第110話

「ヒャッハァー!!やっちまうぜ!……風魔法最大奥義……砂塵大烈風!!!!」


そう言ってヒル君が出したのは、最初小さな砂嵐。

正直これが最強魔法?と最初は思った。

しかし砂嵐はどんどん近くの砂や石を巻き込んでいき、一瞬で大きな竜巻に成長してしまう。


「ラーチさんにはどんな魔法使ってもノーダメージだった。でもこれはどうかな」


竜巻に巻き込まれた大きな石や木材が一瞬で粉粉になっていく。

そうして粉粉になってできた砂がまた次に巻き込む物を粉微塵にして、さらに大きな竜巻になっていくのだ。


「なるほど、これは中々……」


感心した様子のラーチは、とりあえず竜巻を避けようとする。


「させるかよ!」


ヒル君が手を動かすと、砂嵐は向きを変えてラーチの方に飛んでいく。


「追尾も可能、スピードも速い……よく考えてある」


そうヒル君の魔法を賞賛しながらも、ラーチは嬉しそうに目を輝かせているように私には見えた。

ゾクリまた恐怖を感じる。


しかしそれは杞憂だったようだ。

ラーチは逃げ切ることができず、ヒル君の出した竜巻に巻き込まれた。


「やった!」


私は声を上げたが、ヒル君は楽観していない。


「まだだ!これくらいじゃアイツは死なねぇ!」


ヒル君は近くの建物の看板やら石やらをさらに竜巻に巻き込ませる。

魔力を大幅に使用しているせいだろう。物凄く辛そうな顔をしている。


「ひ、ヒル君……」


私はもう祈ることしかできなかった。

ギリギリの状態のはずなのに、ヒル君の魔法はなんと1分以上も続いた。


「うっし……ラーチの……魔力が消えた……これで……きっと……」


そう言ってヒル君はどしゃりとその場に崩れ落ち、それと同時に竜巻も消えた。

ヒル君は意識を失ってしまう。


「ヒル君!」


私はヒル君に駆け寄るがヒル君は返事をしない。


「嘘?だめ!息は……息はある!ヒル君!ヒル君!!」


私が必死にヒル君に呼びかけていると、砂埃の中から拍手が聞こえた。


「いやぁ、凄い!物凄い魔法だ!!俺の魔力の半分を使わせるとは!流石ヒル、やはり手駒として持っておきたい。連れ帰って呪いと洗脳をかけなおそう」


あれほどの魔法の直撃を受けたにも関わらず、ラーチは無傷で笑っているのだ。

こんなの絶望的だ……勝てるはずがない。

ラーチはゆっくりとこちらに近づいてくる。


私は意味の無い事と分かっていても、ヒル君の前に立ってラーチの行く手を阻んだ。

ラーチは舌打ちする。


「だから……お前ごときが俺を止められるはずがないだろ!」


ラーチは懐からナイフをサッと取り出し、私の方に向かって来る。

私もやられヒル君も連れて行かれてしまうと思ったその時、


「ガキィィィィィィィン」


ラーチのナイフは寸前の所で止められた。

私の目の前に立っていたのは……


「た、タクトさん!!!」


タクトさんがラーチを弾き飛ばしながら言う。


「ごめん、来るのが遅くなって。アリサから話を聞いて飛んできたんだけど」


これで助かる!私は安心して腰が抜けてしまった。


「なるほど、タクト……ね。俺の攻撃を簡単に防いだその動き……あんたがジェイドの正体って事で間違いなさそうだな」


「……」


「何も言わないってのは、肯定と受け取るぜ。それとも話す余裕がないか?そうだよな。一対一ならまだしも、後ろにお荷物2人抱えて戦うのはちょっと御前試合優勝のジェイド様でもきついよな」


タクトさんは表情を変えなかったが、ポタリと一滴汗を流した。

タクトさんが焦っている?

たぶんラーチの言ってる事は事実なんだ。


「クックック。俺も実力者を前に作戦練る時間作ってやるほどお人好しじゃないんでね!行くぞ!」


ラーチが攻撃をしようと走り出したその時だった。


「キュィーーン」


目にも止まらぬ速さの弾丸が何処からともなく飛んできて、ラーチは後ろに飛び退く。


「……チッ。何処から撃ってる?魔力感知もできないほど遠くからだな……こいつも、とんでもなく強いな……」


……

……

……

タクト達から数キロ離れた地点


「賢者の石を使った新型月季(ゲッキ)……新しい変形、波動狙撃モード。微調整が必要ね、狙いがまだ少しズレるみたい」


今しがたラーチを狙撃したアリスの後ろには縛られ簀巻きにされ、口に猿轡を付けられた女の子がいた。


他の者からアサと呼ばれている爆裂魔法使いのその天才少女は、地面に転がりながらアリスを睨みつけ、バタバタと暴れている。


「ウーウー!!」


「少し静かにしてくださらない?今タクト様の援護で私は忙しいの」


「ウー!!!!」


……

……

タクト視点


「あの弾丸……アリスか?」


そうだと言わんばかりに、二発目の弾がラーチのこめかみ目掛けて飛んでいく。


ラーチはそれをかわしているが、なんとも忌々しげだ。


「あー弾丸速度が上がってるし、狙いも正確になってきてやがる……流石に魔力半分使ってる状況でお前ら2人を相手にするのはきついわ……と、いうことで、俺は尻尾巻いて逃げるわ。じゃあなジェイド、次はサシでやろう!」


「ま、待て!」


と俺が声を発するやいなや、どんな魔法を使ったのだろう。

ラーチは一瞬でその場から消え去ってしまった。

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