第106話

ヒル視点


俺はジェイドの妹をそっと尾行した。

尾行はサヨの得意分野だったが、俺も負けないくらい尾行が上手いと自負している。

この間のSSクラスの賞金首も、俺の尾行に気づけなかったくらいだからな。


辛抱強く、ジェイドの妹が一人になるのを待つ。数十分後、ついにその時は訪れる。

女は王都を出て人気のない森に入って行った。


チャンスだ!


俺はそっと呪文を詠唱する。

足だ。足を狙って動けなくする。

そんで捕まえて大司教様に差し出せば、ご褒美が貰えるはず!


「切り刻め、真空の刃」


静かに呪文を唱えると、狙い通り俺の魔法は女の足下に発生し、女の足に大きな傷を付けた。

女はがくりと膝をつく。


「やったぜ!」


そう叫んだ事をすぐに後悔した。


女は膝をついてすぐに、持っていた杖を一振りした。

すると一瞬で俺のつけた傷が治癒していく。


「げげ!?マジかよ?聖女並みの回復魔法じゃねぇか」


声を出してしまったのでこっちの居場所が特定されてしまった。

不意打ちはもうできない。

また失敗かよ。


「尾行上手ですね。全然気がつかなかった。誰ですか、あなた?なんで私を狙ったんですか?」


女は驚いた様子も、恐怖している様子もない。

さすがジェイドの妹と言ったところだ。


「不意打ちが失敗したんじゃしょうがねぇ。俺はジェイドって奴に用があるんだ。大人しく捕まってくれ。仕事が終われば無傷で返してやるからよ」


そう言うと女はハッと目を見開いた。


「ジェイドを狙う金髪の子供で風魔法使い……♪よかったー、これでお兄様へのお土産ができたじゃない❤︎」


女は満面の笑みを浮かべる。


「は?お土産?」


「あなたを捕まえて連れて行けばセシリアお姉ちゃんに会えなかったのもチャラになるし、ご褒美にお兄様とデートもできる♪ああ、良かった」


俺の言葉など全く気にもしないと言った様子で、女は一人話し続けている。

もしかしてこいつ、相当やばい奴なんじゃ……。


「えい!」


女がそう言って杖を地面に撃ちつける。

よく見るといつの間にか地面に複雑な魔法陣が描かれている。

この一瞬で!?いつの間に!?


杖が地面に着いた瞬間、魔法陣から物凄いスピードで霜が走り、俺の方に迫ってくる。


くそ!油断した!避けられない!


霜は一瞬で俺の足下まで辿り着き、瞬時に両足を凍らせた。

身動きを封じてきたか。


こりゃまずいな。

そもそもジェイドの妹なんだぞ?

強いに決まってんだろ!

もっと警戒すべきだろ!

何やってんだ、俺!!


ジェイドの妹は、動けなくなった俺の所に、スキップしながら近づいてくる。


「良かった♪弱いやつで❤︎」


女がそう言った瞬間、俺の中の何かがプツンと切れた。


もうどうでもいい。

どうせこのまま帰ってもお仕置きくらうなら……生捕なんてやめだ!この女殺してやる!!



大司教の部下視点


大司教様は本当に恐ろしい人だ。

あのブレーメンの子供たちを物怖じすることなく叱りつけるなんて。

あんな化け物達の機嫌を損ねたら殺されるんじゃないかと私なら思ってしまう。


「大司教様、私は心配です。ブレーメンにあんなに強い口調で……いつか大司教様が殺されてしまうのではないかと」


私がそう言うと司教様は「ふっ」と鼻で笑われた。


「心配するでない。私には神の加護があるからな。絶対に死なん」


自信に満ちた表情、口調。もしかしたら大司教様のユニークスキルにその自信の秘密があるのかもしれない。


「でしたらいいのですが。ところでさっき叱っていた、あのヒルという子供をお仕置き部屋に入れるのですか?」


お仕置き部屋の担当は今月は私である。

大司教様に危険と私が判断すれば、お仕置き部屋で事故に見せかけて私の手で殺してしまおう。


「ヒルをお仕置き部屋に?行かせるわけないだろ?」


「では何故あんなに叱って次は無いなどと?」


「ああ、あいつはすぐに調子に乗るところがあるからな。あれくらい言っておかないと。あいつは追い詰められた方が力を発揮できるタイプだからな」


せっかく私が神の裁きを与えられる機会なのに!

私はなんとかヒルをお仕置き部屋に入れられないか食い下がる。


「あの子供は風魔法がユニークスキルですよね?正直代わりはいくらでもいると思うのですが……」


大司教様は渋い顔をする。


「残念ながら、いない。個人単体闘能力で言えば、ヒルの実力はブレーメンでも圧倒的1位だ。そう簡単に処分はできんよ。そしてあいつが本当に恐いのは窮地に立たされた時だ。キレたあいつは誰にも止められん」

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