨには敵わないだろう。


どうにか逃げるしかない!


そう思ったその時であった。


ドゴォォォォン

という凄まじい音と同時に、空から何かが私の目の前に落下してきたのだ。


私を攻撃しようとしていたサヨは咄嗟に飛び退く。


「サヨ、大丈夫か?」

「うん、大丈夫だよ。それより」


私もヨルもサヨも、突然落下してきたその物体の方を見つめた。

すぐに土埃が晴れて、その正体が明らかになる。


「僕のタクトさんをいじめた子供ってのは、お前らか?」


ゾクリ


落下してきたのは物ではなく、青色のショートカット、天然パーマの可愛らしい女の子だった。

しかしその女の子は見た目の可愛らしさとは裏腹に、恐ろしい殺気と魔力を体に帯びている。

女の子は明らかな殺意をヨルとサヨに向けた。

殺意を向けられたのは自分ではないのにも関わらず、私はびくりと身震いしてしまった。


殺意を向けられた当の二人は、体を硬直させている。


「あ、相手は俺たちよりも子供だぞ。サヨ、心配するな。魔法は俺がキャンセルする」

「う、うんそうだよね!私より速く動ける子供なんてこの世界にいないもん!」


そう言ってサヨは青髪の女の子に向かって走っていく。


「遅いね」


いつの間にかサヨの後ろに回り込んでいる青髪の女の子。

「えっ!?」


青髪の女の子はサヨの顎をコツンと叩いた。

するとサヨはクラリと一瞬で意識を失い、その場で気絶してしまった。


「僕は子供じゃないよ。これでも26歳。そんでもって名前はノエル。タクトさんの正妻だよ」


タクトさんの正妻??

これはタクトさんが帰ってきたら問い詰めなくてはなりませんね。


「サヨ!」


一撃でやられたサヨを助けるためにヨルは呪文を唱え出した。

長く難しい詠唱を一瞬でやってしまうヨル。その手には大きな冷気の塊が完成する。


「いくらあなたの動きが速くてもこの魔法は近づくもののスピードを下げ、最終的にはあなたを氷漬けにする。ノエルさん。あなたが魔法を使ってこの呪文を相殺しようとしても私はその呪文の詠唱をキャンセルすることができる。この呪文が完成した時点で私達の勝ちです」


そう言ってヨルはメガネをクイっと上げてみせる。


「ふーん」


ノエルはそんなヨルの説明を気にする様子もなく、魔力を体に巡らす。


「無駄ですよ、詠唱はキャンセル……」


そう言ってヨルが詠唱キャンセルのスキルを使おうとしたのだが、ノエルは呪文を詠唱することなく、右手から禍々しい炎を発生させる。


「僕、魔眼があるから呪文の詠唱いらないんだよね」


「ば、ばかな……」


わなわなと震えるヨルにノエルは追い打ちをかけるように言う。


「これは魔界の炎。死なない程度には加減するけど……きっとめちゃくちゃ痛いから、覚悟してね」


「ひっ!」


ヨルはガタガタと震え、発動した氷の呪文を消した。


「こ、降伏する。なんでも話すし、俺はどうなってもいい。でも、サヨだけはどうか許してやってくれ」


そう言ってヨルはガクリその場に膝をついた。


ノエルは右手の炎を消した。

「じゃあそこのおねいさん。この二人拘束するから、手伝ってよ」


そう言って私に笑顔を見せて声をかける。

パッと見子供に見えたが、その顔つきは美しく、大人っぽさが垣間見えた。


私が説明を受けていないのだから、たぶんこのノエルってこの事は、ギルドのみんなは誰も知らないだろう。


「ノエルさんって言いましたよね?タクトさんの正妻って言いましたけど、それは本当ですか?」


「うん、あんなに熱いプロポーズを受けたら断るわけにはいかないよね」


そう言ってノエルさんは照れながらニコニコしている。


私と下ことが、嫉妬心がメラメラと燃え上がるのを感じた。


「私も、プロポーズされたい……」


「ん?なんか言った?」


「い、いえ、それより今からその二人を私たちのギルドに連れて行こうと思うんですが、ノエルさん、あなたがタクトさんの正妻って言うことは、ギルドではどうかご内密に」


「なんで?」


「えっと……多分タクトさんがもの凄く困る事になるからです」


タクトさんの事を大事にしているだろうノエルさん。

こう言えば多分言うことを聞いてくれると思ったのだが、ノエルさんはニヤニヤとイタズラな笑いを浮かべた。


「へぇー、タクトさんが困っちゃうのかぁ」


タクトさん、もしかしたら修羅場になるかもしれません。

ごめんなさい。

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